両本軍交戦
ナイツと涼周の兄弟が、騎馬隊と共にメスナ達と別れた四十分後の事。
戦を急ぐナイトは軍の先頭に立って剣を振るい、テンベイ軍の本拠にして丘上の城塞・ジュクシ城を猛然と攻めていた。
「そぅら! どんどん攻め込め! どんどん俺に続け!」
テンベイ本軍二万四千 対 ナイト軍一万三千。
元来、城攻めには守る側の三倍の戦力を要すると言うが、ナイト軍の勢いは三倍の法則を全く思わせない熾烈なものだった。
「だっ、駄目だ! とても防ぎきれない!」
ジュクシ城の麓を守っている諸隊はナイト軍に全面で押し負け、救援に現れた予備兵隊すらも恐れ戦くほどの苦境。
本城内でその様子を見ていたテンベイは忽ち戦々恐々となり、前線で戦う部下達にいい加減な指示を出す事しかできない。交橋防衛戦でも分かる様に、彼は戦下手なのだ。
「まずい、まずいまずい! このままでは承土軍の援軍が来るまで持ちこたえられねぇ……!」
テンベイにとっての不運は更に続く。
未だ戦闘状態になっていない北西の麓を経由して、物見隊長が城内に駆け込んで来た。
「テンベイ様、ナイツ軍の先陣が近付いています!」
「何っ! もうか!? 数は? 将は?」
「それがどうやら全員が騎馬らしく、数も率いる将も確認する間がなかった様で……兎に角、最前線警戒区域の物見兵から続々と敵出現の信号が届いています!」
敵の陣容が分からない程、不安となるものはない。特に今の戦況では真に厄介な事だ。
だがそんな中でも冷静な人物は居るもので、テンベイの側近の一人、バハイがそうだった。
「騎兵ともなれば数は多くはなく、将も韓任あたりでしょう。進める道も街道のみですから、今すぐにでも街道上に部隊を布陣させ、ナイトとの合流を阻むべきです」
「よ、よし! ではバハイに兵三千を与える! 韓任を撃退してこい!」
バハイは主命を帯びるや直ちに出陣。北街道上に防陣を組み、ナイツ達を待ち受ける。
「ナイト様、敵の一隊が北の街道へ移動しました。どうやら若君の騎馬隊が此方に向かっているようで、その迎撃に出たと思われます」
「おぅ、息子が来ているのか。これを利用しない手はないな」
バハイ隊はナイト軍の索敵にかかり、彼等の動きは即座にナイトに知らされた。
ナイトは一振りで二十名近い敵兵を払い飛ばし、自軍と敵軍に豪快な笑い声を向ける。
「ふっははは! 皆の者、ナイツ軍が近付いているそうだ! あいつ等が来ては手柄が減ってしまうぞ! 武勲を荒稼ぐなら今のうちだ! 皆、一層気張れ!」
「おお! 若様が来られるのですか! これは益々もって励まねば!」
「敵の増援が来るのか!? ナイツ軍と言えば昨日の奴等だぞ!」
「あんな奴等まで来られたら、俺達完全に負けるんじゃないか!?」
反響はテンベイ軍の方が大きかった。
前日に二股口広場で敗北している事が影響し、心角兵達は新手の来襲にまで怯えてしまう。
「怯むな! バハイがナイツ軍を防ぎに行ったから、奴等はまだ来ない! 今は当面の敵にだけ集中しろ! 新手が来る前に、何としてもナイト軍を押し返せ!」
テンベイは言えるだけの檄を飛ばしてナイトに対抗する。
然し、彼は元々大した仁徳を持ち合わせておらず、武勇に長けている訳ではないので最前線で勇姿を示す事もない。指揮能力に於いても、単純な突撃や乱戦を行うだけだ。
故に彼の檄は全く響かず、心角兵達も自らを奮わせる要素を感じなかった。
簡単に言えば激励失敗だ。敵との戦意の差が如実に知れた事で、寧ろテンベイ軍側は士気を下げる。
「ふっはは! ……テンベイ、お前の声は聞こえた。だがな、お前の口振りは危険極まりない。言うなれば不安要素の塊、有言実行出来なければ我が身に帰る護身刀だ」
ナイトは微妙に低下した敵の意気を肌で感じとり、片手間に敵将が発した激励の非を指摘。誰に聞かせるでも、テンベイ本人に教えるでもないが、彼は同じ大将の身分として口ずさむ。
「さぁて息子よ。かくも才能に乏しい敵大将に、この戦の決定打を与えられるのか? 俺の息子に、こうご期待!」
「何をブツブツと! 敵大将・ナイト、覚――」
腕に自信あり。そんな敵の小隊長を、剣を振るった際に生じる真空刃だけで一刀両断。
「悟……! ……ごぉっ?」
敵小隊長は痛みもなく、血も吹き出ず、視界が勝手に変わる事に疑問符を浮かべながら、気が付いた頃に絶命。
ナイトは何気ない様子で剣を握り直し、続け様に迫り来る敵兵を蹴り飛ばす。
文字通り蹴散らされた心角兵は、剣合国軍兵に刃を振りかざそうとしていた味方に当たり、不覚をとった敵兵を助ける働きをした。
「ナイト様っ! 有り難う御座います!」
「おぅ、弱い敵だからってあんまり油断するなよ! 武勲も大事だが、それ以上に自分の命が大事だ! 皆にとっても俺にとってもな!」
九死に一生を得た味方兵の感謝に素で返すナイト。
無意識の内に大声でそんな事を言うものだから、彼はとても質が悪かった。
「息子も来ることだ、そろそろ本腰入れて攻めるとするか! 全軍、俺に続けェー!!」
「グオオオォォーー!!」
今までの猛攻が準備運動だと言うナイト。彼の号令に剣合国軍兵もまた、準備運動だと言い張る。
ナイト軍は更なる勢いを生み、獣が如き咆哮は心角兵のみならずテンベイまでも恐怖させた。
テンベイ軍は刻々と憂うべき戦況に追いやられ、上げに上がったナイト軍の士気は、ナイツ軍到着までに麓が制圧されかねない程であった。




