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大戦乱記  作者: バッファローウォーズ
天命が定めし出会い
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沛国軍の知勇


 大まかな作戦を把握した後、各人は細かな内容の質疑や検討に移る。


 軍議は港に着くまでの間、念入りに行われた。

不測の事態への対処法から今戦に於ける目的などを心に留めた将達は、各々が指揮する兵等とともに地に足をつける。


 そこからは速さと兵の疲労を吟味しながらの行軍であった。

用意された馬車の半数に武具・兵糧を積み、残りの馬車には交代で兵を乗せて休息と進軍を行わせる。


 そして、軍港と恭紳城の中間地にて、腰兵糧のみを携帯した亜土雷隊五千が南に進路を変えて中継地たる治妥山チダサンへ向かう。


「頼んだぞ皆! 戦が終わったらいの一番になでなでしてやるからな!」


「はっ。有難く存じます」


(……まじかよ)


(……大将なら……まじだな)


(えっ……儂なんてこの年だし恥ずかしいのだが……)


 見送るナイトの檄に亜土雷は至極真面目に拝礼する。

だが既に正気を取り戻していた兵達は、皆一様に心の中で苦笑した。


 二手に分かれた後、本隊は旗持ち兵の数を増やし、兵同士の間隔も広げさせた。

これは重氏の間者や物見の目を誤魔化し、数が減った事を悟らせにくくする為である。

安楽武は更に、諸隊からの離脱者がいないかを厳しく監視させ、軍内に潜んでいるかもしれない間者の動きも徹底して封じた。

無論、監視の目を厳しくするのは亜土雷隊も同様であり、剣合国軍全体が緊張に包まれる中で歩を進める事となる。




 一方、恭紳城の東南東に離れた国境近くの戦場では、沛国軍一万三千とフォンガン隊一万の連合軍が四万四千の律聖騎士団と交戦状態にあった。

今回の戦に際して律聖騎士団は総数八万のうち、半数近くの兵を動員。オルファイナスが軍大将を務め、その指揮下にはカイカン、モスク、馬延の三隊長が従っていた。


 戦況は沛国・剣合国連合軍の善戦といった状態であり、二倍の敵を相手に一歩も引かぬほどの高い士気を保っていた。


「全兵、奮起せよ! 重横の手先共から家族を守る戦と心得るのだ!」


 沛国軍の知将オバインが陣頭にあって兵士を鼓舞する。彼の魔力を乗せた声はよく通り、兵士一人一人の心の支えとなっていた。


「よし、敵の備を突き崩すぞ! 訓練の成果を見せてやれ!」


 もう一人の勇将カタイギは最前列で朴刀を振るい、後に続く兵達の突入口を作る。

戦経験の乏しい沛国兵にとって彼の勇猛果敢さはこの上なく頼りになるものだ。


「相変わらずの胆力と底力だな、沛国軍の者達は」


 苦戦する部隊の救援に出ていたフォンガンは、友軍の獅子奮迅たる戦いぶりに感嘆の声を上げる。

その働きは歴戦の剣合国軍が苦戦している事に情けなさを感じるほど。


 だがそれは、フォンガン率いる兵が弱い訳ではない。


「……そして、鬼ファイナス殿も相変わらず手厳しい」


 現在フォンガン隊が戦っている敵はオルファイナスとカイカンの部隊。

カイカンも優れた将ではあるが、フォンガン隊を苦しめている相手はやはりオルファイナスだった。


「フォンガン将軍! オバイン将軍より援兵一千が送られ、四番隊が息を吹き返しました!」


「感謝骨髄に染みると伝えてくれ。俺達は急ぎ六番隊のもとへ向かうぞ」


 同盟軍からの救援を得て勇気づく剣合国軍。


 フォンガンはオバインへの感謝の気持ちを伝令に託すと、見捨てる事を覚悟していた六番隊の持ち場へ駆け付ける。


「お前等、待たせたな! こっから反撃開始だ!」


 大太刀を片手で扱い、敵兵を薙ぎ払う猛将フォンガンの到着で六番隊は壊滅を免れた。

この救援が成らなかった場合、剣合国軍は陣の要所の一つを失い、そこから敵の猛攻を許す結果となる。


 他国の将軍でありながら友軍に意識を配し、その危機を逸早く察知するオバインは流石と言えた。


 勢いを盛り返した剣合国軍は全体の足並みを揃えて攻勢に転じるのだが、オルファイナスは彼等の動きを即座に読み切り、一転して守備の構えを取る。

その用兵の疾きこと、正に風の如く。一部の隙も狂いもなく攻めの構えから守りに移行する様は、敵であるフォンガンでさえアッと言うものだった。


(早い……もう守備隊形を整えたのか)


 剣合国軍がやっと得た勢いもオルファイナスの守備にはそよ風に等しく、その攻勢はやがて無風となってしまう。


 然し、攻めあぐねる事が悪い意味ではない。寧ろ連合軍側としては、必殺とも言えるオルファイナス隊の攻めを封じ込めるだけで損害の軽減につながる。

言わば攻めによる防御といった戦法だ。


「……俺達は戦を急いでる訳じゃねえ。こうなったら無理に攻める事もあるまい」


 ナイトの後続軍を待っているフォンガンは無理強いを避け、オルファイナスを押し留める事に専念した。


 守備に徹したオルファイナスは自部隊の余力を馬延隊に送り込み、援護と同時に守勢に回る指示を出す。


 馬延隊の被害は大きく、一時はカタイギの猛攻によって陣形が崩壊しかけたほどだった。

だが馬延は沛国軍を甘く見はしたが、決して凡将ではない。

モスク、オルファイナスの助けを借りて危機を脱した彼は、その後の陣形修復を自力で行える程には優れていた。


「要所には本陣守備の重装兵を当て込み、壊滅した備えの穴は無理に塞がず他の備えを下げて横陣を形成せよ。傷の浅い者で予備隊を組み、重傷者は直ぐに下げるのだ」


 巧みな采配で減少した兵力を感じさせない守備陣を形作る馬延。

将としての経験・用兵術は馬延が上回っており、カタイギもフォンガン同様に勢いを削がれてしまう。


「……これ以上の戦果は望めそうにないな。――我が隊もカタイギ殿とフォンガン殿の両部隊に合わせて付かず離れずの姿勢をとる!」


 オバインは今の戦況を鑑みて、味方との歩調を合わせる為に攻勢を緩めた。


 両軍に完全な攻守の関係が生じたが、連合軍は力攻めを避けた接触程度で様子を見る事に専念。騎士団も迫り来る敵の迎撃以外は刃を交える事はなかった。

暫くして戦闘は自然消滅の形で終了し、一時間ほど睨み合った後に両軍はゆっくりと自陣へ引き上げる。


 ナイト率いる三万の本隊が合流したのは、それから四時間後の日が落ちた頃であった。


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