集落突入
涼周と飛昭が攻略を任された地は美那集落といい、民兵七百名と直属兵四百名の合計千百名が配属されていた。
地形として特筆すべき点は東に森がある事で、進軍の道中に集落との位置関係を確認したナイツは、一つの策を練りながら馬を駆けた。
「ふははっ、待たせたな涼周! どれ、俺と飛昭が簡単に敵を蹴散らしてやる」
喇亀集落から小一時間ほど駆けた頃に涼周部隊と合流したナイツ。
彼は挨拶を早々に済まして軍議を開き、先ずは現状報告を受ける。
「敵は依然として守備を固め、討って出る様子は感じられません。それは俺達も同じで、ナイツ殿到着までは部隊を動かしていません」
「よし、兵達が無駄に疲れていないなら別の作戦に移ろう。みんな額を集めてくれ」
机に広げた地図に注目を集めさせると、ナイツは自らの策を公開。
皆が彼の策に了解を示すと即座に部隊編成が為され、間髪入れずに出陣した。
先陣を切った者は飛昭。三百の兵を連れて美那集落前に姿を現す。
守りを固めていたテンベイ軍は、次も同じ誘い込みだと判断して迎撃に出なかった。
「ふふふ、すっかり警戒しているな。それなら逆にやり易い。全員、射程範囲外のギリギリまでゆっくりと近付くぞ! 盾をしっかりと構えろよ!」
盾を二つ持ち、全身を重装甲で守るカイヨー兵三百はじりじりと集落へ迫る。
「小賢しい真似を……入口の兵と櫓上の銃兵を増やし、射程圏に入り次第撃ち払え」
ゆっくりと距離を詰める飛昭隊に対して、彼等以上の兵を当てるテンベイ軍の小隊長。
美那集落の守備兵は非常に焦らされる形で敵へ刃を向ける。
「止まれ、この辺りで良い。盾を押し出して敵を威嚇しろ!」
だが、飛昭隊がそのまま突撃する事はなく、銃の射程範囲外の場所で停止するや大声を張り上げて集落内を威圧した。
「隊長、敵は攻めて来ません。吠えるだけです」
「油断するな。そう思わせておいて、いきなり突っ込む策かもしれん」
涼周と飛昭の伏兵戦術から逃れただけあって、この隊長は用心深い人物だった。
飛昭隊の咆哮に一層に警戒を強め、数に勝っていても出撃する事がなかった。
「隊長! 二時の方角から新手確認! 数はざっと三百!」
「十時の方角からも来襲! 数は二百あまりです!」
威嚇を始めてから三十分が経った頃、カイヨー兵の後詰め部隊が姿を見せる。
「ふむぅ、今までの遠吠えは後続を待つ為のものか? だとしてもおかしい。わざわざ一千ばかりの戦力を分割して無意味に向けなくとも、大挙して攻めれば良いものを」
「隊長、どうなさいますか?」
「入口の兵を更に増やせ。一気に攻めて来るかもしれん」
敵の後続部隊に備えて正面の守りを厚くする集落守備隊。
直属兵は殆どが北側入口に集まり、民兵も三百名ほどが備えに付いていた。
そして両軍が万全の状態で睨み合った時、集落東側にある森の中より疾風迅雷の速さを以て突撃する騎馬隊があった。無論、ナイツ率いる四百の騎兵達であり、涼周及び涼周専属の走行専門騎兵ルイ・ファーカの姿もある。
「一気に集落内まで突き抜けるぞ! 涼周は先んじて霧を出してくれ!」
先頭を駆けるナイツの指示に従った涼周が黒霧を発生させ、東側の守兵の一角を倒す。
「今だ、鞍を足場にして塀を越えろ!」
バリケードのある入口を避け、集落を囲う高さ一メートル半ほどの塀を乗り越えて侵入。
涼周が積極的に黒霧を出して迎撃に現れる民兵達を気絶させ、その隙にナイツと三百の兵は歩兵戦術に切り替えて北口へと走る。
「東の森から現れた敵が侵入しただと!? 森の見回り隊は何をしていたのだ!?」
櫓上にて飛昭と睨み合っていた守備隊長はナイツ隊の侵入に仰天した。
その様子を遠目に見ていた飛昭はしてやったりとばかりに笑みを浮かべる。
「ふふふ、悪いな。音を立てずに進撃するのは我々飛刀香神衆の十八番。木々等の遮蔽物がある場所ならば尚の事。それでいて、ここに集結した八百名は肉弾戦に特化した選りすぐりの猛兵達だ。――さぁ、俺達の出番がきたぞ! 一撃で入口をぶち破り、内部に侵入だ!」
「おおぉっ!!」
飛昭が現在率いている部隊は、飛刀香神衆にあって十八番技の一つたる飛刀術を苦手とする反面、肉弾戦には滅法強い者達で構成されていた。
「第一陣行けぇ!」
後から駆け付けた二百名が先陣を切り、盾を一つに持ちかえて全力疾走。
速さを威力に変えた強烈な体当たりでバリケードに揺らぎを生じさせる。
「第二陣行けぇ! 一陣は左右に開いて道を開けろ!」
次も後から駆け付けた三百名が突撃。バリケードに激しくぶつかって崩しにかかる。
「第三陣突撃! 第一陣は後退して二次突撃の態勢を整え、三陣は左右に開け!」
三波目の突撃は飛昭が直接引き連れてきた三百名。再び咆哮を上げて猛然と突っ込む。
「うわぁぁ! 障壁が崩されるぞ! 下がれ、下がれぇ!」
家具や土嚢を積んで築かれたバリケードは飛昭隊の波状攻撃によってどんどん崩され始めていた。入口付近の守備兵達は下敷きになるのを恐れて後ろに下がる。
「よっしゃ突破ァー! 全員一気呵成に突き進め!!」
第五波目にてバリケードは完全崩壊。盛大な音と埃を撒き散らして瓦礫の道を形作る。
「飛昭が正面を突破したぞ! 皆、この勢いに乗って攻めまくれ!」
飛昭隊には前方を攻められ、彼等の突入に便乗したナイツ隊には背後から攻められる。
こうなっては実戦経験の乏しい民兵は右往左往する間もなく降伏し、直属軍の面々も手の施し様がなく呆気ない敗北をきたす。
剣合国軍は二十七名の死傷者を出しただけで美那集落を陥落せしめた。
テンベイ軍の被害は民兵の死者が五十余名、直属兵の死者は倍に当たる百名を越え、それ以外は全ての者が捕虜となった。




