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大戦乱記  作者: バッファローウォーズ
心角郡平定戦
114/448

誘い出し


 嘯桂樹海北側にある前線の喇亀(ラキ)集落。この地は民兵八百、直属兵三百が守っていた。


「隊長! 監視櫓からの報告です! 町の外にナイツとおぼしき者の姿が確認できたとの事!」


「何? ナイツと言えば大将の一角ではないか。部下はどれほど連れているのだ?」


「それが、部下はメスナ一人しか確認できないそうです」


 直属軍の小隊長はその返事に驚愕した。

大将のナイツと側近のメスナが、たった二騎で敵地前を彷徨いている事が信じれなかった。

事実確認の為に小隊長は自ら櫓に登り、そこで実際に二人を見る事とする。


「本当に居る。こちらを見て何か掲げて……掲げ……て……」


 よーく見ればメスナが持っている物はテンベイ軍の旗だった。

然し、旗印たる水色車輪の周りには別の文字が大きく後書きされており、小隊長は目を細めてそれを解読。読み終わると同時に憤怒する。


「お・前・等・の・隊・長・は・男・色ってふざけんなっ!!」


 大勢の兵達の前で読み上げた彼は自らの軽挙さも相俟って赤っ恥をかいた。

彼は三百の部下を率いて直ちに出撃し、ナイツとメスナを目の敵の如く猛追する。


「来ましたよ若! すんごい怒ってますよー! ささっ、早く退きましょぉ!」


(……こんな文面、軍議の時は無かったのにな。誰の案だこれ……)


 妙に生き生きとするメスナに疑問符を投げ掛けながら、ナイツは無言で馬首を返した。


 怒り心頭の敵小隊長は屈辱を晴らさんものと前へ前へと馬を進める。馬上にあるナイツとメスナに追い付こうと息巻き、歩兵の足を忘れて僅かな騎兵とともに突出してしまう。


「メスナ隊、出番!」


 やがて草木の茂る川辺まで逃げてきた頃、メスナが唐突に声をあげた。


「伏兵か!?」


 メスナの声を合図に草むらから立ち上がった輝士兵達。

一様に銃を構え、後は隊長の射撃号令を聞いて引き金を引くのみであった。


「一歩も動くな! 眉一つでも寄せれば問答無用で射殺する! 直ちに降伏か無駄死にかを選べ!」


 先行した四十騎程度の敵騎馬隊は、前と左右を輝士兵三百名に固められた。


「くそっ……歩兵と離れ過ぎたのが失敗だったか」


 隙も無駄も無い包囲の中で小隊長が悔やむ一方、後続の歩兵達も林から現れた輝士隊騎兵二百にあっという間に包囲・分断されてしまう。


「その歩兵どもも、煮るなり焼くなり好きにしろ状態になったな。……さあ、どうする?」


「…………分かった。悔しいが、この様に構えられれば抗う術はない。……降伏する」


 小隊長が槍を捨て下馬すると、彼に倣って残りの敵騎兵も武器を捨てる。


「歩兵ども、たった今お前達の隊長は降伏した! お前達も早く意思表明をしろ!」


 後続の歩兵二百名は少しの間だけ味方と顔を見合わせ、満場一致で降伏を表明した。


「よし、今からお前達は味方だ。早速、集落に入れてもらうよ」


 ナイツは捕虜を先頭に喇亀集落へと兵を進め、民兵の武装解除と補給路の確保に当たる。


「さてと、母上と涼周は上手くやったかな」


 剣合国軍の旗が靡く様を見たナイツは独り言を呟いた。


 彼の心配は、キャンディと侶喧のペアに関しては杞憂だった。

と言うのもキャンディが敵を誘き出そうと挑発した矢先に、目前の集落に派遣されていた隊長が無血開城したのである。理由はどうも彼女の実力に恐れをなしていたとの事だ。


「狂い姫が相手とは……俺も運がない」


 隊長の部下曰く、上官はキャンディの姿を見るや己の不運を呪い、上記の事を言って項垂れたらしい。


 それに対してキャンディは――


「こんなに恐れられるなんて心外よ。私、ただ姿を見せただけなんですけど」


 と言って不貞腐れ、活躍なしの侶喧達カイヨー兵に後を任せた。


 問題が起こったのは涼周と飛昭のペアだ。

敵の誘い出しまでは良かったものの、出撃した敵との距離をとろうとした涼周が魔弾による遠距離攻撃を行ってしまい、それが原因で敵隊長は冷静を取り戻し集落内に帰陣。

守りを一層固め、後方の軍基地からの援軍を待つ姿勢に切り替えてしまった。


「参ったな……これじゃ作戦失敗だ」


「…………ごめんなさい」


 敵を追いかけた先で飛昭が呟くと、彼の体の前で悄気ている涼周が謝罪した。

飛昭はそんな涼周に適度な叱責と適度な励ましを掛ける。


「敵との距離は俺がちゃんと計算してますから、馬術の素人である涼周様は俺に任せてくれれば良かったんですよ? 俺だって、敵を引き付ける役目を涼周様に任せた様なもんですから。……次からは、お互いの本領にあまり手を出さない様にしましょう」


「…………ぅん……」


 馬を操れない涼周の代わりに手綱を操作する飛昭、軍大将という存在で敵の注目を引く涼周。

互いの得意分野を活かした連携が作戦成功の第一条件であり、素人の横槍は蛇足以外の何物でもなかった。


「とは言え失敗は失敗。一度下がって、ナイツ殿に指示を仰ぎましょう」


 二人は敵軍の視界から消え、集落を陥落させたばかりのナイツへ報告を入れる。


「……涼周と飛昭が苦戦しているか。よし、お兄ちゃんの力を見せてやるとしよう」


 キャンディ部隊とほぼ同時にもたらされた飛昭の報告に、ナイツは勇んで答えた。


「騎兵四百、俺に続け! 涼周の加勢に向かう。残りの者はメスナの指揮に従って守備だ」


 四百名の騎兵とともに出陣したナイツは、西側の前線集落を攻める涼周の許へと駆けた。


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