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大戦乱記  作者: バッファローウォーズ
南攻北守
384/448

総大将就任

 マヤシィ、マヤメン、営水、ルーキン等が沛国の危機に馳せ参じた事は、遅れて出動した輝士隊の耳へ具に知らされた。


 彼等は海路をもって沛国の軍港を目指し、友軍による迎撃戦が終了した頃に上陸する。


「にぃに、おかーさん。涼周、ここでおとーさんと会った! ガブッてした! 涼周ガブッてした!」


 上陸後の進軍準備中。キャンディに手を握られた涼周が、その手を勢い良く振りながら、思い出話に花を咲かす。


 というのも涼周本人が述べたように、この軍港で涼周とナイトが出会い、洒落た表現をするならば、運命の歯が回った場所だった。


「……そう言えばそうだね。海に投げられた涼周を槍秀が救い出したとか何とか」


「ぅ、みたい。でも涼周、そこまで覚えてない。おとーさん噛んだ事しか覚えてない。だって噛んだら眠たくなったもん」


「ふははっ、食べた事だけ覚えてるのか。……まぁ、涼周らしいと言えばらしいけど、今度それとなく、槍秀にお礼を言っておきなよ?」


「ぅ、分かった! 蜂蜜持ってって一緒に舐める!」


「いや……蜂蜜は別にどうでも……まぁいいや」


 あの頃と今を比べて見たナイツは、目の前で無邪気にはしゃぐ弟が断然良いと思う。

思うからこそ、弟なりの感謝の仕方に任せる事とした。


 だが、それとは別でナイツには、涼周にちゃんと言わなければならない事もあった。


「話は変わるけど……涼周は本来、義士城で母上と一緒に留守番だったんだ」


「いや。にぃにと一緒、居る。営水やルーキン達の力、なる」


「そう、涼周は間違いなく、知らない間にコソコソと付いてくる」


「ぅにゅぅ……コソコソしてないもん……! にぃにの匂い追ってるだけだもん!」


「確かに童ちゃんの鼻は凄いですよねぇー。この間なんか、私の隠してたオヤツ取られたし。堂々とケーキ抱えて現れたんですよぉー。良い度胸してますよねぇー」


「ぅにゅにゅ! ねぇーー!」


 先日オヤツを略奪された事を、微かに怒るメスナ。

涼周のモチモチした頬っぺたをプニプニしたりツンツンしたりして、怒られている事を微塵も感じていない犯人にささやかな仕返しをして遊ぶ。


 そして二人が遊べば、当然の如くキャンディもそれに乗る。何処かのおとーさん大将曰く「うむ、当然である!」……だ。


 キャンディはメスナの発言にあった “良い度胸” と聞くや、都合良く文字を切り取って「良い胸」と解釈し、涼周の平らな胸にハイタッチ。そのままモミモミと揉んで豊胸を企てる一方、企みを勘ぐらせない為にコショコショの刑をまぜる。


 こそばゆく感じた涼周はキャッキャッ! と更にはしゃぎ、兄の話そっちのけでキャンディ及びメスナと遊び出した。


「…………メスナの災難は分かったけど、今は関係ないからね。叱るのも遊ぶのも、また後にしてくれる? それと母上も、セクハラ紛いな事をしないでください」


「あんだとーこの変態息子めー」


「俺が変態なら母上は大変た――」


「今日は誰かを打ち上げたい気分ねー。今夜のお星様は綺麗に輝くわよ、涼周」


「にゅふふ! お星様キラキラ! にゅふふっ!」


「ほら、涼周も喜んでるわよ。準備はいいかしら、お兄ちゃん?」


「……ごめんなさい。変態息子でごめんなさい」


「はふふっ、わかればよろしい。ご褒美に飴ちゃんあげる」


「あららー、若ったら飴ちゃんに負けちゃったかー。まぁ仕方ないです」


 呑気な三人を前にして、ナイツは呆れ顔を浮かべて見せた。


「……話を戻して…………取り敢えず今回は同行を許したけど、この戦はちょっと面倒な事になりそうなんだ。だから絶対に母上の傍から離れない、って約束する事。いいね?」


「ぅ、分かった。じゃあおかーさんと一緒ににぃにの傍に居る」


「うん、それが一番かもね」


 素直に了承した弟の頭を、ナイツは撫で撫でする。

涼周は更に上機嫌となり、兄の体に抱き付いた。


「……さて、それでは前線へ向かおうか。全軍、前進!!」


 妬みの視線を向けるキャンディを徐に無視して、涼周ごと騎乗したナイツは進軍を開始。

その戦力はナイツ・韓任・李洪・メスナの四将と、彼等に率いられる精鋭輝士兵一万。それに加えてキャンディと涼周の母子二人。

現状では、連合戦力を伴わない純粋な輝士隊と言えた。




 輝士隊が前線へ進軍する一方、律聖騎士団を退けた沛国・三葉連合軍も、激闘の熱が冷めやらぬ内に前線陣地を放棄して、内地側へと後退していた。


 勝利したにも拘わらず撤退する理由は、主に三つある。

一つ目は、北東側の前線陣地を陥落させた松唐軍に、背後を取られないようにする為。

南東陣地の奮迅が民の避難時間を充分に稼ぎ、その役目を終えた今、背後を脅かされる危険性を伴ってでも最前線に留まる必要はないのだ。

二つ目は、激戦に曝された結果、半壊状態と成り果てた南東陣地では、今後の激戦に耐えられる防御力が期待できないと判断した為。

三つ目は、マヤ家や輝士隊などの友軍と合流し、この戦の総代将を決める為だ。



沛国軍最終防衛拠点 累洙(ルイシュ)陣地


 二十一時。恭紳城と前線陣地の中間に位置する最終防衛拠点に、輝士隊一万が到着した。


「剣合国軍の皆様方。沛国全ての臣民を代表しまして、このオバインが、皆様の援軍に心から感謝いたします。真にありがとうございます」


 陣門の前まで出迎えに現れたのは、沛国軍の知将・オバインだった。


 ナイツはスッと下馬するや、向けられた謝辞に勇壮で返す。


「我々が来たからには、重氏や松氏の良いようにはさせません。守るべき国民の為、共に戦いましょう!!」


「頼もしき御言葉です。皆様の勇姿を見れば、我が兵達もこの上なく奮起するでしょう!」


「期待に添えるよう、全力を尽くします! ……それで、遅がけに着いておきながら悪いのですが……軍議を開きたいので、各軍の諸将を集めてもらえませんか?」


「ははっ。それでしたら、皆様既に集結なさっておいでです。早速ご案内いたします」


 オバインの案内のもと、ナイツ・李洪・涼周・キャンディの四名は本部大天幕へ向かう。

尚、韓任とメスナは着陣作業に当たる為、部隊の許へ残った。


「皆様、お喜びください。輝士隊の方々が到着なされました!」


 オバインを先頭に、ナイツ達は本部の天幕を潜る。

中にはオバインの言った通り、カタイギを始めとして、マヤ家兄弟や営水やルーキンなど、連合軍の主だった面々が勢揃いしていた。


「おっ、今度の大将様が到着されたぜ。へっへへへ!」


「えっ? 今度の大将って……まさか俺の事!?」


 久方ぶりの対面早々に、マヤ家を代表するマヤシィが驚きの第一声を告げた。


 ナイツは突然の事で困惑の色を示し、すかさずマヤシィに問い返す。

マヤシィは唯一言「そうだぜ」と答えると、弟のマヤメンに補足説明を促した。


「……唐突な兄で申し訳ありません。要は、この連合軍の総大将に誰が相応しいかを予め協議した結果、ナイツ殿をおいて他にいないという結論に至ったのです」


 沛国軍一万五千、グラルガルナ兵五千、涼周軍(三葉兵・豪族兵)七千、輝士隊一万。合計兵力が三万七千を数える連合軍。

てんでんばらばらに戦って済む軍勢規模でないだけに、総大将は必要不可欠な存在だった。


「武家の頂と言えるジオ・ゼアイの血筋、近年高らかに鳴り響く武名、大軍の統率に適した実力。どれをとっても総大将に相応しきものばかり。私達全員が、ナイツ殿の指示に従って戦いましょう」


「ちょっと待ってください! ここには俺以上の経験や実力を持ったマヤシィ殿や貴方がいるではありませんか!? それに、国防の主役は沛国軍。オバイン将軍やカタイギ将軍だって、大将に相応しい筈。俺みたいな若造では、皆さんの将は務まりませんよ!」


「いえ、ナイツ殿でなければなりません。上国の将という立場が士気の要を意味する事は当然ながら、それ以上にナイツ殿は、兵の心を買う術に長けております。こればかりは、私や兄上の実力や経験でどうにか出来るものではなく、持つ者に頼る他ありません。……偏に、『才能』という話です」


 淡々と反論するマヤメンに続いて、三葉兵を束ねる営水も発言する。


「……私達三葉の部隊やルーキン殿も、主と崇める涼周様が全軍の大将になれないなら、その兄であるナイツ殿を大将にするしかない……そう思っています。涼周軍の士気を保つ為にも、貴方に大将をやってもらう必要があるのです」


 小規模の戦争であれば、涼周が大将となって営水やルーキン達の士気を奮わせるだけで、彼の勢力だけの力で、敵を打ち破る事が可能だろう。


 然し、今戦に関してはその規模を突き抜け、魅惑の幼子大将による勢い頼みの戦法が通用するとは到底思えない。


 それ即ち、兄以上に兵の心を買う術に長けるだけの涼周では、今戦の大将は不向きである事を意味する。そうなれば当然、兄であるナイツが何とかするしかない。

営水が言いたいのは、要はそう言う事だった。


 そして、決断を迫られた当のナイツだが、彼は一拍置いた後に意を決する。


「…………分かりました。皆さんからそこまで言われては、お受けしない訳にはいきません。このジオ・ゼアイ・ナイツ、全身全霊を込めて総大将の責務を全うします!! 若輩故に迷惑を掛けるでしょうが……宜しくお願いします!!」


 諸将らに請われる形で、ナイツは初陣以降初めての総大将任命を受けた。

副大将にはオバインとマヤシィが、参謀にはマヤメンと営水が就き、キャンディと涼周は個人的にナイツを補佐。輝士隊の諸将はナイツ直属の将校として戦いに専念する。


 こうして、連合軍の戦闘態勢は万全に整った。


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