敵本軍迎撃
連合軍の背後をとるべく出撃したテンベイ本軍二万。彼等の士気は最高潮だった。
剣合国軍と表向き上は停戦関係にある承土軍が、援軍を派遣してくれるとは思っていなかっただけに、承咨自らが駆け付けてくれた事が望外の喜びだったのだ。
そしてテンベイと彼の率いる直属軍は、ナイト、方元、ナイツの三軍の内、最も力の弱いと思われるナイツ・涼周連合軍を狙った。
対するナイツは一千の輝士兵とともにホゥロ城戦線を一時的に退き、街道の二股口広場に設けた本陣でメスナ隊と合流。
輝士兵五千とカイヨー兵七千の連合部隊を指揮してテンベイ本軍に備えた。
「……闇雲に進んでいる。自軍の領内だからと言って油断しすぎだ」
迎撃の先陣は侶喧率いる伏兵部隊一千だった。
侶喧は街道をまっしぐらに駆けるテンベイ本軍の右の森林に部下を隠し、敵の前衛部隊を半ばやり過ごしてから号令を掛ける。
「一斉飛刀開始! 絶え間なく撃ちまくれ!」
カイヨー兵は木々の影から姿を見せ、疾走中のテンベイ軍前衛を襲った。
風を切り宙を駈る短刀が、見慣れた森から横殴りの雨の如く飛来。正確性、連続性を以てテンベイ直属兵達を一方的に討ち取っていく。
ナイツの迎撃部隊と交戦する前に、突如としてカイヨー兵の伏兵に攻撃されたテンベイ軍は大いに動転。街道に沿って間延びした戦列が影響して将の指示も中々伝わらず、兵達は個々の判断で侶喧隊と交戦する事になった。
「下がれ! 一度後退だ!」
然し、テンベイ軍が数で押し勝とうと詰め寄れば、侶喧は直ちに退却を始める。
そこで当然の様にテンベイ直属兵は追撃に移るのだが、森に入ればまた別の伏兵が現れ、離れた場所からの飛刀攻撃を受ける羽目に遭う。
その間にも、先の伏兵は森と同化するかの様に颯爽と消え失せた。
「逃げられたか! ええぃ、鬱陶しい蝿どもめ!」
後続の加勢を得て反撃に移ろうとした矢先に、殺り逃げされた前衛部隊の隊長。
自分達の庭とも言える森の中で他軍に良いようにされるのが、相当腹に立った様子。
「今だ! 飛刀攻撃開始!」
テンベイ軍が自軍の右側、即ち侶喧隊の方に意識と兵を向けている間に、次は左側に伏せられた三百名の伏兵が姿を現した。
「蝿どもが、まだ居たのか! ええぃ銃兵、さっさと反転して撃ち返せ! 撃って追い払え!」
テンベイ軍前衛部隊の隊長も負けっぱなしではない。
街道に配した部下の銃兵が背後より先制攻撃を受ける中、怒号を以て動揺を最小限に抑え、速やかな反転を行うと同時に自軍左側の森に狙いを定める。
然し、負けじとカイヨー兵もさっさと反転。一斉射撃が始まるより先に姿を眩ました。
元より左側には味方同士の誤射を避ける為、また伏兵第二波として敵に見破られる可能性も考慮され、それほど多くの兵が伏せられてはいなかった。
それも影響して、左側のカイヨー兵達は侶喧率いる第一波よりも早い退却を見せたのだ。
「ええぃっ! 本当に鬱陶しい蝿どもじゃのう! 両側に兵を回して本軍の周りを飛ばせるな!」
ナイツ本隊との戦闘に先んじて、テンベイ直属兵は二千ずつ左右の森に配された。
索敵・牽制・防御を兼ねた、現状では有効な手であるが、これによって伏兵攻撃による死傷者も含めて五千もの戦力が失われる事になる。
「ははは! 奴等とまともに殺り合うつもりはない。……監視部隊のみを残して、直ぐに遊軍と合流するぞ。ナイツ殿の本戦に遅れる訳にはいかん」
侶喧の鮮やかな用兵術で、テンベイ本軍は大いに気勢を削がれた。
敵の被害数以上に、この戦果は充分過ぎるものだと言えた。
テンベイ本軍は勢い衰えた状態で進軍を再開。伏兵攻撃を受けた一時間半後に二股口へ接近し、ナイツの防衛陣を視界に入れた。
「全軍突撃だ! テンベイ本軍の強さ、敵に見せ付けてやれ!」
直属軍一万五千が展開し、テンベイ本人が陣頭指揮を執って号令を下す。
先ずは彼等にとって貴重な戦力と言える重装兵が突撃を行い、迎撃射撃の被害を最小に抑えながら白兵戦を仕掛けようとした。
「銃兵は下がれ! こっちも重装兵をぶつけろ! ただし、侶喧隊は徹底的に守備だ!」
飛刀香神衆全体を通して、その中には重装兵が少ししかいない。
突いては退くが基本戦術と言える彼等は肉弾戦を苦手とする節があり、ナイツもそれを理解している為に、輝士兵を繰り出して敵の重装兵を抑え込む。
こうなれば、戦場は輝士兵一強で進行する。
「侶喧殿の伏兵奇襲が功を奏して、敵との戦力差が大分埋まりましたね」
「ああ、同数に近ければ完全に俺達が有利だ。――皆、この勢いを維持して、敵を片っ端から弾き返すぞ! 輝士兵の強さ、敵に見せ付けてやれ!」
「オオオッ!!」
テンベイの檄をそっくりそのまま仕返したナイツ。
守る側を忘れて前に出る程に、輝士兵はテンベイ直属兵を圧倒していく。
「ちっ! ナイツめ、あんなガキ大将に良いようにされたとあっては、心角郡のテンベイの名は汚れちまう。――お前等、一点突破だ! ナイツのいる敵陣中央に戦力を固めて突破しろ! 中央を抜けば後はこっちのもんだぞ!」
互いに横陣状態で激突する中、一向に好転しない戦況を嫌ったテンベイが次の動きに移った。
ナイツの防陣に対して一点集中の突撃を敢行し、一発逆転を狙ったのだ。
「テンベイ、お前の言う通りだ。中央を破られれば俺達どころか涼周達まで敗れるだろう。だがな、それが分かっていて突破を許すほど、俺の直属隊は優しくないぞ! 全員、俺に続け! 迫り来る敵を残らず粉砕し、逆に敵の中央を突いてやるぞ!!」
「メスナ隊も突撃! 若を援護しつつ、若に集中して弱まった敵の備を崩すよ!」
ナイツ、メスナの出陣とともに輝士兵五千も猛然と突撃を開始。
両軍の主力兵の大半が樹海内での戦闘となり、輝士隊は慣れのテンベイ軍を質で凌駕する。
更にはナイツが主力部隊を引き付けた事で、当面の敵が弱まった侶喧隊も攻勢に転じる。
連合軍は全体が防衛線より前進して、テンベイ軍を一気呵成に攻め立てた。
「テンベイ様! 味方の被害が甚大です! 中央も隊形を為していません!」
「テンベイ様、ここは一度撤退を! このまま被害が拡大すれば、我々は総崩れをきたします! 承土軍の援軍が到着するまで、籠城するのです!」
伝令兵や側近が各隊及び軍全体の苦戦をテンベイに報告しまくる。
「くそったれ……ナイツといい涼周といい、実にうざったいガキどもだ! ……後退、後退しろ!」
テンベイは苦虫を噛み潰した様な顔を作り、全軍に後退指示を出した。
「敵が逃げるぞ! 全軍で追撃に転じろ! ここで敵の戦力をまとめて屠る!」
連合軍が追撃に移ったのは言わずもがな。
結果としてテンベイ軍は崩壊こそ免れたものの、二股口の攻防戦で六千近い兵を失う。
それは全体の戦況を鑑みれば半壊以上の損害と言っても過言ではなく、彼等は大きく戦線を下げざるを得なかった。
「よし、これでホゥロ城攻めに集中できる」
テンベイ本軍の撤退により後顧の憂いが絶たれたことも事実。二股口広場より北は占拠したも同然となった。




