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大戦乱記  作者: バッファローウォーズ
未来へ紡がれる想い
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仲間殺しは許さない


 実数一万のカイヨー兵はナイトと侶喧を先頭に猛然と進軍し、江芳は彼等の通行に合わせてバリケードを崩して道を開け始める。


「狂い姫とテンベイが言っていた訳の分からんガキに加え、ナイトと飛刀香神衆か……。カイヨー兵はどうでもいいが、ジオ・ゼアイの奴等が一堂に会するこれも好機。兵どもよ、恐れる事はない! 依然として数は俺達が上だ! この機にナイトもろとも剣合国軍を皆殺しにしてやれ!」


 張幹はキャンディ、涼周、ナイツ、ナイトを前にして願ってもないと意気込んで見せた。

だがそれは彼だけの都合と希望であり、キャンディの得体の知れない恐ろしさ、迫り来るナイト達の覇気を目の当たりにした生横兵達は本能的に後退っていた。


「どうした兵どもよ、何故突撃しない。数は俺達が有利なんだぞ! 攻めろ! 攻めろぉ!」


 戦意喪失している生横兵達に怒声を浴びせて進撃を促すものの、未納税の代わりに従軍させられた民兵から、金で雇われている傭兵まで、強いて言えば張幹直属の強兵に至るまでの全ての兵が一切の動きを見せない。


「張幹、戦の勝敗を決するのは兵の数じゃない、兵士全員の士気だ。ナイトとカイヨー兵の大軍を見れば分かるだろ。……この戦はこれまで、手遅れになる前に引き上げるべきだ」


 張幹の我が儘を制したのは、第二陣として続く筈の扶双だった。

進軍の足が止まり、新手の大歓声が聞こえた事で最前線に現れたのだろう。


「喧しい。今攻めれば勝機があるのに、士気がどうこう言っている場合か。兵ども、さっさとあのガキと狂い姫を殺しに掛かれ! 討ち取った者には莫大な恩賞を約束するぞ!」


 扶双の諫言に耳を貸さず、張幹は恩賞だけをちらつかせて横暴な命令を下す。


「…………」


「……童ちゃん?」


 その言動に辟易したのか、涼周は張幹に冷淡な眼差しを送りつけた後に、背を向けてメスナとナイツの許へ歩み寄った。


「……メスナ、しゃがんで」


「えっ……うん。こう? ちょっ……童ちゃん⁉」


 メスナを屈ませた涼周は有無を言わさず彼女の左手に絡み付いた。

そして左肩の損傷部分に優しく口を当て付け、絶えず流れているメスナの血を吸い始める。


(へぇ、あれがナイツの言ってた涼周の吸血行動か。……確かに不思議ね)


「あの子供……いきなり何を?」


 張幹が依然として吠え散らかす中で突然の奇行に出た涼周。

キャンディはその姿から思う事があり、扶双もまた良くも悪くも目を奪われた。


「涼周、いけるか?」


「ぅん……いける……」


 右手に握る魔銃の銃口から光が生じ、細めた瞳に赤光が宿った時。下唇にまで付いてしまったメスナの血を拭き取った涼周が、静かにナイツの問いに答えた。


「ええい、この役立たずどもめがっ! 進まぬ者は俺が許さん! 切り捨ててくれる!」


「張幹様⁉ ひぃ……ぎゃあっ⁉」


「ひぅ……わ、分かりました! 進みます、進みます!」


 それに反し、山猿の如く喚き散らすだけだった張幹は遂には剣を抜き、足を止めている近くの味方兵を見せしめに切り殺し始めた。

一人二人ではない。怒りと魔力の乗じた刃は十数人を一度に葬っていく。


「おい張幹! 馬鹿な事は止めろ! 血迷ったか!」


 進軍しない兵達に痺れを切らし、大将にあるまじき行いを見せる張幹を、扶双は槍で制止した。敵の前でみっともない姿を見せる山猿大将と、敵ながら目を合わせずとも見抜けた二槍の漢。


 涼周は二人の様子を静かに眺めつつ、自らの血を左中指に帯びさせ、討つべき敵を見定めた。


魔銃(マガン)全開っ!」


 キャンディの左、即ち剣合国軍の先頭に立った涼周は魔銃を張幹へ向けて突き出した。

涼周の大声に反応した魔銃が大量の魔力を放出し、涼周とキャンディ、更には二人の背後に居る者達までを守る黒霧の渦を発生させる。


「な……何だ、この魔力は⁉ あんな子供が……どうやって!」


「あのガキだ! ガキをさっさと殺せ! 下がった者は俺が殺すぞ!」


 状況を認識した扶双と張幹が、動揺と脅迫の様相を見せた。

士気の上がらぬ突撃を強行させられた生横兵に至っては、涼周まで残り三十メートルといった辺りで黒霧に呑まれて倒れ込む。


 その間にも魔銃は大型銃へと変形を遂げ、涼周自身も下唇に己の血を塗る。


「ターコイズ、みんなの仇を取ろう!」


 黒霧のバリケードは生横兵側へ流れ込み、彼等の多くを気絶させながら消えた。

同時に、無傷な涼周の許からシラウメの花がメスナへ向けて飛び、彼女の全身を優しく且つ温かく包み込んで、全ての傷を癒し尽くす。


「す……凄い……怪我が、全回復して……童ちゃん、有り難う!」


 メスナの感謝に答える様に、涼周は彼女へ向けて良い笑顔を作って見せた。

その後、前へ向き直った涼周は表情を一転させ、生横兵の奥を激しく睨み付ける。


「お前は俺の目に映らない‼」


 そして魔力を乗せた大声とともに、兵の群れを越えた先にある安全圏から動かない張幹を勢い良く指差した。


「かの霊鳥は不浄なる存在を焼き消す聖なる業火!」


 上唇に付着したメスナの血を舐め取り、左手に赤く燃ゆる火属性の魔力を顕現させ、一発目の魔弾としてターコイズに装填。


「其の翼は悪を畏怖させる漆黒の銃身!」


 次に自らの血を舐め取り、黒霧を帯びた左手でターコイズに闇の魔力を装填する。

魔銃の中で激しく混ざり合う火と闇の魔力が涼周の詠唱を受けて一つとなり、凄まじい威圧と熱風が張幹軍の進軍を全力で拒む。


「焼失させろ! 火銃鳥 ヤタガラス‼」


 突き出した魔銃から朱殷(シュアン)色の合成魔弾を放射。張幹へ向けて飛び進むそれは巨大な火の鳥を形作り、闇がかった熱風が道中の生横兵達を伏せさせていく。


「なめんなカギが!」


 銃に持ち替えた張幹も大量の魔力を込めた一撃を放つ。涼周の魔弾に比べれば格段と小さいながらも、闇の魔力を凝縮した一点集中型の鋭利な一発だ。


 二人の魔弾は衝突に伴い銀色の炎と撃鉄音に近い轟音を生じさせる。


「あっ! 童ちゃんの魔弾が!」


 力比べから二秒後、涼周の魔弾が次第に衰え始め、張幹の一発が火の鳥を貫きそうになる。


 ナイツは咄嗟に涼周の左前方に立ち、もしもの時に備えた。

だがその瞬間、ナイツとキャンディは涼周の闇を垣間見る。


「……ふふっ……!」


 そう、押されている状況を目にした涼周は、得も言えぬ恍惚的な笑みを作っていたのだ。

苦戦の末に敗れた自分が痛め付けられる事を望んでいるのか、魔弾勝負の勝利が見えている故に敵の死を心待ちにしているのか、または己の力に酔いしれる事で快楽を覚えているのか。


 兎に角、幼子に似合わぬ笑顔だった。


「なっ、何ィ⁉」


 兄と母が涼周の表情に気をとられた時、涼周が笑った次の瞬間だ。

張幹の魔弾を黒霧が包み、実弾以外の全てを吸収。火の鳥は勢い増幅して敵将に突っ込んだ。


「あっ……あぁぁー⁉」


 合成魔弾が命中するとともに高く太い火柱が上り、張幹のみを焼き尽くす。

不思議な事に彼の乗っていた馬には火傷一つなく、何事もない様にかっぽかっぽと火柱から出てくる。

しかも人肉の焼ける不快な匂いは一切なく、浄化の炎と呼ぶに相応しい綺麗な業火だった。


「おぅ! 涼周が敵将を討ち取ったようだぞ! 皆、一気に突撃だぁー!」


「うおおぉー‼」


 遠目にも張幹の死を視認したナイトが、カイヨー兵の士気を絶頂まで昂らせた。


「くっ、来るぞ! 剣合国軍の増援部隊だ!」


「もう張幹なんかに従う必要はねぇ! 俺は逃げるぜ!」


 対する張幹軍の前衛は殆どが気絶状態、中衛以降も剣合国軍の勢いに完全に呑まれてしまう。

更には大将が墨も残らず焼死した事で、彼等は本当の烏合の衆となり、数人の傭兵が逃げ出せば連鎖的に軍の敗走へと繋がった。


「立て直しどころではないか。……それにしても……」


 手遅れになる前に自らも撤退する事とした扶双だが、馬首を返す前に涼周を一目見る。


「…………」


 力尽き脱力した涼周の方も、メスナに支えられ、ナイツとキャンディに守られながら、扶双の目をじっと見ていた。


「……槍二本持ってるから、ニソウ!」


 そして鑑定が終わった所で表情に花を咲かせ、扶双のニックネームを決めた。


「惜しいな、俺の名前は扶双だ!」


 涼周と、その小さな身を抱き止めているメスナへ向けて手を振る扶双。

さっと馬を反転させ、張幹軍を引き連れて東基地の方へと退散していく彼は、この戦で涼周に一目置いたという。


 戦況は嘘のように逆転した。

張幹の討死にを知るや否や、テンベイと心角兵達は我先に退散。持てるだけの戦利品を担いで東南の自領へ向かってひたすら駆ける。

扶双も自軍を素早く基地から追い出して北東の武孫郡へ向って撤退。彼に至っては自らが殿を務める。

最後に張幹亡き後の生横兵達だが、彼等は副将の牛保ギュウホの指示に従う事もなく個別で逃げ出し、潰走の二文字が如何にも似合う様を見せていたという。




「桜上歌防衛戦の二日後。梓州豪族連合に属する心角郡のテンベイが交橋に夜襲を仕掛ける。

その時あの御方とキャンディは西基地にあり、二人を任されたメスナは交橋守将の江芳と共闘し、東基地にてテンベイ軍を撃退した。

義仁城の淡咲へ豪族連合の情報を報せたナイツが後に合流。

休む暇も無いままに、今度はテンベイに加え生横郡の張幹、武孫郡の扶双等と交戦。戦力差は剣合国軍一万に対して豪族連合が六万程であったという。

剣合国軍は東基地を陥落させられるものの、ナイト及び梅朝に配属されていたカイヨー兵一万の加勢を得て豪族連合を押し返す。

その最中に張幹があの御方に討たれ、残軍は副将の牛保が率いる事となった。



あの御方曰く、張幹討死にの理由は奴が大将らしからぬ駄目な大将だった事。

「プープー喚くだけで自分は何もしないんだよ? あ、でもした事はあるか。……俺の目の前で自分の仲間を殺した事」

微笑を交えた彼の言葉を聞いて、実際に同地に居合わせた扶双も同意見を示す。二人ともが、張幹を生横山の猿大将と罵った」


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