表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
大戦乱記  作者: バッファローウォーズ
南攻北守
379/448

大剣豪 ファーリム

 ファーリムの勧めもあって半ば強制的に一騎討ちを一任された價久雷は、そのファーリムを相手に善戦するものの、完全に遊ばれていた。

大小いずれの攻撃も軽く流され、掠りともしなかったのだ。

寧ろ、反撃の太刀を一方的に受けるほど押されていた。


「價久雷殿! 加勢します!」


「蝶歌殿、気を付けられよ! 生半可な相手ではないぞ!」


 そこへ態勢を立て直した蝶歌が追い付き、ファーリムの左へ回って挟撃しようとした。


 それに対し、メイセイがすかさず援護を名乗り出る。


「ファーリム、二対一だが大丈夫か? やはり俺が片方の相手をしてやろう」


「はっは、二対一で結構!! お前が相手すれば本気で殺しかねんからな!!」


 然し、ファーリムに関しては余裕たっぷりな笑顔で断った。

一人の方がやりやすく、お前は加減を知らんから殺ってしまうだろう……と。


 そう返されれば、「ならば好きな様にやれ」とばかりに、メイセイも前にのみ集中する。

因みにこの時、残るナイトとバスナに関しては、ファーリムならば一人で充分と理解していた為、別段気にかける様子はなかったという。


「おし! それでは二人同時に掛かってこられよ! 殺意の程度はお任せ致す!」


「……なら遠慮なく!! どうなっても知らないからっ!!」


 價久雷より繰り出された大剣を軽々と弾き返し、即座に軽い一撃を叩き込みながら、敵将二人に連携と挟撃を促すファーリム。


 言われるまでもない! とばかりに全速疾走する蝶歌は、價久雷の態勢立て直しを見計らって大薙刀を振りかぶり、心身ともに魔力で強化された一撃を放つ。


 價久雷も姫大将に合わせる形で大剣を繰り出し、守りの型さえ崩しかねない程の破壊力を秘めた攻撃を見せた。


「フッ――ハァァッ!!」


 然し、それでも二人の刃はファーリムに届かなかった。

三日月状の弧を描く左切り上げで大薙刀を弾き飛ばし、頭上の位置で手首を捻って瞬時に構え直すや、右方への切り払いで大剣を粉砕するとともに價久雷へ一刀を叩き込む。


 價久雷と蝶歌が戦闘不能に陥ったのは時にして一瞬未満の一閃であり、何を隠そう挟撃される状況下のファーリム本人が、列国に名の知れる猛姫と猛将の本気を前にして微笑を浮かべていたのだ。


(っぐうぅ……!? ……價久雷殿と挟んでも、傷一つ付けられないって……どういう事よ!?)


 空中へ放り出される寸前の得物を伝って、蝶歌の全身へ高圧電流がごとき激痛が迸った。

彼女は内側から圧迫されるような胸の苦しさに顔を歪める傍ら、全ての衝撃を含んだ得物が手から離れていなければ、死んでもおかしくなかったと確信する。


(ちぃぃっ!? 武神将・ファーリム、化物か……こいつ……!?)


 一方の價久雷は、蝶歌以上の剛力が災いして大剣を無理やり手元に残してしまい、殺人的な衝撃波を外へ逃がす事ができずに、体一面に浴びていた。


 しかも彼に至っては、左腹部の側面を鎧ごと抉られている。

勿論、ファーリムの一閃によるものだ。


「なっ……何が起きたのだ!? 姫様の強攻撃が、弾かれたというのか……!?」


「か、價久雷将軍っ!? 大丈夫ですか!?」


 手練れの二人だからこそ、自分達がどの様にあしらわれたかが分かるものの、実力が遠く及ばない兵士達にとっては稲妻のような出来事である。

見ようとしても見る事が叶わず、理解しようとしても非現実過ぎて理解できない。


 彼等にできることは、ただ将の身を案じる事だけであった。


「はっはっはっ!! よく分かっただろ、俺達とお前達の差が! そして良く分かったなら、今後は消極的に動いてくれ。何せ、俺達はお前達を切りたくない。そちらにも事情がある事は知っているが…………なぁ、我らが御大将?」


 痙攣する蝶歌と價久雷へ追撃を掛けるでもなく、剣をゆっくりと肩にかけるファーリム。


 そんな彼から突然話題を振られたナイトも、前面に立ちはだかった護増国騎兵の小隊を無力化したばかりであった。


「あぁ、正しくファーリムの言う通りだ! 俺達は両国を苦しめたくない!! だからもう退くのだ!! ここまで追った上で負傷すれば、覇攻軍への義理も立とう!! 覇梁とて筋は通す男! 戦えぬお前達に無理は通さん筈だ!! 最低軍師の黒染も死んだ故、あとはウォンデにでも戦わせればよい!!」


「…………ちくしょう……! 仇敵に情けをかけられるなんて……」


 得物を失ったばかりか、体に力も入らない状況では、如何に想いが強かろうと無力。

というより、揺れる馬上で態勢を維持するだけでも精一杯なのだ。とてもじゃないが、戦いどころではない。


 蝶歌と價久雷は戦線離脱もとい追撃の中断を余儀なくされ、歯を噛み締めて悔しがる。


「見ろ! 迎えの部隊が来たぞ! あれの隊長は亜土雷! あいつは本当に容赦がないぞ!」


 追撃側を逆に追い立てる様に、バスナが前方を示す。


 皆が彼の声に反応して遠くを見れば、確かに篝火の群れが確認できた。

それなる存在はバスナが言った通り、情け無用の亜土雷隊。敵に事情があろうとも関係なく、敵ならば敵と捉えて刃を振りかざす生粋の仕事人集団だ。


「……蝶歌殿、もはやこれまでだ……撤退しよう」


「くっ……剣合国軍め……! この程度の情けで、あたしらが恩を感じると思うな……!」


 ファーリム一人に重傷を負わされた上で、新手の相手なんかできる筈がない。

冷静を取り戻した價久雷が率先して撤退を進言し、彼の傷を案じる蝶歌もやむなく従った。


「者共……撤退だ! 陣に退いて、態勢を……立て直す!」


 号令を下す價久雷は、護衛兵の補佐を受けながら馬首を返した。

蝶歌も全身の痺れに震えながら体に鞭を打ち、自力で反転する。


 こうして蝶華国・護増国連合部隊は追撃を断念し、それぞれが自らの陣地へ撤退した。


 そして彼等の後ろ姿を見詰めるナイト、ファーリム、バスナ、メイセイの四名は、その場で亜土雷を待つ間、思い思いの事を語り合う。


「蝶華国……護増国…………かつての剣合国に苦しめられた者達。彼等は今尚、過去の惨禍に苦しめられているのだな……」


 誰に言うでもないナイトの呟きに、バスナとファーリムとメイセイが続けて反応する。


「……特に蝶華国の連中だな。彼等が剣合国へ向ける憎悪は半端なものではない。同国に生きる者が俺達を認めるのは……大分先の事だろう」


「だが、そうと言って今を生きる俺達が、何もしない訳にはいかんよな。憎まれ口を叩かれようと、少しずつ少しずつ……歩み寄っていくしかない」


「行動あるのみだ。奴等の境遇を哀れむ暇があれば、さっさと覇攻軍を滅するのみ。そうすれば、少しは交渉の余地も生まれるだろう」


 皆の考えは同じだった。逆を言えば、考えが同じからこそ、今夜の作戦に参加したのだ。


「……ふっ、だがまぁ、この作戦を安楽武がよく認めたものだ」


 バスナが鼻で笑う。呆れの苦笑ではなく、愉快の笑みだ


 それに対してはファーリムが同様の色を見せて答える。


「軍師も考えている事は同じなんだろ! 立場で反対せざるを得なかっただけで!」


 ナイトが「買い物に行ってくる!」みたいなノリで「砦を襲撃してくる!」と発表した時、安楽武は危険だとして反対した。

だがそこでファーリムとメイセイが便乗した為、バスナにお目付け役という名の貧乏くじを引かせる事で承諾したのだ。


「……時にファーリム。安楽武と同等の地位や権限を持つお前が、何故ナイト殿を止めなかった? まさかそれすらも、俺に回すつもりではなかっただろうな?」


「そんなもの、大将の策が面白そうだからに決まっているだろ!!」


「……そうだろうな、とは思っていたが……まさか本当にそうだったか」


「はっはっはっ!! かくいうバスナも、人の事は言えんと見た!」


「……まぁな。覇攻軍のみに大打撃を与えるなら、俺達が動くしか方法はないと思っていた矢先の事だったからな。立場を思えば中々と提案できぬ事を、まさかナイト殿本人が言ってくるとは……流石と言わざるを得ん。

――その上で更に言えば、これほど上手くいくとは思わなかった。蝶華国軍も護増国軍も、将が負傷しては戦どころではあるまい。間違いなく敵の戦力は半減した」


 バスナの意見に、他の三人も頷いて返す。

結果論ではあるが、魔人の剣豪が四人も出撃したのは、安全面への効果以上に、敵の魔人を減らす大戦果に繋がったのだ。


「うむ、バスナ大通りである。覇梁とて、半分の戦力で決戦は挑まぬ筈だ! これで暫くは築城に専念できるだろう!

――さて、それでは皆の許へ戻るとするか!!」


『おぉっ!!』


 覇梁やガトレイの率いるサキヤカナイが援軍として到着する前に、覇攻軍連合の気勢を削ぐ事に成功したナイト一行。

彼等は安楽武が寄越した亜土雷隊と合流するや、意気揚々と南亜へ引き返した。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ