爆発ダッシュの漢達
楚南 楡函砦
深夜。蝶華国・旧護増国連合軍は、進軍の疲労が祟って深い眠りについていた。
しかも、それは彼等だけの話ではない。砦内に籠る覇攻軍一万に関しても、前述の二軍と同様の状態にあった。
援軍の到着で気を緩めてしまった上、南亜に駐屯する剣合国の大軍にも動く気配がなく、仮に奇襲されても外の友軍が盾になってくれる……と、高を括っていたのだ。
その怠惰と悠長が、最悪な事態を招くとも知らずに。
「っ!? 敵しゅ――!? …………」
(…………よし、いいぞ。入ってこい)
俊敏なバスナが先駆けを果たし、火薬庫の警備兵を音もなく排除した。
彼は無言で手を振り、外で待機する仲間達に侵入を促す。
「ところでメイセイ。『松明千本火事のもと』という諺を知っているか? 松明が千本も集まれば、それは火事が起きても不思議ではない状態だという。何故だか分かるか?」
堂々と侵入してくるナイトが不意に声を出し、堂々と後に続くメイセイへ尋ねた。
いきなり何のこっちゃとばかりに、メイセイは怪訝な表情を浮かべるものの、彼は至って真面目に答えてやる。
「……何故も何も、答えは決まっているだろう。火を扱う物が千本も集まっているのだから、存在そのものが火事であって当たり前だ」
「うむ、正しくメイセイ大通りだ。一本で充分な所に千本も用意するようでは、用意周到を通り越して「要らぬ松明の皮算用」と言えるな!
――では次にファーリム。「萌え」という嗜好文化は知っているか? 何でもカイヨーの民の間では、可愛い存在に向けて「萌え萌えキュンキュン!!」と言って崇めるらしいぞ」
「燃え? きゅん? ……ふむ、始めて聞いた文化だな。……あくまで個人的推測になるが、おそらくは燃える様な情熱で可愛い子を支持する行為を言うのだろう。支持された可愛い子が笑顔になり、それを見ることで支持した側の心もときめく……と。要は互いを尊重し合う文化ではないだろうか?」
「うむ、聞くだけでも相当素晴らしい文化だな。流石はカイヨーの民達だ。彼等の結束力の源は、きっとそれに違いないぞ!」
「おぉっ、成る程! これは俺達も負けられんな! 南亜へ戻り次第、官民一体となれるような良き文化と、それの発信方法について考えるべきだろう!」
「おぅ! 正しくファーリム大通り!」
「……ところでナイト殿。前々から気になっていたが、その “大通り” とは何の意味だ?」
「特に意味無し! 強いて言えば、「誰々の言う通り」という言い回しに飽きたのだ」
「そうか、分かった。ナイト大通りナイト大通り」
「おぅ! メイセイ大通りメイセイ大通り!!」
腕を組ながら、堂々と横に広がるナイトとファーリムとメイセイ。
通称「ナイトと愉快な仲間達」だ。
彼等は敵地の真っ只中にあっても遊び心を忘れず、それでいて大人の男に相応しい威風を放ち、所作の一つをとっても隙がない。
正しく、「剛」と「柔」を兼ね備えた英雄の姿であった。
「……あのなお前ら……少しは緊張感というか……静かにできないのか?」
だが、常識人かつストッパーのバスナは、そんな仲間達を見て甚だ呆れる。
それも当然の事だ。何せここは敵地の真っ只中で、今はまだ潜入に成功しただけ。
これから破壊工作と逃走の準備をする必要があり、泥棒同然の言動をすればこそ、盛大に談笑するべきではない。
「ふっははは。安心しろバスナぁー、俺達が騒ぐ分をお前が静かにしている」
「仮に見付かっても、その時はその時だ! 派手な方法に変えれば良い! だろ、バスナ!」
「漢たるもの、常に堂々とあるべきだ。潜入先だろうと何だろうと関係ない。……それと余計な世話かもしれんが、あまり細かい様では禿げ散らかすぞ」
「…………本当に余計な世話だ。この甘党眼帯め」
物音一つ立てるだけでも憚られる状況でありながら、三人の漢達はズカズカと進む。
バスナは何を言っても無駄である事を改めて察するや、メイセイに言い返すだけ言い返した後、心の中で次の一言に纏めた。
「剛毅・豪胆とアホは紙一重」……と。
まぁ、彼等はそんな感じで火薬庫を楽しく詮索し、暫く見て回った後に場所を定める。
「…………よし、この辺りにしておこう。ファーリムは準備を手伝え。メイセイ殿とナイト殿は周囲の警戒を頼む」
「おぅ! 手元が暗くて見えない時は言えよ。俺が肉体美を披露して発光してやるからな!」
「止めろ。いいか? 絶対にするなよ。敵に見付かるから絶対にするなよ」
「フリか? それは盛大なフリか?」
「フリな訳があるか。あんたの遊びで失敗したら、秘蔵の饅頭食い散らかすからな」
「分かった分かった。さっ、ちゃちゃっとやってくれ!」
「……本当に分かったんだろうな……」
バスナとファーリムが導火線を設置する一方、ナイトとメイセイは索敵に専念する。
然し、警戒するだけなら、意識を研ぎ澄ませて気配を探知するだけで充分であり、ナイトとメイセイには朝飯前。つまり起床時の寝惚け眼でも役目は果たせるということ。
そうなれば、必然的にナイトの半分くらいが暇になるため、彼は結局発光した。
主張する肉体美を輝かせ、バスナとファーリムの手元を明るく照らす。
「どうだ? 明るくなった――ろぉう成金っ!?」
「止めろと言ったろうが……!」
腹部に肘鉄を食らわして制止するバスナと、集中力が切れて発光が中断されたナイトと、それを見て笑うファーリムと、黙々と真剣に警戒するメイセイの図が出来上がった。
「ふっははは! ……さてさて、派手に燃えてもらおうか!!」
その数分後、準備が整うやナイトの着火号令が下り、バスナが導火線に火を付ける。
『逃げるぞっ!!』
着火とほぼ同時に、ナイト、ファーリム、メイセイの三人が口を揃えて踵を返し、バシュンッ! シュシュンッ! ドピュンッ! と、残像を生み出す程の初速で離脱する。
尚、ナイトとファーリムの残像は、こんな時でも腕相撲に興じていた。
それに一瞬遅れて続くバスナは、前述の三人に対してこう思ったという。
(……無駄に早い……。絶対狙ってただろ……)
無駄のない無駄な動き……とは如何に。
推して測るならば、それは余裕であるとともに、一摘まみの遊び心だろう。
「ふっははは! 駆けて駆けて駆け抜けるぞぉぉーー!!」
兎に角、ナイト達は疾風の如き速度で火薬庫を後にする。
後ろに大爆発が控えている為、砦からの迅速な脱出の為…………その場のノリで、誰が真っ先に城門へ辿り着くかを競う為。
「いけいけ突! 突! 突!! 武神将一番乗りィーー!!」
「何をっ!! この飛雷将こそ一番乗りに相応しい! たとえ二人だろうと先陣は渡さんぞ!!」
「おいファーリム! わざと肩を当てるな! 走りにくいわ! メイセイ殿も肘を当てるな! っていうか二人して俺を挟むなっ!! 邪魔だぁぁっ!!」
「ふっはははははは!! 行くぞ行くぞ行くぞぉぉーー!! そぉーーれっ――」
『うおらあぁぁーーーっ!!!』 ドガガガァァーーーン!!!
歓声を上げる四人が一斉に飛び出すと同時、ナイト曰く「豪勢な花火」が火を吹いた。
砦の内外に響き渡る轟音と太陽を思わせる閃光を背景に、子供然とした純真無垢な笑顔を浮かべて飛び跳ねる、愉快な仲間達の図。
それは何とも遊び心に満ちたもので、大国の大将や将軍達の姿とは思えない「豪気なる美」を誇っていた。




