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大戦乱記  作者: バッファローウォーズ
心角郡平定戦
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強敵の増援軍


 先行してジュクシ城へ迫るナイツ騎馬隊二千は、ナイト本軍とテンベイ本軍による交戦音が聞こえる程の地点で、街道を封鎖するバハイ隊三千と遭遇した。


 そしてバハイ敗北。普通に戦いを始め、ナイツと韓任と涼周と楽荘達の突撃を止められず、韓任の手によって呆気なく討ち取られた。バハイバイバイ。

配下の心角兵も散を乱して逃走。殆どの者が東か西に向かっていった。


 ナイツ騎馬隊は準備運動とばかりに敵の最終防衛線を突破。一気にナイト軍との合流を図る。


「よっし、抜けた! このまま全騎突撃! 父上とともに麓の敵を蹴散らすぞ!」


 テンベイの予想を遥かに上回る速度を以て戦場に到着したナイツ騎馬隊。

彼等はジュクシ城の周辺が開けている事を良いことに、勢いと速さを維持したまま北側麓を守る敵に対して突撃を始める。


「ふっははは! 息子め、えらく早い参戦ではないか! よかろう! 俺達も全軍突撃だ!」


 テンベイ軍の側面を突いたナイツに呼応して、ナイトは全軍の九割近い戦力を投入。今を勝機と見て、敵の大破を狙った総攻撃に出る。

テンベイ軍の不運は頂きに達した。誰もが敗北を予期し、多くの心角兵が逃げ腰となる。


 ナイツ騎馬隊の参戦から一時間が経った頃。

剣合国軍の向かう所に敵はなく、テンベイ軍の諸隊は次々と撃破されていた。

被害は甚大なものとなり、死傷者の数は緩まる所を知らない有り様。逃亡兵も現れ始め、麓守備軍は本格的な総崩れをきたす寸前にあった。


 だが、この頃になると流石の剣合国軍にも疲労が見え始めた。

如何に彼等が精強であろうと、倍の戦力に真っ向勝負を挑んだ上で、短時間撃破を狙う事は大変なものなのだ。


「……韓任、何かやばいのが近付いてない?」


 そんな中、前方に群がる心角兵を薙ぎ払ったナイツが、不意に進撃を止めて呟いた。

北側に援軍を送り過ぎて手薄となっている筈の西側麓部隊の方から、ざわめきや良からぬ気配が漂っており、東側を攻めるナイトに先んじてナイツと韓任がそれに気付いたのだ。


「はい、軍の気配です。それも相当な者共かと。…………味方のものではありません」


「……一度下がるぞ! 街道入口に布陣して不測の事態に備える!」


 ナイツは直感で新手の存在を認識。一旦戦闘を中断し、突撃開始地点まで後退を図った。


 然し、彼の後退と剣合国軍全体の疲労を待っていたかの様な頃合いで、その者等は剣合国軍とテンベイ軍の戦場に乱入して現れる。


「そんなこんなで行くぜ! 今から鉉彰(ゲンショウ)様伝説の幕開けだァ!」


 おおよそ樹海の南街道を進んだであろう新手は、ナイツの予想通りジュクシ城南西の麓から現れた一万三千の承土軍だった。率いる将軍は猛将と名高い鉉彰と、優れた用兵家の魯継ロケイ


(この期に及んで面倒な奴等のお出ましだ)


 ナイツ、韓任、楽荘の三者は同様の事を思った。

特に楽荘は危険な状況に陥る。何せ味方の顔見知りが大勢来襲したのだから。


(ふっ……真、汝の備えは万全である)


 それでも楽荘に焦りはなく、彼は胸筋の谷間から好青年を模された仮面を取り出した。

彼の妹にして楽瑜の副将たる女性がホゥロ城の夜襲を前に、承土軍来襲に関して楽荘と話し合った際に渡したものだ。


「……楽荘、何、それ」


「本気を出す為の心得なり。見たところ新手は相当な手練れ。涼周殿、気を付けられよ」


 仮面は兎も角、楽荘が言った事は的を射ているとして、ナイツも涼周に忠告する。

先鋒を司る鉉彰は承土軍の本拠地があるラクウトゥナ小大陸で多くの合戦に参戦し、その都度敵将の首級を挙げ続けた猛者。

もう一人の魯継もアバチタ山岳軍を相手に勝利を重ねた事のある指揮官で、彼は個人の武勇には優れないものの、用兵術と兵法に長けている。


 承土軍の精鋭部隊が到着した事で、漸くテンベイ軍はナイト軍と互角になった。


「よぉし、反撃の時はきたぞ! 者共、剣合国軍を押し返すのだ!」


 ジュクシ城内の守備兵まで繰り出して反転攻勢に出るテンベイ。

状況としては剣合国軍一万三千 対 テンベイ・承土連合軍二万六千となる。


「右翼全軍、息子兄弟の許へ向かえ! ナイツの指揮の下に新手を迎撃せよ!」


 テンベイ軍の内の六千を相手にしていたナイトは、急遽右翼部隊をナイツの指揮下に加え、新手の承土軍に備えさせた。

右翼の戦力は三千。猛進撃を見せていた彼等は既にナイツ騎馬隊との合流を果たしていた。


「韓任! 騎馬隊は全部任せた! 俺は父上の右翼に入ってこれを指揮するから、準備が整うまでの時間を稼いでくれ! 涼周と楽荘は俺に付いてきて!」


 即座にナイトへ呼応して動き、韓任も彼等に応えて騎馬隊二千の指揮を受け持つ。


「敵将・韓任と見た! 俺は鉉彰だ! お前に俺が討てるか!」


 韓任隊は早速、鉉彰の騎馬隊二千とぶつかった。南側にはテンベイ軍の麓守備隊二千も残っており、敵味方の戦力差は早くも広がってしまう。


「ふん、流石は叩き上げの猛将だ。同じ軍でもブイズとはえらく違う」


「あんな東の雑魚と一緒にすんな! 俺の矛は常に激戦地を制してきた。当然この戦もなァ!」


 両者の矛が盛大に交わるとともに、一撃一撃から衝撃波と銀色の火花が巻き起こる。

弱小勢力を常の敵とする東部軍に比べ、鉉彰と魯継の承土本軍は流石に強かった。


 韓任は鉉彰に付きっきりとなってしまい、彼の指揮が途絶えている隙を遠慮なく魯継が突いてゆく。


「テンベイ軍が邪魔だ。奴等はナイツ、ナイトに向かわせろ。そしてテンベイ軍が今居る場所に我が隊が入り、城の守備と挟撃を行う。鉉彰の歩兵隊には北の街道を固めさせろ」


 鉉彰隊歩兵四千を北の備えに回し、麓守備隊はナイトの戦場に雪崩れ込ませる事で追い出した。

そして彼等に代わる様に魯継隊六千が韓任隊の正面南側に現れ、ジュクシ城の守りとナイトの抑えと韓任隊への攻撃を同時にこなして見せる。

その手腕の鮮やかさは城内の高台から眺めていたテンベイが一番よく理解し、彼は自軍ではない兵すらも巧みに操る魯継の用兵術に感心した。


「五百名は俺に続け! テンベイ軍を突破して、韓任隊正面の承土軍側面に突撃する! もう一隊、別の五百名部隊も編成して韓任の背後を固めさせろ!」


 韓任隊の苦戦を知ったナイツは自らが目の前のテンベイ軍三千余に深く切り込み、別動隊には韓任の背後へ回らせる。鉉彰隊歩兵が北の街道を固めた事で、韓任隊の背後も脅かされる危険が生まれたからだ。


「来たなナイツ。右方前衛部隊とテンベイ軍に伝えろ、ナイツ隊及び涼周を容易に通してやれと」


 魯継はナイツの突入を予期しており、それを利用した策を実行に移す。


 魯継隊右側の戦力配置には一工夫こらされていた。

外部には弱い部隊を配備してナイツの攻勢と深入りを誘い、それらを突破した先の内部で主力兵による迎撃を行う算段だ。


「よし、このまま敵側面を削るぞ! 俺に続け!」


 テンベイ軍を強行突破したナイツ隊はまんまと術中に嵌まり、魯継隊右側面に突撃を開始。猛然とした攻めに出てしまう。


 案の定、易き敵と油断したナイツ隊前衛は始めこそ魯継隊の側面を削ったが、奥に控えていた強敵まで切り進むとそこで苦戦し、予想以上に早い衰えを見せる事となった。


「何だ、敵が急に強く……! ……まさか――!」


「止まったぞ。囲んで殺れ」


 敵の精鋭を前にして、完全に足を止められたナイツ隊。

それを包囲殲滅するべく、魯継は待機させていた騎兵を突入。ナイツ隊の背後に割り込ませ、開いた突入口の封鎖にかかる。


(外回りの兵は囮だったか! まずい、退路を絶たれる!)


 ナイツが仕組まれた罠に気付いた時には、既に遅かった。

後ろに続く味方は勢いづいた状態のままで突撃体勢にあり、彼等を反転させる事は容易ではない。

しかも敵の騎馬隊がナイツ隊の最後尾を襲い、後方部隊との間が遮断されつつあった。


「にぃに! にぃに!」


「ナイツ殿、出過ぎなり! 我等と息を合わせて包囲を脱せよ!」


 後方部隊としてナイツに続いていた涼周と楽荘。

二人はナイツ救出の為、僅かな兵とともに急いでテンベイ軍を越え、魯継騎馬隊と交戦状態に入る。


 然し、それこそが魯継の真の狙いであった。

韓任を餌にしてナイツを死地へと誘い、次はナイツを餌に涼周を誘い出す。


「予期した通りだ。旗を掲げて合図を送り、騎馬による扇動を行え。絶対に標的を逃がすな」


 魯継騎馬隊はさしたる抵抗を見せず、涼周と楽荘に道を譲るかの様に偽装敗北して広がりを見せた。

無論、涼周達を深く引き入れる為だ。


「韓任の許へ行こうが、私の許へ来ようが、どのみちお前は涼周を引き連れる。そこが我等にとっての狙い目。強いて言えば、お前の弱点だ……ナイツ」


 魯継本陣から続く合図の旗が上がり、彼の騎馬隊は後退に見立てた旋回を行って、涼周達の背後にまで回り込もうとする。


「駄目だ涼周! 来るな! 周りを見ろ、お前まで敵に囲まれるぞ!」


 その動きから敵の意図を悟ったナイツは大声で叫び、楽荘が逸早く危険な状況に気付く。


「涼周殿! 一度下がって味方と合流した後に、再度突入するべし! 今のまま進めば、我等もナイツ殿も全滅の憂き目に遭おうぞ!」


「駄目っ! にぃにも一緒、下がる!」


 涼周は頑として楽荘の忠告に従わなかった。

絶対に兄を見捨てないと言い張り、下がる時はナイツも一緒だという気骨を示す。


「ナイツは殺しても構わん、全力で掛かれ。ただし涼周は必ず生け捕れ。あの幼体には承咨様の予約が入っている。手も足も、一本の欠損も許さんとの御触れだ」


 だが、そうこうしている間にも魯継の指揮の下、涼周包囲網は完成していき、テンベイ軍に至ってはここぞととばかりに必死に壁の役割を果たしている。


「ぅわぁっ!?」


 見かねたナイツが楽荘に、涼周を無理矢理連れていけと言おうとした時だった。

涼周専属騎兵のルイ・ファーカが敵騎兵に組み付かれ、涼周ごと地上に落下。

ナイツの視界から涼周が消え、楽荘も傍に居ながら姿を見失う。


 と言うのも、落下と同時に手から離れた魔銃が、歩兵と騎馬が入り乱れる乱戦場の足に揉まれて遠くへと追いやられてしまい、涼周はそれを探しに行ってしまったのだ。


「たーこいじゅっ!? どこ! たーこいじゅ!」


 小さな体を最大限に活かして、兵と馬の隙間を縫って進む涼周は、知らずの内に敵だらけの場所まで入ってしまった。

周りで戦う味方兵は自分を守る事に精一杯で、とても涼周の存在を認識する暇すら無い。


「ガキだ! そいつを捕まえろ! 捕まえて承咨様の許へ連行しろ!」


「何!? 承咨だと!」


 三十メートルほど離れた先で承土軍兵が言った言葉を、戦場の狂騒の中にあって楽荘はしかと耳に入れた。耳に入れ、同時に敵兵の視線から涼周の居場所も把握。

馬上かつ楽荘本人も巨漢という状況が有利に働き、彼の目は涼周をしかと捉える。


「涼周殿、そこに――涼周殿っ!?」


 下馬した承土軍兵が涼周の腹部を殴り、別の兵が崩れた体を押さえ込む瞬間が、しかと映ってしまう。


「おらぁっ!!」


「いぁっ!? …………ぃ……っぅぅ……!」


 腹部の殴打により、呼吸が苦しくなった涼周は反撃もできないまま敵の手に抑えられた。

ターコイズも無く、周囲に味方も居らず、黒霧を出す余裕すら無く、ただただ脂汗が止まらずに苦悶の表情を浮かべるだけだった。


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