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大戦乱記  作者: バッファローウォーズ
未来へ紡がれる想い
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苦しき後退


「若様! 南側守備隊の死傷者が半数を上回り、もはや隊としての形を成していません! このままでは彼等は全滅をきたします!」


「江芳様からの伝言です! 基地を放棄して橋上に後退するべきとの事!」


(メスナが敗れれば中央の江芳まで敵が迫り、俺達も江賢も背後を取られる。……悔しいけど、ここが引き際か)


 総崩れ寸前の状態にあるメスナ隊の戦況と江芳の進言を聞き、ナイツは撤退を決断する。


「……無念だが…………撤退だ! 先ずは江芳を下げ、橋上に守備陣を築かせろ。俺と江賢は同時に兵を下げるが、下がる場所はメスナと同じ辺りまでだ。そしてメスナ隊へ援兵三百を送り、俺達が下がりきるまで耐えてもらう。急ぎ三人の将へ、その旨を伝えてくれ!」


 ナイツの指示はメスナ、江芳、江賢の許へ飛ばされた。

各将は即座に動きを見せ、メスナは三百の増援を含む千五百の兵力で現場の維持に尽力し、ナイツと江賢は司令塔から上げられた煙弾を合図に塀より撤退。


 当然ながら北の心角兵と東の生横兵は、これを機に塀を乗り越えて内部へと侵入する。


「門が開いたぞ! 今こそ憎き剣合国軍を皆殺しにする時だ! 全軍、一気に攻め込め!」


 塀放棄による実害を最も受けた部隊はナイツ隊だった。

何とか防ぎ止めていた生横兵が堰をきった濁流の如く押し寄せ、後退する剣合国兵を手柄の立て刻とばかりに攻め立てる。

ナイツが三百名の兵とともに殿を務めるが、彼の小隊は敵の勢いに完全に呑み込まれ、時間を稼ぐ所か一気に勝負が決する程の危機的状況に陥ってしまう。


「若様を離脱させろ! ここは俺が受け持つ!」


 崩壊する部隊の中で踏み留まるナイツを見て、小隊本来の隊長が部下に命じる。

三名の兵士がナイツと生横兵の間に入り、もう三名がナイツの体を掴んで強制的に下がらせた。


「お前達何を⁉ ……まだだ! まだ戦えるぞ!」


「もう充分です若様! 若様は早くお引きくだされ!」


 強制的に下げられるナイツに代わり、小隊長が指揮を引き継ぐ形で号令を下す。


「者ども突っ込め! 張幹軍を食い止めろ!」


 早くも半数をきっていた殿兵達は猛然と突撃を敢行。部下を見捨てる事に躊躇いを見せるナイツに諦めをつかせるかの様に死地へと突き進む。


「……すまん、お前達の言葉に甘えるぞ!」


「遠慮無用! 早くお引きあれ!」


 群がる張幹軍を死兵となって防ぎ止める殿部隊に一声掛けたナイツ。

彼は小隊長の言葉を耳にした後に反転し、断腸の想いでこの場を後にした。


「若様、どうか御武運を……ぐあっ⁉」


 殿部隊の奮戦も虚しく、圧倒的物量差はナイツが去った戦線をたちまち瓦解させた。

殿部隊はナイツに付き従った六名の兵士を除いて壮絶な戦死を遂げて全滅。


「うわははは! いいぞいいぞ、もっと前進しろ! 剣合国軍を殺し尽くせ! ナイツやメスナ、江芳等の首級を上げた者には莫大な恩賞をとらせるぞ‼」


 漸く波に乗った張幹は、得意気になって前衛まで現れ、恩賞をちらつかせて自軍に更なる進撃を言い付ける。

これ程の優勢となれば、圧政に不満を抱いている多くの生横兵も嬉々として張幹の指示に従わざるを得ない。


「敵将の首だ! 敵将の首がまだ残ってるぞ!」


「最前列遅いぞ! そんなトロトロ進軍してたらナイツの首に逃げられるぞ!」


「その調子だ兵どもよ! 今は絶好の稼ぎ刻! 今ならばどんな剣豪だろうと討ち取れるぞ!」


 目の色を変えて戦を望む生横兵達は張幹の扇動に勢い付く。


 北側のテンベイも彼等に便乗し、猛攻姿勢を以て江賢隊を攻撃。

江賢隊の殿部隊もあっという間に食い破られ、基地の七割程が豪族連合の手に落ちた。


 剣合国軍の戦線は司令塔のある内部西方まで後退し、そこへメスナ隊千二百名、ナイツ隊千八百名、江賢隊千六百名の計四千六百名が集結。その後ろには橋上で防陣を構築中の江芳隊七百名が存在するだけで、西側基地には前哨戦で捕虜となった心角兵を捕らえておくだけの兵力しか残っていなかった。

つまり現状ではナイツ達の居る司令塔付近が最終防衛線であり、江芳の守備陣が出来る前に、この場を突破されたら後はない。


 それだけに剣合国軍の将兵は決死の防戦を展開し、メスナ隊に至っては殆どの兵が傷付き疲弊している中で頑強な抵抗を示した。

それでも三方向から攻められる苦境が覆る事はなく、剣合国軍は次第に余力が尽き、各隊の被害はより甚大なものへとなっていく。


(くそ……せめて張幹さえ討つことができれば!)


 ナイツは肉眼で捉えられる場所に居る敵将を一瞥する。


 今戦に於ける豪族連合の盟主的存在の張幹はナイツとの距離を一定に保ち、間々に兵を当てて自身は安全かつ指揮が執りやすい場所から動かないでいた。

彼を討つことができれば戦況は一気に剣合国軍側へ傾く可能性があるのだが、兵達には張幹目指して突撃する体力は無く、狙撃するにしても銃の有効射程距離からは外れ、且つ敵の銃撃が集中する高台から狙撃する余裕はない。


「若様! 江芳様から報告です! 遮蔽物による防壁がもうじき完成する為、部隊をゆるゆると退げる様にとの事!」


「よし、江賢に自分の兵とメスナ隊の兵を率いさせて退かせろ! メスナには俺の部隊の最後衛に加わり、橋入口の守備を固める様に伝えてくれ!」


 まずは江賢隊とメスナ隊の残兵二千を先に下げる。そして彼等が居なくなった分だけ戦線を縮小し、ナイツ隊千五百名が橋の入口付近まで後退した。


「若! 江賢殿が下がりきったわ! 若も早く!」


 敵の大軍相手に一歩も退かない奮戦を見せるナイツの背中へ向けて、入口からの援護射撃を行うメスナが叫んだ。


 だが極度の集中状態にあるのか、ナイツは一切の反応を見せない。


「若! 周りを見て! もう味方は殆ど居ないの! 早く下がって!」


 メスナの言う通り、ナイツに従って最前衛で戦う兵は四百をきっていた。

ナイツが一秒も止まる事なく敵を切り続けている為、彼の周りにはまだ多くの兵が残っている状態だったが、そこ以外は一対三ほどの戦力差であり、続々と味方兵が討ち取られている。


「若ぁっ‼」


 メスナは声と多節細剣に魔力を込めてナイツの右前方へ刃を突き出した。


「はっ! メスナ⁉」


 次に切る予定だった数人の生横兵がメスナの一撃により細切れとなった事で、ナイツは漸く自分の置かれている状況に気付く。


「若! もう充分です! お願いだから下がって‼」


 声を枯らしたメスナの悲痛な叫びを受けて、ナイツは反転しようとした。


 然し、その状態を待ちわびた生横兵達は一斉に彼の背後に襲い掛かろうとする。


「くおぉ! させるか!」


「若様、今のうちにメスナ将軍の許へ!」


「お前達……⁉ ……すまんっ!」


 付近の剣合国軍兵がナイツと生横兵の間に割って入り、死力を以て敵の刃を防ぐ。


「若様! 我等が若様の殿となります! 後衛の兵と共に江芳将軍の許まで退却を! 皆、我等は突撃だァ‼」


 死兵と化した前衛の四百名は中隊長の号令を最期に突撃を開始した。


「皆……本当にすまないっ!」


 ナイツは目に涙を浮かべ、残る後衛の残兵五百名を率いて江芳との合流を図る。


「これで良いのです! 若様の体は若様だけのものではありません! ……さぁ皆の者! 覚悟は良いか! 最期まで剣を振るって一人でも多くの敵を道連れにしろ! 我等剣合国軍の意地を、豪族連合の弱卒どもに示してやれ!」


「うおおぉ‼」


 ここでも三百近くまで減った剣合国軍兵が玉砕して果てた。

これにより交橋東基地は完全に陥落し、豪族連合は多大な犠牲を出しつつも着実に勝ち進み、勢いに乗りきった張幹軍が先頭となって交橋にまで侵入する。


 開戦より三時間半が経過した現在、剣合国軍の死者は五千名に達する寸前だった。

だが豪族連合の被害も決して軽微とは言えず、終始剣合国軍の奮戦を前にして彼等の三倍にも及ぶ死傷者を出していた。


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