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大戦乱記  作者: バッファローウォーズ
南攻北守
374/448

透晋会戦 業火と相殺の覇攻軍

覇攻軍領西部・透晋(トウシン) 覇攻軍 対 アレス軍の戦場


 楚丁州戦線にナイト本軍が着陣した頃。

同時進行で透晋に攻め入ったアレス軍八万は、覇梁(ハリョウ)率いるサキヤカナイ五万と一進一退の激戦を繰り広げていた。


「攻勢を緩めてはならんて。第三波を繰り出せぇい!」


 アレス軍の総代将は「黒巾の大宰謀」こと、アレス・エソドア。

彼はアレス家三男の弟・テソロを副将に据え、彼とよく連携を図る事で、盲目を思わせぬ苛烈な猛攻を見せた。


「重装予備隊三千、左側面に出て敵の新手に強襲を仕掛けよ。うぬ等の武勇を以て、白眼の大将どもを一蹴するのだ」


 対する覇攻軍は総大将を覇梁、副将に六華将・烓輜(ケイシ)という陣容で迎え討ち、数に劣りながらも見事な奮戦を示す。

偏に、大将である覇梁直々の指揮が、サキヤカナイに好影響を及ぼしているのだ。


『『ウオオオオォォォォーーーー!!!』』


 両軍の武力は激突から四日が経過しても拮抗状態にあり、予断を許さぬ戦況が続いた。


 用兵の玄人・エソドアと、剛勇の覇梁。

両者が名の知れる実力者であるがゆえに、演じられる死闘の質も極めて高い。

局所的な一勝一敗が価値のある戦闘の結果であり、勝って誇れると同時に、負けても貶されるどころか敵ながら天晴れと言える程の、勝利に遜色ないものばかり。


 正に、両軍の運命を決する大戦と称しても過言ではなかった。


「…………見せてやれ、烓輜。うぬが十八番とし、うぬが最も嫌う業炎の惨禍を」


 然し、この戦の決着は存外呆気ない形でつくのだった。


 それは開戦五日目の深夜に起きた事。

無表情で本陣に構える覇梁が戦場を眺めながら呟いた頃、時を同じくして六華将の烓輜が、ある人物の案内を元にアレス軍の心臓部を捉えていた。


「……あれに見えるが敵の兵糧陣地。よく見付け出してくれた。流石は音に聞こえし鈴木金兵衛(スズキ・キンベエ)。やる時は敵味方を驚き殺す程にやる男……見事なり金兵衛とは其方を言おう」


「うーーっす。柄にもなく頑張った甲斐があって良かったっすよ。…………じゃ、ちゃちゃっと殺っちゃいましょうか」


 知勇兼ね備えた六華将・烓輜の傍にあって、今しがた褒められたにもかかわらず、やる気に欠けた反応を返す若武者。

何を隠そう十ヶ(トガゴウ)鈴木家の三男・鈴木金兵衛。


 彼は紀州征伐によって十ヶ郷を追い出された鈴木家残党とは別行動で参戦。兄の重秀(シゲヒデ)に劣らぬ索敵能力を遺憾なく発揮し、覇攻軍が見付けられなかったアレス軍の兵糧貯蔵地を突き止めたのだ。


「……暫し、待て。この光景は絵になろう……燃ゆる前の、安心した敵兵が眠る絵だ」


 だがそこに来て、突撃を促す金兵衛に反し、烓輜は近くの岩場に腰掛けた。

腰掛けて、山間の谷間に隠れる兵糧陣地を見据えたまま、部下へ手を伸ばす。


 部下達は「また始まったよ」とばかりに首を捻りつつも、上官の求めに応じて作画に必要な道具を手際よく揃えていく。


「燃ゆる前ぞ。其方も腰を落ち着かせ、ゆっくりと見られい。見事金兵衛の名に相応しき其方に応えられる名画、見事仕上げてみせようではないか……!!」


 そして道具が出揃うや否や、烓輜は一心に『風景画』を描き始めた。

戦など境界の彼方に忘れたとでも言いたげに、これ一心にのめり込む。

何とも不敵で、何ともゆとりのある、理解し難い美しき光景だ。


 これには流石の金兵衛も絶句し、言われるがままに腰掛けざるを得ない。

彼は噂に聞く変将・烓輜を目前にして、噂を思い返して心中で頷く。


(……はっはぁぁーー、「血肉燃ゆる朱の烓輜、戦に挑みて時を止める」……とはこの事か。…………まったく、理解の範疇を超える御方っすねぇ)


 秒を追って出来上がる名画を横から覗きつつ、金兵衛は烓輜の部下達にも目を向けた。


(…………この人達もこの人達で、大変っすねーー)


 見やれば、皆が一様に頭を下げていた。


(あぁぁーー、やっぱ俺、燃えるとかそんなん関係なく、ちゃちゃっと決着がいいっすよ。……似た者同士な兄上がここに居たら、何て反応したかなぁ……)


 熱くド派手な戦いを望み、己が闘志を燃やす重秀。

涼しげな言動ながらも、己が嗜好には燃える熱意を示す烓輜。

重秀の弟にして、烓輜を前にする金兵衛は、出来上がる名画を静かに待ったという。


 その後、烓輜隊は改めて兵糧陣地に夜襲を仕掛け、兵糧はもとより武具やその他諸々の軍需物資を悉く焼き払った。


 心臓部を失い、混乱状態に陥ったアレス軍の士気は著しく低下。エソドアをもってしても、戦闘継続が難しくなった事は言うまでもない。



アレス軍右翼 テソロの陣営


「全軍で雪崩れ込め。一塵の躊躇いもなく、一人として生きて返すな」


『オオォォォォーーー!!!』


 しかも、翌日未明には動揺の隙を突かれたアレス軍副将・テソロの右翼が、覇梁本隊の強襲を受けて大打撃を被るのだ。


「御大将! 敵の総攻撃です!! 総大将・覇梁みずからが突っ込んで来ました!!」


「ホッ! ィヨォーーイ!! ヨイヨイ!! これは思わぬ好都合! 皆さぁ、直ちに出るぞぉ! ここらで戦況をひっくり返してやろうかぁ!!」


『アラヨイヨイッ!!』


 覇梁を討ち取って一発逆転を狙うテソロは、本陣精鋭部隊と共に勇んで出撃した。


「音に聞こえし緞帳夜叉、ここにありぃ!! 木端武者は退き候えぇーー!! さすれば我が劇団の死の演目、最期までに見ること叶おうぞ!!」


 テソロ本人はさることながら、その配下に至る者達まで豪奢な軍装に飾られた様は、さながら動く劇場の如し。

彼等は彩飾華やかな軍旗を大仰に振りながら邁進し、その必死すぎる異様に驚いたサキヤカナイは、本能的に道を開けてしまう。これがテソロ流の戦法だった。


「あぃやぁ覇梁! 我が眼に捉えたりぃ!! いざ尋常に勝負、千・万!!」


「面白い。うぬは実に面白い。……が、飽きた。今すぐ幕を閉じ候え」


 容易に敵中突破を許したサキヤカナイに怒るでもなく、かといってテソロの派手さに怯むこともなく、覇梁は静かに対峙した。


 対峙して、早々に緞帳夜叉の存在に興味を無くす。

彼はただ、右手に持つ刀身の厚い刀を構え直し、それによって左肩にだけ装備する重厚な肩当てが、僅かに揺れるだけだった。


「フゥッ……覇梁の驚愕笑点! 異様に低し!! 反応なしとは演者泣かせの珍客よ! 然るに覇梁とはぁ、臆さぬところを以て演者の素質ありと言えようかぁ!!」


「………………」


「もしくはぁ、台本に己が熱情を、ビシバシと刻む物書き屋! 男は黙って文字一貫!」


「………………」


「ヨイヨイ!! 客にしては惜しき男・覇梁! さぁさ、激突の舞台はすぐそこに! 御主が望むはどの役か!?」


 両手を大きく広げて見せ、体全体を使って雄々しさを示すテソロの演技。

しかし観る側に立っている覇梁が眉一つ動かさず、本当に飽きたように何のリアクションも見せない為、必然的にテソロの一人芝居となっていた。


「……何でもいいから反応してくれ……。さすがに寂しいぃぃん」


「…………主役でヨイヨイ」


「!? ……オホッ! ィヨォーーイ!! ヨイヨイ!! 緞帳は今開けたりぃ!! それでは良き好敵手よ、我が刀の、錆びとなれぇぇい!!」


 覇梁が可哀想に感じたかどうかは別として、一言の温情を返されたテソロは得物の薙刀を構え直し、馬の腹を蹴って勇猛果敢に突進。

手綱を手放した状態で駆けながら、頭上の薙刀を渦潮の如く高速回転させ、そこに風の魔力を送り込む事で鋭利な竜巻を発生させる。


「秘技・風神大車輪!! イヨッ! 細切れになれぇぇい!!」


 そして間合いに入る寸前で、テソロは薙刀を振り切った。


 鎌鼬の塊とも言える竜巻は、薙刀から射出される形で覇梁に迫り、彼は零距離に近い位置でそれを受ける事となる。刀の錆びとはなんとやら。


「……面白い。我は今一度、うぬが面白いと思った」


「やっ!? ややや!? これは摩訶不思議な! いったい何が起き――」


「が、やはり飽きた。つまらぬ役者は楽屋裏に戻り候え」


 然し、覇梁にはテソロの攻撃が一切効かなかった。

否、“効かなかった” なんてものではない。覇梁が重厚な肩当てに包まれた左手を突き出すや、面白いように何も起こらなくなったのである。


「!? ――ぐぅふ……!? なんたる事……いつの間に……!?」


「お、御大将ォォーー!!?」


 テソロは動揺の内に、種明かしを見る間もなく覇梁に切られていた。

救いと言えば、テソロの攻撃を打ち消した覇梁にも何かしらの消耗があったようで、テソロの受けた傷は即死級のものではなかった事だ。


 兎も角、最終的にアレス軍は、一夜明けただけで戦力を半減させてしまった。

兵糧を主とする軍需物資の多くが焼き払われ、テソロ率いる右翼も大敗したとの報告に、総代将・エソドアはひどく落胆する。


「…………こうなっては最早、兵を退いて立て直す他に道はなし……か。

――弟と、本国の兄上に伝えてくれぃ。無念だが、全軍撤退だと」


 やむを得ず、エソドアは全軍に撤退指示を下す。

アレス軍大将・ジーイングが数ヶ月前に味わった敗戦の借りを、兄に代わって返さんとしたエソドアだったが、残念ながら二度目の透晋侵攻も失敗に終わったのだった。


 そして、この結果を具に知らされた剣合国軍にも大きな衝撃が走る。

同盟勢力を頼りにした二方面同時侵攻作戦ゆえに、その片割れが早くも敗退した事は多くの将兵に動揺をもたらし、程よく上がっていた士気が却って著しい低下を招いたのだ。


「そうですか……アレス軍は早々に撤退を。……では我々も、持久戦に改めるとしましょう」


 だが、この作戦を立てた安楽武本人は静かに白羽扇を扇ぐのみで、これといった落胆や驚愕を示す事はなかった。

彼はあくまでも、今後の動きに変更が生じた程度にしか感じさせなかったという。






「ファーリムが率いる軍勢は総兵数十三万を数え、開戦初日に六華将・ウォンデの軍勢を打ち破って南亜をいとも簡単に制圧した。

ウォンデは敗残兵を連れて楚南まで後退。南亜陥落を知った覇梁は従属勢力に援軍を要請し、蝶華国軍を始めとした各軍がそれに応えて出兵した。

 一方、アレス・エソドアを総代将に八万の軍勢で透晋へ侵攻したアレス軍は、開戦五日目に六華将・烓輜の夜襲を受けて炎上。多くの将兵や物資を失い、副将のアレス・テソロすら負傷する大敗を喫し、真政への撤退を余儀なくされる。

 剣合国軍はアレス軍敗退を想定した長期作戦に切り替え、制圧した南亜の要塞化と、覇攻軍内の不和を増幅させる事に専念した」

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