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大戦乱記  作者: バッファローウォーズ
人の想い、絆の芽生え
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終戦後の行動あれこれ


「心角郡のテンベイを討伐した後、剣合国軍は承土軍へ尋問の使者を送る。

承咨の独断専行によって一方的に停戦条約を破棄する形となった承土軍は、悪びれる様子も見せずに使者の一団を襲撃。国境を跨がせる前に門前払いしたという。

両軍の溝は一層深まり、剣合国軍は次なる敵を承土軍に定めた。

剣合国軍の首脳陣は、承土軍の主力がアバチタ山岳軍に向いている内にカイヨー解放を狙い、続いてカイヨー南隣のファーテイス攻略策を立てる。



あの御方はカイヨー解放に先立って決行された飛蓮(ヒレン)救出作戦を思い出し、私にこう語った。

「飛昭が居なくなってどうなるかと思ったけどね。飛蓮のお陰で助かったよ」

当の飛蓮は助けられたのはお互い様と笑みを浮かべ、飛昭は後ろ頭をかいた」




心角郡 嘯桂樹海内部 ジュクシ城


 終戦翌日の早朝六時。


 ナイツは起床と同時に、寝所に涼周の姿がない事に驚いた。

彼が毎日の様に涼周を起こしている為、自分が遅れを取ったのが信じられなかったのだ。


「侶喧おはよう。早速で悪いけど、涼周を見てない?」


「はっ。……涼周様であれば、まだあそこに居られるかと」


 城内の廊下で顔を会わせた侶喧に教えられ、ナイツはとある場所へ向かう。


「………………」


 そこは城外広場の一角で、戦死を遂げた者達を安置している所だった。

涼周は無言のままに、冷たくなった戦士達へ花を供えていた。

その周りには数十人のカイヨー兵がおり、彼等も涼周に倣って様々な物を手向けている。


「……涼周、ありがとね」


 傍に歩み寄ったナイツは、それ以上に気を遣った言葉が見当たらなかった。

朝の挨拶をするでも、彼等の行動を労うでもない。自分が気にかけなかった追悼を弟達が代わりにしてくれた事に、礼を言うぐらいしかできなかったのだ。


「……ん、にぃにも、する」


 笑みでも哀愁でもない微妙な表情を浮かべるナイツを見て、涼周は彼の内情を悟ったかの様に花を差し出した。早朝にも拘わらず、乳白色の蕾が綺麗に開いた花だった。


 ナイツは再度、涼周に礼を言う。今度は頭も撫でてあげる。

戦場に慣れた事で死者を悼む気持ちの薄れた心に、涼周は大切な想いを思い出させ、その上で戸惑う自分に機会を分けてくれた。


 弟に倣った兄は剣合国軍兵、カイヨー兵、心角兵、全ての戦死者に黙祷と花を捧げる。

そして城内の一室から息子兄弟を眺める両親は、彼等の様子に心を満たしていた。


「奥、あれはお前が涼周に勧めたのか?」


「はふふっ! 教えたのは花を育てる術と優しく摘み取る方法だけよ。あとは、あの子の心」


「何だか、本当に大将らしからぬ大将だな。勿論、良い意味でな」


 ナイト本人の口から大将らしからぬ大将といった単語が出て、キャンディは唇の端を上げた。

同時に彼女は、涼周が一軍の大将に相応しいかをナイトに尋ねる。


「愚問だ。涼周の才能は完全に大将足り得るもの。それは奥がよく分かっているだろ?」


 ナイトは堂々と答えた。キャンディもその事に関しては同意見を示す。

だがキャンディには、一つだけ危惧している事があった。


「……ただね、涼周は貴方以上に優しい所があるの。あの子の活躍を聞いて貴方も思ったことがない? ……自己犠牲が過ぎる……って」


 キャンディの言葉を聞いて、ナイトは険しい表情を浮かべて黙り込む。

妻の言葉の意味が何であるかを深く知り、自らもうっすらと感じていた事だった。


「特に、稔寧ちゃんだっけ? 彼女を助ける為にとった行動が正にそう。仮にも一軍の大将でありながら、あまりにも軽はずみで危険が過ぎるわ」


 海賊討伐の折、涼周は人質の女性達を解放する為に自らが人質に成り代わった。

涼周をナイツ同様に可愛がるキャンディには、この行動を危険極まりなく思っていた。


「……涼周の仲間内の人物で、ナイツ以外に涼周の手綱を握れる者が必要だな」


 今後、更に規模が増すであろう涼周軍の中に、大将の抑え役を求めるナイト。

これに関して彼の目には、飛昭や侶喧、楽瑜、稔寧の四名が映っていなかった。


「それとね、急に話を変え続けて悪いんだけど、稔寧ちゃんは……もってあと一年ぐらい」


 稔寧について感じた事を、唐突に振ったキャンディ。

それについてもナイトは深く知っており、焦りの舌打ちを混ぜた言葉を発する。


「ちっ……! 確か、ファーリムの奥さんと子供も……」


 苦しみを帯びたナイトの問い掛けに、キャンディは静かに頷いて返す。


「早く見付けてやらねば……! 金色の盾を持ちし治癒魔法使いを!」


 中枢大陸中央に居るという治癒魔法使い。西方の偉大な魔法使いであった哲緋儀(テツ・ヒギ)亡き今、稔寧も患っている病を癒せるのは彼の人物だけなのだ。



 剣合国軍はこの日を、樹海内に残る集落の懐柔やテンベイ軍基地の降伏勧告に費やす。

出向いた主な方角はジュクシ城から見て西と南であり、西側から攻める筈でありながら承咨軍の来襲に苦慮させられた方元軍との合流も兼ねていた。


「……方元に……皆。お疲れ様。俺達の方は……上手くいったよ。ねぇ、そっちはどんな感じ?」


 空に茜色が差した頃、方元軍と合流したナイツは当地の状況を尋ねた。


 方元と彼の側近衆は、普段通りの厳格な雰囲気を放ち、迎え入れるナイツを安心させようとした……のだが。


「ウーラー! ウーラー! さぁナイツ様も御一緒に! ウーラー! ウーラー!」


「輝・く・筋・肉・愛・の・結・晶!」


「超絶三角筋、ハァーー! 絶頂太腿四頭筋、キェーー!」


「聞かれよ我が腹筋の唸り! …………はぁ~ん、さいこうじゅわ~」


 ナイツの背後に広がる状況が混沌を極め過ぎている為に、流石の方元も唖然。

側近衆は頬を膨らませて笑いを堪えるものの、上官による状況報告の最中、とうとう耐えられずに数人の将校が吹き出してしまう。


「お主等、笑うでない。若君に失礼であ……ブフッ!?」


 そして頼みの方元すらも耐えきれなく、ナイツの面前で顔の筋肉を緩めてしまった。


「方元まで笑わないでよ! 俺、この地獄を一日中耐えたんだからね! 寧ろ褒めてよ!」


 剣合国軍の長老にして頑固厳格爺を笑わすなんて、何て恐ろしい筋肉兵達だ。

ナイツは己の背後で行われている、ナイトに洗脳された心角兵と、彼等と行動を共にする事で洗脳された輝士兵による降伏勧告パレードをうざがりながら、そう思った。


 その後――


「ほんっとに……! 何がウーラーだよ。父上も変な兵を回したもんだ」


「全くです」


 方元軍の隣に設営した陣地内の天幕で、腰を落ち着かせたナイツの愚痴に韓任が答えた。


「……ぷふっ……! お、お疲れ様」


 韓任の姿は見るも無惨。裸の上半身に襷が掛かり、そこには「愛の筋肉戦士代表!」と、太字かつナイトの筆跡で書かれている。


「ナイツ様、今絶対に笑いましたね。然り気無く鼻で笑いましたね?」


 彼は楽瑜とともに、俗に言う筋肉大使を務めさせられ、集落の懐柔に一役買っていた。


 更にその一時間後――


「にぃに、にぃに! 筋肉。にぃに筋肉!」


(あぁ、何てこと……涼周まで筋肉どもに洗脳されて帰って来た……)


 別行動をとっていた涼周が合流し、お兄ちゃんの上腕三頭筋にぎゅー! と抱き付いた事で、せっかく落ち着いていたナイツの心は再び疲弊する。


「ぅ? にぃに、どしたの。元気無い」


 何時であれば、涼周に抱き付かれて頭を撫でるところだが、今夜のナイツはとても疲れていた。

彼は冷めた笑みを地面に向け、涼周の手を握るのに精一杯だったという。


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