二将の顔合わせ
豪族連合再来の報せが届いたのは、ナイツ到着から更に一時間後の七時過ぎ。
実際に軍勢が姿を見せたのは八時を回った時だった。
「有象無象の雑兵ばかりを、よくもまあ集めたものだ」
進軍して来る豪族連合軍の烏合を見て、司令塔にある江芳は独り言を呟いた。
敵は軽く見ても六万近くの兵力を有しており、味方との戦力差は歴然。正直に言えば、質の高さで不利を補える範疇を優に超えていた。
「……これは……ちょっと厳しいかな」
仮眠の間さえ充分にとれないナイツ達は、現状の防御施設を用いた防衛戦しか打てる手がなく、何かしらの策を弄する時間は到底なかった。
ともなれば単純な攻防が繰り広げられ、果ては消耗戦となる事は目に見えている。
(……だが今の俺達には、長期の消耗戦をするだけの戦力がない。敵も雨中の行軍を経て疲れているけど、俺達はもっと疲弊している。母上が言うように、戦略的撤退も視野に入れなければ)
夜を徹した連戦により、剣合国軍の士気は低かった。その上、兵数も敵の六分の一程度。
ナイツは可能な限り抵抗するつもりだが、この東基地防衛で兵を失い過ぎると西基地まで一気に落とされてしまう可能性がある。
故にナイツと江芳の二人には、引き際を見極める目を要求された。
「全軍、展開しろ!」
基地を前にした張幹が、魔力を乗じさせた声で号令を下す。
それに従いテンベイ率いる心角兵一万五千は北側へ、扶双率いる武孫兵二万三千は南側へ、張幹の生横兵二万五千が東正面に布陣。
合計六万三千もの連合軍が、交橋東基地に籠る剣合国軍一万一千を三方より取り囲んだ。
「えらく慎重に構えるわね。焦らしてるみたいで、何かいけすかない」
メスナはさっさと攻撃を仕掛けてこない敵へ冷ややかな視線を送った。
動くことの適わない自分達に兵力の差を見せびらかすような慎重さが気に入らなかったのだろう。これには本人の後日曰く、寝不足も一因だという。
「なん……と……⁉ あれなる女将は……何者であるか……!」
だが高台から冷めた視線を見せるメスナに、何故か魅せられた者が一人いた。
南側配置となり、メスナ隊と相対した武孫郡の扶双である。
「……えっと、あれがおそらく我々の担当する敵将・メスナではないかと」
傍に控える側近の一人が額に手をかざしてメスナを確認し、その存在を答えた。
「女性の身ながら戦場に立つだけあって、これ程の兵力差にも臆しておらぬ! それどころかあの余裕さ……! 決めたぞ、俺はこの戦に勝利して……彼女に求婚する‼」
「はいぃー⁉」
側近どころか兵達までもが、扶双の言葉を聞いて素っ頓狂な声を上げる。
扶双はメスナの瞳を涼やかな余裕の表れと間違って捉え、あろうことか彼の偏見によって生まれたメスナの気概に一目惚れしたのだ。
「あれ? 敵の本陣らしき場所が慌ただしいけど……何かあった?」
「いえ、いきなりの事でしたので、私達にも分かりません」
「怖じ気付いたら良いのにな。んで、そのまま撤退してくれないかしら!」
ふっと目を離した隙に扶双本陣が荒れている事に気付いたメスナが、傍の兵士にその事を尋ね、有り得ない状況を望んで微笑を浮かべる。
「ぬぬぬ、何と! 次は俺達に向かって微笑んだぞ! さては俺達の武運を祈ってくれているのでは!」
「んな訳ないでしょーが! 大将、あれは敵ですよ敵!」
「仮に敵の武運を祈ったとして、この状況でそんな事する女なんて絶対性格悪いでしょ!」
「大将……いくら俺達に色が無いからって、敵に色欲を沸かさないでください」
「俺達頑張って女装しますから! 今は戦に集中ですよ!」
「あらやだお兄さん素敵じゃなーい! 今夜、どうかしら?」
扶双が直球馬鹿……所謂アホの一人であるならば、彼の部下達も同様だった。
普段から部下達の気兼ねない言動を笑って流す程の好漢なだけに、人望はあるのだが、如何せんそれが原因で最後の二人の発言は、中々に強烈なものだった。
「…………ぅえー……」
「…………すみません」
場の空気が凍り、一拍置いて冷静を取り戻した扶双が戻す仕草を見せる。
悪乗りした二人の側近は頭を下げ、開戦前に士気を下げた事を心から詫びた。
「……だが、そなた達の言う通りでもある。今は戦に集中する時。……求婚するのは戦が終わり、彼女と見えてからだ! 皆の者、良いな!」
「…………はいっ!」
(すみません……何が良いのか分かりません大将)
(でも良いって事にしとかないと……)
(戦自体が始まらない気がするから……はいっと)
これがメスナと扶双の、軍を隔てた関係の始まりであったという。
再びメスナの後日曰く、
「いやいや……普通に考えても、あれはやっぱりない……でしょ。どんだけ都合の良い目をしてたって……話よ」
それに対する扶双の返答が――
「例え俺の目が間違っていたとしても、メスナという女性の存在に過ちはない。……それだけで俺には充分過ぎる!」




