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大戦乱記  作者: バッファローウォーズ
未来へ紡がれる想い
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母子参戦


 メスナが奮戦する南側の反対、北側でも心角兵の物量攻撃が功を奏していた。

塀を越えられた剣合国軍はじりじりと押され、江芳は残りの予備兵の全てを北側へ集結させた。


 こうなると次は、メスナが離脱し且つ後援も満足に受けられない東側正面が次第に押され始める。

北と南で多くの敵の侵入を許している現状に加え、東の正門を突破される事は基地の陥落を意味し、江芳自らが本陣部隊を率いて東側に駆け付けようとした。


 だが、ここで待ちに待った西基地からの援兵四千が到着。彼等を率いている将は西基地の守将でもある、江芳の息子の江賢コウケンだった。


「倅には二千の兵で正門に備えさせ、一千ずつを南北の加勢に向かわせるのだ!」


 後続を得た東基地の江芳兵の士気は大いに上がり、各現場の諸将は態勢を立て直す。

その中にあって最も勢いを取り戻した場所は、メスナの居る南側だった。


「お待たせメスナちゃん。後は私が引き受けようか?」


 黄色の戦闘着に身を包んだキャンディが颯爽と現れ、メスナの怪我を治癒魔法で治す。


「っと、貴方達邪魔よ」


 かと思いきや、蚊を払うような軽い言葉と手の動かしだけで、三十人ばかしの心角兵をささっと払い除けてしまう。


「うわああぁっ⁉」


 圧倒的強さを体感した心角兵達は、優雅に宙を舞わされた後に塀の外へと追い出された。

不覚にもメスナは、その様子に可愛さを覚えてしまう。


「御手を煩わせてすみません、もう大丈夫です。それと、童ちゃんはどうしたんですか?」


 全回復したメスナは負けじと多節細剣を振るって十人程度を片手間で討ち取る。


(くっ! ……奥方様には全然及ばない!)


 同じ片手間でも戦果は全く違った。メスナは悔しがる。


「はふふっ! 涼周なら西側の基地で寝てるわよ、きっと!」


 彼女の想いを察したのか察していないのか、キャンディは雨が降る深夜の戦場でにっこりと花を咲かせた。


「では……童ちゃんが騒音で起きない内に敵を追い返します!」


「ええ、私も手伝いますよ」


 キャンディの笑顔を見て心にゆとりを生じさせたメスナ。


 やる気を滾らせた彼女に呼応する様にキャンディも参戦を表明し――


「剣合国軍の皆さーん! もうこの戦は勝ちましたので大歓声を上げちゃってください! 西の基地にも響くぐらいの大声を出して敵を跳ね返しましょう!」


「うおおぉー‼」


 味方兵に勝利の咆哮を上げさせた。


「は……ははっ……。大声……だしちゃうんですね。メスナ、頑張りまーす」


 数秒前に私が言った事を、この御方はもう忘れていらっしゃる。

メスナは眠る涼周を叩き起こすつもりのキャンディの熱意に半ば絶句した。


「テンベイ様! 敵の増援に、ナイトの妻のキャンディが現れたとの事です!」


「敵が反撃に移りました! 我が隊は大苦戦です!」


 そして攻撃側である心角郡のテンベイも、この状況には絶句する。


(何でだよ……何で大魔法使いの狂い姫まで出て来てんだよ⁉ 淡咲なら話は分からなくもないが……何でよりによって狂い姫の一人が居るんだよ⁉)


「…………東と北は! 今はどんな感じだ!」


 テンベイは何とか戦況把握に努めようとした。


「東は敵将・江賢によって頑強に守りを固められ、北は正体不明の幼子が守備兵を率いて奮戦している様で……両方とも苦戦中です」


「はぁっ⁉ 幼子ぉ⁉ 何でやねん⁉ てか誰やねんそれ⁉」


 然し彼の心を挫く存在はキャンディ以外にもあった。

それはキャンディに遅れて北側の助っ人として現れた涼周である。

涼周はキャンディに遅れた頃合いに登場。一千の援兵に続く形で参戦していた。


「あのガキに近寄るな! 気を奪われるぞ!」


 涼周が放つ黒霧は正確には気を失わせるだけのもの。

とは言え、涼周の存在を未だ知らない心角兵から見たら、幼子が手を振るうだけで味方がバタバタと倒れるのだからそう思えても仕方のない事だった。


「おらおら! 押し出せ押し出せ! 敵を跳ね返せぇ!」


 援兵一千に加えて涼周の加勢まで得た北側守備隊は、留まる所を知らぬ反転攻勢に出て心角兵を圧倒していた。

涼周が大勢の心角兵を気絶させると、そこへ江芳兵と江賢兵が突入。それの繰り返しで敵の戦列を乱しに乱し、元からあってない様な脆弱な陣形を完全な無陣状態とする。


「撤退だ! 撤退の合図が出たぞ!」


 やがて被害が大きくなり始めた為、自軍の崩壊を危ぶんだテンベイが撤退指示を発した。

心角兵は攻撃を中止して基地の外へと逃げ出そうとするものの、大勢の者が塀へ集中した為に、余計に動揺が広がってしまう。

攻める時は良かったが、いざ退却となった際には退路を遮断されている状態にあったのだ。

更には塀の高さは三メートルはあり、自分一人だけで越えられない事も混乱を加速させる。


 最終的に心角兵達は誰が踏み台となり捨て石となるかで仲間割れを起こし、本来の敵の存在を忘れる程の動転ぶりを示した。


「喧しいわ心角兵ども‼ 今からこの子が大事な事を言うから静かに聞かんかい‼ 煩いわ! 喧しいわ‼ 黙れったら、だ! ま! れぇー‼」


(……江賢隊長も相当煩せぇ……!)


(うおっ⁉ 相変わらず将軍の御子息は喧しいな!)


「……むぅぅ……うるしゃぃ……!」


 東側を守っていた筈の江賢が逃げようとしている心角兵に破声を向け、傍にいる涼周や部下達が一様に耳を塞ぐ。

何故江賢がここに居るのかだが、東正面の敵は基地内への侵入ができていない状況が味方して、テンベイの指示を受けてさっさと撤退する事に成功。

それは江賢からすれば、逸早い敵の撃退に成功したも同じで、彼は急いで北側へと駆けつける事ができたのだ。


「静かになったな。では……どうぞ!」


 敵味方が静まり返ったのを機に、江賢は涼周に流れを渡す。


「ん、お手て振られたくなかったら、降参する!」


 左手をヒラヒラと振り、小さな黒霧を出しながら投降を勧める涼周。

……の背後で、江賢と大勢の兵達が武器を肩に掛けて恐ろしい睨みを利かして威圧する。


「はっ……はい……降参します」


 逃げ遅れた六百名ほどの心角兵は降伏。黒霧によって気を失った後に捕縛された者も含めれば、北側だけでも投降者は八百名近くになった。


「れつ……れつ……な。……メスナ?」


「あっ、いえ烈菜レツナです。俺達の出征元の集落の名前です」


 涼周の降伏勧告に従った心角兵の多くが、軍服に「烈菜」と刺繍が施されており、彼等はテンベイ軍の中にあっても小奇麗かつ、まともな軍装だった。

それを見て、質問した涼周はどことない違和感を覚えたという。


 最終的にテンベイ軍は、三千近い死傷者を出して敗退。後続の味方との合流を図った。



「あら、涼周まで来ちゃったの? 寝てても良かったのに」


 戦後、重傷兵の治癒に当たっていたキャンディとメスナの前に涼周が現れた際、前者は眠たそうな息子の姿を見て一言申す。


(……いやいや、散々起こそうとしていたじゃないですか)


 ただその一言と実際の行動に、盛大な矛盾が感じられたメスナは内心苦笑した。


「まだ髪の毛が濡れてますよ。ちゃんと乾かしてから寝なさいね」


「……んぅぅ……!」


「あらまぁ……優しい子ね。でも、無理はしないように」


 キャンディは目を擦りながら眠気を抑える涼周に休むように言った。

然し当の涼周は頭を小さく横に振り、メスナの傍について負傷兵の手当てを行いだす。


「……父上、あの少女が涼周との事ですが、彼女は一体何者でしょうか……?」


「儂にも分からん。だが確かな事は、見てわかる通りの御姿を示されている事だ」


 離れた場所から涼周達の様子を見る江親子。二人はこの時、涼周に一目置いたという。


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