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大戦乱記  作者: バッファローウォーズ
天命が定めし出会い
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隣国の影


 王洋西が退席した後も宴は続いていた。

ナイト、安楽武、フォンガン、槍丁、カタイギは酒の方も強く、約六時間に及ぶ痛飲を経た現在でも平静を保っている。

オバインは明日の政務に差し支えない程度に嗜み、亜土雷は程よく酔いを感じている状態。そして槍秀と亜土炎は顔を真っ赤にして呆然としていた。

余談ではあるが、酒に酔った亜土雷は微妙な怖さがある。何せ険しい顔のまま、鋭い目付きのままの真顔に朱が入っただけなのだ。子供を泣かす程の強面に頬染めをトッピングしたと言えば分かり易いと思う。


「ところで、王洋西殿は車椅子を使っていたが何かあったのか? このベーコンうんめぇ!」


 ナイトはカリトロベーコンを口一杯に含みながらオバインとカタイギに尋ねた。


 酒豪兼健啖家のナイトが見せる豪快な飲食に先程まで笑っていた二人だが、その問いには表情を暗転させる。


「御本人は齢を理由とした体の衰えと申しておりますが、第一の要因は松国及び重氏との対外関係による心労と思われます」


「松国ですか」


 声を落としたオバインの単語に心当たりがあるのか、安楽武が一番に反応した。


 沛国と重氏の北隣に存在する松国。かの地を領土とする松唐軍は文字通り国主・松唐自らが率いている。

松唐は先陣を切るほどの勇将で、配下の将軍達も彼に似た血気盛んな者が多い。特に長男の松留は大太刀を軽々と扱う猛将として知られ、その武勇はオルファイナスに匹敵するとも噂されている。


「近頃の松国は軍備拡張に余念がなく、その資金を富豪や貴族、豪族から捻出していると聞きます。察するに彼等はこの沛国にまで資金援助を求めているのですね」


 安楽武の推測にオバインが、次いでカタイギが答える。

どちらも無意味に酒を煽る事から相当腹に据えかねている様だ。


「援助を求めるならばまだ可愛い方です。彼等は事ある毎に難癖をつけては金を請求してくるのです」


「時には軍の圧力を用いる事もあります。俺達を甘く見て攻められたくなければ金を寄越せと」


 ナイト、安楽武はそれを聞いて、この上なく無駄な金の無心だと思った。

軍事力増強のための資金を他勢力から徴収するなど愚の極みであると、その不義の返るところすら判ずる事ができないほどの馬鹿者どもなのかと。


 元来、沛国は戦を要しない勢力であった。

元を糺せばナイトの祖父・暴君ゲンガと、次代の父・暗君ラスフェの圧政によって剣合国周辺に存在する、沛国以外の諸勢力が戦乱期に突入した事が端を発している。

過去に行われた剣合国軍との戦争で気を病んでいた重氏の先代当主・重円が二年前に病没し、重横の代となった後は沛国との友好関係も崩壊、彼は一転して沛国への度々の侵攻を行うようになった。


 その頃の沛国軍は実戦経験のある将軍や軍略に明るい策士が居らず、剣合国軍の庇護を受けていた。

そして近年になって漸くオバインやカタイギといった人材が集い、彼らが主体となって実戦的な軍制を整えたと言っても過言ではない。

故に沛国軍の戦史は浅く、国の豊かさに反して兵は少なく、兵士個人ごとの強さは傭兵に劣る程度。


 そんな沛国軍は松唐軍にとって理不尽を通し易い標的であった。


「成る程、俺達の負担とならぬ為に、敢えて要求に応じる事で戦を回避していた訳か……」


 事態を明確に把握したナイトの発言に、両将軍は無言で頷く。


 作戦や国軍の方針をオバインが定め、カタイギが先頭切って実践し、王洋西を慕う兵がそれに続く。この優れた連携と、同盟国との協調性の高さが沛国軍の強みであるが、今分かった事は後述の強みが却って弱点になっている事だ。


 深い尊敬を抱く老君がこの様な苦労の末に体を弱めていた事と、それに気付かなかった己に静かな怒りを灯すナイト。これは、酒を煽らずにはいられなかった。


(松唐軍の動きを止めるには……彼等の協力を得るのが一番だな)


 険しい顔付きのままに黙考するナイトが導き出した策には、とある大貴族の助力が必要だと思われた。

幸いにして、その者達とは友好的な関係にあり、丁度この沛国から近い。


(義士城へ戻る前に彼等の城へ立ち寄らねば。……奥とのムフフな事は、その後だ)


 ナイトは邪な欲求を後回しにして、まずは大国の大将たる務めを優先した。



 剣合国軍はもう一日だけ恭紳城に滞在する事にした。

獲得した戦利品の分配、捕虜の処遇、負傷兵の治療などに当たる為でもあるが、憂さ晴らしとばかりにナイト、フォンガン、カタイギが歌って踊って他の者を付き合せた結果、亜土炎と槍秀が倒れて軍が動かせなくなったのも一因である。


「よいですか大殿、倅も亜土炎も人並みしか酒が飲めぬのです。酒乱の気がないとは言っても、部下を必要以上に付き合せる事はお控えくだされ。今の状態で戦となったら何となさいます」


「おぅ!」


「よいかカタイギ。如何に親しくとも、ナイト殿は我ら沛国軍にとって大恩ある御方。盃を断ってナイト殿の気を悪くさせる事を避けるのは良いとしても、彼の足を枕に眠るなど不敬極まりない。お主は兵達の模範となる姿を示さねばならんのだから、以後気を付けよ」


「おぅ!」


 槍丁とオバインの小言を前に、ナイトは胡坐をかき腕を組んだ状態で堂々と答える。

カタイギはというと、ナイトの傍で身を縮めていた。


「ナイト殿……私はカタイギに言っているのでして……」


「おぅ!」


「…………」


 最早オバインと槍丁は黙る他なかった。

共犯者たるフォンガンがナイトを置いて颯爽と逃げた姿も問題であったが、反省の色が全くない当のナイトも問題児であった。


 その後にもフォンガンが何食わぬ顔で酒樽片手に戻ってきたという一騒動はあったが、とにかく剣合国軍は丸一日を酔い覚ましに要した後に帰路につく。


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