5話 未来からの使者
おそらくこの話の前半はかなり難しい内容です。
なんなら飛ばし読みしてくださっても構いませんが、一応この物語の世界観に大きく関わっていますのでご了承ください。
「Change The World!」
そう叫んだ瞬間、時が止まり、世界を構成している分子が、あるところでは霧散し、またあるところでは集まって世界を作り直していく
……なんて事はなかった。
別に期待していたわけじゃないけどな、なんて心の中で言い訳をしつつ俺は転がっているビルの下敷きになってしまった
……なんて事もなかった。
その転がっているビルは何事もなかったかのように、今俺の後ろを転がっている。
「まさか俺には壁をすり抜ける能力が⁈」
ははっ、ナンセンス。でもそれしか考えられないんだよなぁ。結局ぶつかる、って時に目を閉じちゃったからどうなったのかよく分からなかったけど、当たるはずのビルが当たらなくて死ぬはずの俺が死んでないのだから。
あ、そういえばあの高嶺の花子ちゃんはどうしたんだろう。ここにいても死なないって言ってたから死んでしまったなんて事はないだろうけど。
「そんな能力、静貴にはないよ」
あ、いた。と言うか今さっきの独り言を聞かれちゃったのか。まぁもう今更だし黒歴史の1つや2つ、どうって事は無いな、もう。
「あー、えっと、ごめん。俺と君、どっかで会ったことある?」
俺は気になった事を時系列順に聞いていく派だ。どうして俺は生きていたのか、どうして高嶺の花子ちゃんが生きていたのか、聞かなくてはいけない事はたくさんあるけど、まず最初にこの子と会ったのは今朝の話だ。最初に聞く必要がある。
「ないといえばないし、あるといえばある」
無駄に哲学だな。実によく分からないが。
「何で朝、俺の名前を聞いてきたの?」
「確認したかったから」
「何を?」
「存在」
お、おう。すごく不思議な子だな。会話してるけどコミュニケーションが取れないというか、彼女の頭の中で彼女の世界がある感じというか。
「ここはどこ? この世界は何?」
「誰にもわからない。だけど1つだけわかるとしたら、この世界は静貴がいた世界とはまた別のものって事くらい。隕石が落ちたり落ちなかったり、蝶々が羽ばたいたり羽ばたかなかったり」
この子は生まれながらの哲学者なのか? ちょっと何言っているか分からない。要するに並行世界、パラレルワールドってやつか? 蝶々云々はおそらくバタフライ効果のことを指しているんだろう。
さて、そろそろ本題を聞き始めようか。
「じゃあなんでここに俺がいるの? 今までこんなところに来た事ないんだけど」
「……それ、今言わなきゃだめ?」
「うん、できれば今言ってほしいな」
「わかった。長い話になるけどね、まず静貴に聞きたいんだけど、こういう世界があるって事はもう理解できた?」
「まぁ理解はできないけど認めはするかな」
突然こんなところに来たんだ、そんなすぐに理解出来るわけないじゃないか。いまだに信じられないけどね。
「じゃあこの世界には何があると思う?」
「多分だけど、壊れた世界があるんだと思う。今さっきだってビルが転がってきたわけだし」
「んー、半分正解かな。さっきも言ったと思うけど世界は枝分かれしていて、もちろん静貴がずっといた世界もその枝のうちの1つなの。でもさ、よく考えてみて。世界の枝のうち、静貴のいた世界だけが文明が発達していたり資源が豊かだったりすると思う? 違うよね。他の世界も静貴がいた世界同様、またはそれ以上に発達している世界もあったりするの。だからさっきの答えは半分間違ってる」
「じゃあどこが半分あってたの?」
「それはね、さっき私が言った「豊かな世界」っていうのは比較的安定しているってこと」
「つまり?」
ごめん、その説明だけじゃ全くわからない。
「世界はね、基本的には他の世界とは交わらないの。なにせ並行世界だからね。数学の定義からして、交わっちゃったらダメでしょ。まぁそしたらなんで枝分かれなんかしているのかって話になるんだけど、それはさておきここまではOK?」
「いや、でもそのまま続けて」
「まぁこんな世界に突然来て理解しろ、って言うのも難しいからね、今はそのまま話を咀嚼せずに飲み込んでくれればいいよ。で、話を進めるけど世界と世界は普通は互いに干渉はしないわけ。けどそれは安定な世界のみ言える事であってね、しばしば安定な世界に不安定な世界が干渉してくるときがあるの」
「不安定な世界って?」
「それがさっき静貴が言っていた「壊れた世界」だよ。核戦争、とまでは行かなくても大きな争いによってあらゆる生命が滅んでしまったり、または大きな天災によって生態系全体が大きく崩れてしまったりすると世界が壊れてしまう。私たちはそれらを死んだ世界、デッドワールドと呼んでいるけど、そういうものが時折こちらの世界に干渉してくるの。安定を求めてね」
つまり、世界というものはたくさんあるわけで、安定した世界同士は互いに干渉しないけど逆に不安定な世界は安定した世界に干渉してくる、ってことか。なるほど、そこそこ理解できたかな。
「うん、自分なりにうまく飲み込めたよ。他の疑問についても聞いていい?」
「何なりと」
「ありがとう。じゃあまず、俺はなんで生きていたの? ビルに巻き込まれたと思うんだけど」
最初の疑問。通り抜ける能力じゃないのならどういうことか説明しておくれ。
「いや、特に変わった理由なんてなかったよ。静貴が当たる予定だったビルの場所がちょうど窓枠だっただけ。その窓が壊れてたからビル本体としては静貴にかすってもいないって事」
おう、要するに俺はラッキーボーイだったと。なんだ、ちょっとカッコいい能力みたいな、そんなのが備わってるとかじゃないんだな。
……はあ、こんなことを考える事自体を厨二病と呼ぶのだろうか。いや、健全たる男子は一度くらい憧れてもいいはずだ、そうに違いない。
「そうか、じゃあもしかしてだけど君はそうなるだろう事はもう知ってたんだ?」
「まあね、どう助かるのかは知らなかったけど助かるって結果だけは知ってたかな」
ん? それって……
「あ、気づいた? そう、私はあなたを迎えに来た未来人なの」
そう言って、彼女はいきなり抱きついてきた。突然に、なんの前触れもなく。
「え、えっと……」
彼女の身長は俺と同じくらいのものなので、その綺麗な顔は今俺の顔の真横にある。俺の肩に顎を乗せてる形だ。いい匂いするし、髪はサラサラだし、体は柔らかいし細いし、意外と胸あるし……
「ようやく、ようやく会えたね。この世界に来たら貴臣さんと静花さんは死んじゃってるらしいし静貴のいる場所は分からないしで大変だったんだよ。でもまた会えて本当に良かった」
美少女に抱かれて悩むなんて贅沢な悩みなのだろうけど、それでもやっぱり悩んでしまう。未来で何があって彼女はここに来たのか、先程名前の出てきた2人の男女と思われる人たちは一体何者なのか。
俺は彼女が落ち着くまでずっと抱かれながらもそのことについて考えていた。べ、べつに美少女に抱きつかれている時間を長くしようとか、そういう邪な考えをしたわけではないからな、勘違いするなよ。
「ごめんなさい、君は未来の俺のことを知ってるみたいだけど、俺はまだ君のことをよく知らないんだ。名前とか、教えてくれる?」
未来で起きたことを聞くにも、まずこの子のことを知らなければならない。
「こちらこそ、いきなり取り乱したりなんかしちゃってごめんなさい。私の名前は「琥珀」。猫神静貴の守護精霊にして人生のパートナーよ」
前書きにも書いた通り、パラレルワールドの説明はどうしても難しくなってしまいますね。私自身も勉強したのですが理解できたかと言われると……
シュタインズゲートの作者さんには脱帽です。