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大戦乱記  作者: バッファローウォーズ
心角郡平定戦
130/448

新たな仲間


 終戦後の夜。テンベイ軍降伏と承土軍撤退により、剣合国軍はわきにわいた。

その中でも一際大きな熱を放っていたのは、涼周を主とする新勢力の陣営だった。


「改めて自己紹介致す。元承土軍東部兵団の総副将を務めていた楽瑜に、副将の稔寧(ネンネイ)なり」


「稔寧にございます。楽瑜将軍の妹を名乗り、涼周様を推し量るべく、皆様を騙しておりました事、深く謝罪いたします」


 旅人と偽って涼周達に接近した楽瑜と稔寧の二将。

剣合国軍の中に誰一人として二人を責める者はなく、同じ主君に忠誠を誓った者として飛刀香神衆の将兵は大きな共感を示していた。


「闘将・楽瑜の勇名は噂に聞いていたが、まさか楽荘殿が本人だったとはな。では奥州藤原氏に仕える楽家の話はどうなんだ? あれも偽りなのか?」


 飛昭は盃を片手に頬を赤らめながら、楽瑜にあれこれを聞いていく。

海賊討伐と今戦の二回に亘って共闘した楽瑜の事を、大分気に入っている様だった。

楽瑜の方も、厳かな顔付きに若干の愉快色を混ぜた様な、普段の彼に比べれば相当軽い雰囲気を作って答える。


「否。我の出身は正真正銘、奥州の平泉なり。四男である事も然り。ただし楽荘という名は、我が一族の祖の名前。それを拝借したのだ。稔寧は妹ではないが楽家と遠い縁者にあたり、彼女の病を治さんが為に大陸中央に参った事は真実」


「やっぱりあれか? ナイト殿がもう少し早く剣合国を継承していたら、承土軍じゃなくて剣合国軍に仕官してたって話になるのか?」


「頭領、少し飲み過ぎです!」


 ナイトが傍に居る状況にあって、彼の事を遠巻きに批判する飛昭。

侶喧はそんな飛昭を窘めようとしたが、ナイト本人が豪快に笑って吹き飛ばす。


「ふっははは! 気にするな侶喧! 誰か知らん奴の事を気にする必要はないぞ!」


(いえ、貴方の事なんですが……)


 ナイトも相当酔っていた。彼は今に至るまでに楽瑜と筋肉について語り合い、全筋力を使った壮絶な腕相撲を経て、互いを認めた上で意気投合していたのだ。


 そして楽瑜の方も、これまた言われて嬉しくなる言葉を用いて質問に答えるもんだから、ナイトは益々機嫌が良くなっていく。


「うむ。もしもの話ゆえ断定はできぬが、先程の筋肉の共鳴を感じる限り、十中の十は彼の仲間になりたがっていた筈だ。真、出会いが遅い事が残念である」


「ふっはは! 楽瑜よ、お前は酒を旨くする術を熟知しているな!

――いよぉーし! 皆の者、この上は剣合国伝統の神秘の裸踊りを以て、新たなる仲間の加入を祝おうではないかぁー!」


「うおおぉー! 待ってましたぁーー!」


「いよっ! 我等が大将、人界一の男前!」


「みんな大将に続けー! 褌も脱いでまえぇー!」


 酒で赤くなった顔と火照った肉体の入り乱れ。赤裸々とは正にこれの事。

……何? 微妙に違うだって? 否、違わないのである。少なくとも剣合国軍にとっては。


「ふははー。まーた変な事してるよー。これは見ちゃ駄目だよ涼周」


「……むぅぅ……にぃに、汗くしゃい……!」


「ガビーン!?」


 ナイト達から少し離れた場所で夜食を食べていたナイツ、キャンディ、涼周、メスナ。

ナイツは父の恥体ダンスが教育に悪いとして、涼周を抱き寄せて視線を逸らさせた。


 然し、魯継隊との激戦を潜り抜けたナイツは着替えこそしたものの、体を拭くのはまだであり、甘酸っぱいツンとした匂いを前にした涼周から拒絶されてしまう。


「はふふっ! 言われてやんの。だから先に体を濡らしなさいって言ったのよ」


 重傷兵への治癒を済まし、食用になる野草や茸や果実を現地調達し、涼周の体を拭いてやり、多くの料理を作った、とても手際の良いキャンディがそれを見て笑う。


「メスナ木苺、木苺ちょうだい。茸も欲しい」


 衝撃を受けて固まるナイツを余所に、涼周はメスナの皿の上にある木苺に手を伸ばす。

どうやら自分とナイツの分は食べ終わってしまった様だ。


 メスナは木苺と茸の塩焼きを分けてあげるついでに、涼周へとある事を尋ねる。


「ねぇ童ちゃん。飛昭殿や楽瑜殿は童ちゃんに忠誠を誓ってるけど、当の君はどうなの?」


 彼女の問いに涼周はあっけらかんとした表情を見せた。


「ぅ? ……涼周、にぃにの子」


「いやだから、弟であって俺の子供じゃないだろ?」


「あら涼周、何で私の子供って言ってくれないのかしら。お母さん悲しいわー」


「おかーさんも、にぃにの子」


「あらあら、私もナイツの子供にしてくれるの? ありがとうね。なら私は涼周のお姉さんね!」


(あれ? 既視感を感じるけど……何これ、何ヵ月ぶり?)


 やはりと言うか、涼周は自分の存在をナイツの弟としか見ていなかった。

飛刀香神衆への対応もそうだったが、涼周は自分を二の次にした忠誠を求めている。


 何とも稀有な考え方であるとメスナは思うが、実際に飛昭や楽瑜はその想いに心服している。

良い方向に直情的で、言動に嘘偽りといった裏がないのも好評価をもたらし、言わば謀略と凶刃が蠢く乱世に於いて、涼周の存在は輝いて見えたのだ。


(う~ん、子供故の短絡的思考と捉えればいいのかな? 兎に角、ここぞという場面で無欲なのよね)


「メスナ木苺! 木苺もっとちょうだい!」


「あ~うん、いいよ。……全部持ってって」


「わはぁーい!」


 無欲。否、食に関しては強欲。メスナは目の前から消える木苺を見て、そう思ったそうな。


 剣合国軍はこの夜、大いに酒を飲んで大いに食べ、大いに歌って踊って楽しんだ。

それは戦勝と仲間の加入を同時に祝った大宴会に他ならない。


 然し、祝盃を受ける楽瑜と稔寧には一つだけ懸念があった。

勢いで剣合国軍に寝返ってしまった為に、部下達への配慮ができなかった事である。


(我の勝手で、皆が酷い処罰を受けなければよいが……)


 楽瑜が酒に酔えなかった理由は、そこにあった。

だが幸いな事に、承咨の傍に居た商吉の進言が楽瑜の部下達を救い、彼等は必要以上の責を問われずに済んだ。

数日後に同僚かつ同士の内密の報せが届き、上記の事を知った楽瑜は静かに一礼したという。




「剣合国軍は三路に別れて心角郡の嘯桂樹海へ進軍した。

あの御方と飛刀香神衆一万五千は、ナイツの輝士隊八千と共に北側から侵攻。ナイツの指揮の下、美那集落を陥落せしめた。

前線の集落が瞬く間に陥落し、後方の基地に控えていたヤグゥは降伏。

彼の智謀を高く評価したナイツは彼を厚遇し、後述に記す活躍の場を与える。

ヤグゥの心角兵五千名を加えた連合軍は更に進撃し、樹海入口を守る烈菜集落の長・ラジョウを説き伏せて味方にする。この際、交橋防衛戦であの御方が降伏を促した心角兵の多くが、この烈菜集落の出身者であり、彼等が主となってラジョウを説得したとされる。

樹海内部に侵入した後、あの御方達は聖闘将・楽瑜偽り楽荘と稔寧に再開。心角兵に襲われていた所を助け出し、二人は恩返しと銘打ってあの御方を推し量らんと行動を共にする。

その後、輝士隊との連携でホゥロ城を陥落させ、守将のサイゲイを降す。

ホゥロ城陥落に際して、飛昭が城へと続く秘密の地下道を見付け、そこより攻めた。

開戦四日目、あの御方とナイツは騎馬隊を率いて先行。テンベイ軍の本城たるジュクシ城へ迫り、ナイトの軍と合流。テンベイ軍に猛攻を仕掛ける。

途中、援軍として承土軍が現れる等の苦境に陥るが、承土軍を率いる承咨の不義に憤った楽瑜が承土軍離反を宣言し、戦局は一変。剣合国軍はテンベイ軍ごと承土軍を撃退せしめ、承咨は撤退。テンベイは降伏する。

そしてジュクシ城を拠点に心角郡の完全平定を成した後、剣合国軍は帰国した。



こういった記し方をあの御方は嫌うが、この戦で得た実利はとてつもなく大きかった。

それは人であり、連携意識であり、土地である。

取り分け聖闘将・楽瑜と守護の白髪姫・稔寧の存在は、後の人界史とあの御方の成長に多大な影響を与えるのだ」


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