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大戦乱記  作者: バッファローウォーズ
南攻北守
377/448

蝶歌出撃

 楡函(ユカン)砦西 蝶華国軍陣地


 警戒の緩まっていた覇攻軍・蝶華国軍・護増国軍の将兵は、砦の内部で突如発生した大爆発と、それに伴う轟音に度肝を抜かされた。


「姫様! 砦です! 砦の方から黒煙が上がっておりますぞ!?」


「言わなくても見えてる! ……間違いなく、何かが起きたのよ」


 蝶華国軍の副将を務める老将校が、蝶歌に次いで物見櫓に登るや否や、東に見える楡函砦を指差して動揺の声を上げた。


 片や孫ほどの年齢の蝶歌は、早くも冷静を取り戻していた。

彼女は勇猛果敢にして勝ち気な性格の豪胆家であり、歳不相応に肝が据わっていたのだ。

更に言えば、彼女は一軍の大将として皆を率いる経験からも、滅多な事では動じない精神が培われていると言えた。


 蝶歌は狼狽える部下達を他所に、砦や砦周辺の気配から大まかな事態を推測する。


(……周辺に敵の気配はないし、巡回組の報告もない。つまり敵の襲撃じゃなくって、覇攻軍内での不祥事だろうね……)


「状況の確認に向かう! 騎兵百名、あたしに続けっ!!」


「のぉぉっ!? ひっ、姫様ァ!?」


 考えること十数秒。敵との遭遇はないと判断した蝶歌は直ちに動く。

手摺を飛び越えて櫓上から華麗に飛び降り、下に控える白馬に跨がるや、またしても度肝を抜かされた老将校や兵士達を無視して駆け出した。


「ひーめーさーまァーー!! 百騎ではあまりに危険…………えぇい、聞いておられぬわ! お前達、急いで姫様の後を追え! 何かあっても必ず御守り致すのだ!!」


『オォッ!!』


 老将校の指示を受けた三百騎の精鋭兵が、蝶歌の護衛兵に続いて出撃する。


「残る全ての兵士も叩き起こせ! 緊急態勢を取り、警戒と守備を強化するのだ! それと千名の機動組も作って砦の加勢に向かわせろ!」


 老将校の経験値は蝶華国軍随一であり、彼は「蝶歌を支えねばならない」と思う程に、真価を発揮する人物だった。

偏に、蝶歌もそれを知っているが為に、気後れなく出撃できるのだろう。




 一方、砦の内部では、脱出を図るナイト達が派手な敵中突破を試みていた。


「ぐわぁぁーー、むねーーーん、みなにあとをまかせておれはいくぅーーーー」


「将軍ーー!?」


「おぅ、今のは砦の将軍だったか! これは惜しい事を! 討ち取れば良かったな!!」


 出会い頭にナイトにビンタされ、砦の外へ吹き飛ばされた男は、この砦の将軍であった。

その将軍の情けない悲鳴と、兵士達の動揺が、砦陥落を半ばほど意味するだろう。


 ナイト一行は予期しなかった好機を得て、一気に敵兵の群れを蹂躙する。


「ふんっ! 雑魚が群れるな!! この飛雷将にかかれば雑魚の卵に他ならんっ!!」


 先駆けは飛雷将・メイセイ。湾曲した大剣を豪快に乱舞させながら前進する様は、通り魔化した阿修羅の如し。一兵卒が幾ら束になろうが、敵う存在ではない。


「銃だ! 銃で遠巻きに殺――ぐはぁっ!?」


「こっ、こいつ!? いつの間に――ぃぎゃあっ!?」


「……殿(シンガリ)は俺の役目でな。そう易々と大将首は狙わせんぞ」


 側面の守りはバスナが担当し、離れた所から狙う銃兵を神速の切り込みで完封する。

尤も、メイセイと先陣を競い合うナイトには、前後左右の守りなど不要に近いが。


「そぉれ馬寄越せェーー!! ……皆、馬譲ってもらったぞ!! 乗れ乗れェ!!」


 逃走用の馬は現地調達につき、ファーリムが覇攻軍騎兵より譲り受ける(強奪とも言う)。


「よぉーし、ファーリム、メイセイ、バスナ! さっさとずらかるぞっ!!」


『オォォッ!!』


 ファーリムの威圧感に負けて気を失い、落馬した数十人の騎兵を他所に、ナイト達は選び放題な馬ちゃんパカラッパカラッ! の中から一瞬で駿馬を見抜いて騎乗する。


 そして流れる様な動作で軽快に駆け出し、動揺極まる覇攻軍兵の真っ只中へ突入。人外の武力を遺憾なく発揮して、崩れた群れを更なる衝撃で突き崩す。


「そぉらっ!! 道を開けろぉーー!! パパ上達のお通りだぁーー!!」


「ひぇぇ……!? だっ、ダメだ! とても敵わねぇー!?」


「将軍だってやられたんだ! 俺達だけでどうしろって言うんだよ!?」


「た、隊長!? 何処へ行くんですか!? 指揮をお願いします!」


 雑兵もとい小・中隊長の中に、「我こそは」と阻む者は誰一人としていなかった。

何せ、不在となった将軍に代わって指揮できる将校すら逃げ惑う状況だ。最前線に立つ兵達に至っては、戦闘放棄もやむ無しと言える。


「通らせてもらうぞ! ハァァッ!!」


 四人の突破劇は精鋭部隊の総突撃に匹敵しうる豪快さを誇り、先駆けを果たすメイセイは大剣を一振りして斬撃を生み出すや、巨大な鉄扉門を粉々に粉砕した。


 その光景を目の当たりにした覇攻軍兵は、皆が一様に青ざめ、戦意を喪失する。

馬の準備はあれども、背を向けるナイト達を追撃しようとは思いもしなかった。

彼等は圧倒的が過ぎる武力を前にして完全に畏縮し、大胆不敵も過ぎるナイト達に感服の念すら抱いたという。




 丁度その頃、西側の陣地を出た蝶歌と護衛兵達は、砦の近くまで来ていた。


「何者かの襲撃だ! 気を引き締めて当たれ!!」


 砦へ近付くにつれて交戦の気配を強く感じ取った蝶歌は、メイセイが派手に轟かせた破壊音で敵襲を確信した。

彼女は馬を速めて迅速な入城を狙い、精鋭騎兵達も警戒を一層強めてひた駆ける。


「……ん!? 姫様、お待ちを! あそこに居られるのは確か……!」


 その最中、一人の騎兵が右斜め前方に槍を突き出し、薄闇に包まれる草地の中を示した。


「……あれは…………将軍・杜唔(ドゴ)!? 何故こんな所に埋まって……!?」


 蝶歌や他の護衛兵達が先を急ぎながら目を凝らせば、視線先には下半身を土中に埋められた砦の将軍・杜唔が、虚ろな眼差しで此方を見ていた。


「うぅぅ……漢ビンタ…………最高……!! ぐふっ……!?」


「…………はぁっ? 今なんて? 男のビンタ最高? …………何か変な物でも食べた?」


 駆け寄ってやれば、そこに居たのは半ば精神に異常をきたしたであろう廃人寸前の抜け殻一歩手前にある元将軍の哀れ極まりない姿であった。


 蝶歌は彼からの情報収集は難しいと見て、五人の兵士を介抱に残して先へ進む。


 この間にも老将校が続かせた後続の兵が追い付き、蝶歌隊は四百騎程になっていた。

彼等は勇将・杜唔(ナイトに立ち向かう程に勇敢な将軍だったが、それが災いして最悪な結果を招いた)の変貌ぶりから、砦で起きている変事はただ事ならぬと気を引き締め直し、改めて爆音のした北門へ向かう。


「……むっ!? 姫様、北門から四人の男が出て行きましたぞ! あれは…………えっ!? ジオ・ゼアイ・ナイト!? いや、剣合国の大将がそんな筈は……!?」


 そして、蝶歌隊が砦の北西を駆け抜けようとしていた頃、敵中突破に成功したナイト一行が、北門からタイミング良く飛び出した。

常識的に考えれば、大国の大将自らが破壊工作の為に敵の拠点へ乗り込むなど、到底有り得ない状況だ。


 だが、実際に目の当たりにしては、信じれずとも信じる他はなく、蝶歌の護衛兵は激しく動揺した。

もしも本物のジオ・ナイト・ナイトならぼ、噂以上に大胆不敵が過ぎる……と。


 だがやはりと言うか、若くして大将代理を務める豪胆家の蝶歌は冷静であり、彼女は部下を沈静化させると共に勇然たる攻撃号令を下す。


「本人かどうかは刃を交えれば直ぐに分かるし、狼狽してる砦から逃げようとする奴なんて敵意外の何者でもない! みんな、行くよっ!!」


『オォォーーッ!!』


 姫大将が先駆けを果たし、彼女に鼓舞される形で護衛兵達も鬨の声をあげた。


 それに伴って、蝶華国騎兵が駆るトーチュー産の軍馬も戦の気配を肌で感じ取り、熱を帯びるや自然と足を速めて見せる。

蝶華国騎兵は、その差を理解して活かせる熟練者ばかり。必然的に蝶歌隊とナイト一行の距離は縮まっていく。


「……やれやれ、蝶華国の精鋭騎兵か。骨の折れる奴等がお出ましだ。やはり、そう簡単には逃がしてくれんよな」


「なぁに、さして気にする程でもない! 俺が軽く撫でてやれば、直ぐに退散する筈だ! バスナとメイセイは大将の脇を固めてくれ!」


「……ファーリム。かなーーり優しく……で頼むぞ」


「はっはっ……了解ィ……!!」


 馬速を緩めて最後尾に回ったファーリムが、ナイトの忠告を受けてニヤリと笑った。

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