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大戦乱記  作者: バッファローウォーズ
未来へ紡がれる想い
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切っ先に想いを乗せて


 メスナ隊苦戦の一報はナイツの耳にも入っていた。

彼は直ぐさま二百名の兵士を応援に派遣するが、基地内での消耗戦となっている戦況に対し、この数は椀一杯の水で荷車一台分の火を消すほどに無理な事であった。

元々の戦力差がメスナ隊三千 対 扶双軍二万三千なのだ。

寡兵側が地の利を失った時点で、二百や千程度の増援では意味がない。


「メスナ将軍! これ以上兵を失えば味方は総崩れです! 手遅れとならない内に退却の指示を!」


「まだ戦える! それに私達の判断だけで動けば、若のいる東側まで危険に曝されてしまう!」


 扶双軍の猛攻に三割近くの兵を失って尚、メスナは現場の死守に固執していた。


「そなたをこれ程までに必死とさせる……ナイツとは、良き主なのだな」


 懸命の防戦に息を切らすメスナを見て、扶双が不意に呟いた。

何処と無く羨ましげな、熱のない表情だった。


「まぁ……確かにそうね。若は主足り得る存在。……でもね、若だけじゃないのよ。奥方様や童ちゃん、それに多くの兵隊さん達もそう……!」


 多節細剣を連続で突き出し、扶双の体の至る箇所を狙うメスナ。


(この攻撃に惑え! それで次の一撃で堕ちろ!)


 二槍を巧みに操る扶双には隙らしい隙が見られない。

それでも翻弄する連続突きを前に、彼の槍捌きは若干大振りになった。


 メスナには、その若干の動作の違いを突く自信がある。

否、自信だけではなく、負けられない、もとい負けたくない想いもあった。


「私が負ける訳にはいかないのっ‼」


 大量の魔力を瞬時に込め、僅かな隙を狙って今までで最速の突きを繰り出す。


「っ⁉ ぐぬぅ……!」


(ちくしょうっ! 防がれた!)


 然し、左足に向けて放った彼女の刃は間一髪の所で防がれてしまう。

扶双は魔力強化を施した槍の柄を地面に突き刺し、不退転の構えを以て弾き返したのだ。


「今のは危なかった……。まともに受ければ足が吹き飛んでいたかもしれん」


 体に直接的な損傷を負わせる事は叶わなかったが、その体を大きく下がらせる事には成功していた。


「敵将、覚悟!」


 引きずられた石突きと両足の靴が地面に十メートル程の直線を描いた先で、扶双の背後から剣合国軍兵が切り掛かる。


(今度こそ、喰らえっ!)


 右半身を背後の兵士に傾け、槍と力と意識が半分もなくなった隙を逃さず、メスナはもう一度大量の魔力を込めた必殺突きを放つ。


「せやぁ‼」


 だが、扶双の底力は相当なものであった。

槍を得物とし、メスナ同様に一点を確実に狙った突きを繰り出す事に長けた彼は、残る左側だけで迫り来る刃を捕捉し、その軌道線上に槍の刃先を突き出した。


「うあぁっ⁉」


「ぬぐっ⁉」


 両者の切っ先が激突した途端、耳鳴りを倍にした様な甲高い音が発生し、大量の魔力同士の衝突による銀色の爆発が起こる。


「メスナ将軍! 御無事ですか⁉」


「大将っ! 大丈夫すか⁉」


 互いの武器が大きく弾かれた事で二人の体も盛大に仰け反り、両軍の兵士が安否を尋ねるべく互いの周囲に集まった。


「ええ……何とかね……」


 駆け寄る兵達に軽く手を振ったメスナは直ぐに体勢を立て直す。


 その姿に一安心した兵達は彼女の前に立って扶双を睨む。

見ればその状況は向こうも同じらしく、将同士の一騎討ちは半強制的に中止となった。


「…………少し熱くなり過ぎた様だ。俺は一度下がるが、皆はこのまま攻めてくれるか?」


「お任せ合点承知の幕ゥー‼」


(何その返事! ちょっとカッコいいじゃない!)


 二槍を収めて部下達に後を任せた扶双。そんな大将とは対照的に元気の良い謎返事をする大勢の兵達。そして彼等を少しだけ格好良く感じるメスナ。


「メスナ殿、また合間見えよう。願わくば、その時までそなたが無事である事だ」


「ふっ……本当に自分の気持ちを隠せない人ね。……一軍の大将なら、兵達の手前でそんな言葉を使わない方が良いわよ」


「心に留めておく。……皆、後は頼んだぞ!」


「合点合点承知の助ェー‼」


(また違う返事! これも真似しちゃお!)


 武孫兵は細かいことを気にしない質なのか、自分達の前で大将が敵の武運を祈る事に関して何も言わなかった。寧ろこれこそが、我等が大将と言わんばかりの謎な盛り上がりを見せる。

去り際の一言で、然り気無く武孫兵達の士気を高めた扶双の姿からも、彼が如何に部下達から慕われているかが分かり、同時に敵として侮れない存在だということも示していた。


「……やっと退いたか……。みんな、これから反撃に移るよ! 一気に塀の外まで敵を押し返す!」


 メスナは扶双に倣わず前線に残り、全体の指揮を執りつつも息を上げる兵達を鼓舞して回る。

大苦戦の中にあっても彼女は諦めず、戦況の好転を願って奮戦したのだ。


 然し、想いだけでどうにかなる程の弱い敵ではない上に、圧倒的物量の差がメスナ隊を無情にも押し潰していく。


(まずい……! 純粋に兵の数が足りなくて、もう抑えきれない!)


 扶双の後退により落ち着くと思われたが、状況的には既に手遅れだった。

大将が不在でも武孫兵の士気は下がる事なく逆に上がり、メスナの懸命な指揮や剣合国軍兵の奮闘も虚しく、基地南側の戦況は更に悪化していった。


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