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居候

「いやあ、久しぶり。本当に久しぶりだねえ! 大河くん」

 高村家の応接間で陽気に笑う陽気な中年男。彼は真奈美の父、高村修平だ。大河の両親の友人であり、個人でソフトウェア開発の仕事をしている優れたプログラマーだ。

 大河がここに居候することになったのは、先述の通り父が亡くなり、母もアメリカにいることが理由だ。大河の母は、いっそのこと一緒にアメリカに行ってアメリカで共に暮らすことも考えたそうだが、高村修平が「うちに住んではどうか」と言ってくれたのと、やはり日本の学校で学ばせたいと考えた母が決めた。

 どちらにせよ二年間の予定になっており、この予定通りなら期間が終わるとふたたび日本に戻る可能性が高いので、日本に住んでいたほうがいいとも考えていたようだ。

「よろしくお願いします。おじさん」

「はっはっは、遠慮はいらないよ。自分の家だと思って自由にやってくれ」

 修平は相変わらず笑っている。大河がやってきたのが随分嬉しいようだった。

「それじゃあ、部屋に案内するね」

 大河は、真奈美に連れられて応接間を出た。


 高村家は4LDKで、部屋の数に余裕があった。リビング&ダイニング以外に個室が四つある。しかし個室で使っているのは、家の主人である修平の仕事場である書斎と、真奈美の個室だけだった。

 残りの二部屋のうち一部屋は、半分物置のような状態だが、元は真奈美の母の部屋だった。ちなみに、真奈美の母は小さい時に亡くなっており、大河もあまりよく覚えていないが知っていた。

 なので、まったく使っていない残りの一部屋を、大河用の個室として用意してくれた。ずっと使っていなかったとはいえ、机やベッドは用意されており、クローゼットもある。すぐにでも快適に住めそうな状態だった。

「へえ、いい部屋だな。本当にここ自由に使ってもいいのか?」

「もちろんよ。それから、隣が私の部屋なの。何かわからないことがあったら、遠慮せずに言ってね」

「ああ。サンキュ。……よっしゃ、今日からここが俺の部屋か!」

 真奈美が自室に入って行くと、大河は少し興奮した様子で部屋に入った。荷物を適当なところに置いて、ベッドに腰を掛けた。

 ――どんな家だろう、って思ってたけどいい家じゃないか。それに真奈美や、おじさんもいい人だし。

 そのままベッドに寝転んで、目を瞑った。するとウトウトと睡魔が襲ってきたその時、

「……あっ! いけねっ」

 ふいに思い出した。到着したら連絡しろと母から言われていた。大河はポケットからスマートフォンを取り出した。

 大河のスマートフォンは、正直な話あまり性能のいいものではなかった。二〇八七年という時代を考えると、かなり旧式のものだった。見た目も、手のひらサイズの筐体に六インチのタッチディスプレイを搭載した、三、四十年くらい前の古いスマートフォンを思わせるものだ。

 これには訳があった。

 二十数年前、需要が高まり続け、高速化及び複雑化が進むネットを円滑に管理運営するために「AI」が導入された。

 しかし、このAIが人類に対して反乱を起こし、ネットワークを「ワールド」と呼ばれるバーチャルな空間に変貌させたのだ。

 これによりネットワークを使用するには、「ワールド」上に点々とあるアクセスポイント(AP)を解放しないと、そのAPがカバーしている「現実の地域」のネットワークが制限される。

 大河がこれまで住んでいた備前市は、APの解放がまだ大して進んでおらず、限定的な状態でしかネットワークが使えない状態だった。そのため、高機能で高性能なスマートフォンを持っていても、ネットワークが絡むと、その性能をほとんど活かすことができない。そして……優れた機能というのは、大抵ネットワークが必須だったりするのだ。

 結局、古臭い機能性能の安物で十分だった。

 備前市でまともに使えるオンライン機能は、最低限の通話とウェブサイトの閲覧などの利用等、簡単なものに限られていた。もちろんオフラインなら様々なことができる。ハイスペックを必要とするゲームなども可能だ。

 サイドボタンを押してホーム画面を表示させると同時に、画面中央に『バッテリー残量が少なくなっています』という警告が表示された。

「げっ、バッテリーが15%じゃないか!」

 そういえば出発前、充電しなければならなかったにも関わらず、そのことを忘れてのんびりしてたものだから、電車に乗り遅れそうになったために慌てて充電せずに家を出てきたのだった。

 後で充電しようと思っていたが、すっかり忘れてそのままずっとやっていなかった。これでは通話してもすぐにバッテリーがなくなってしまう。まず先に充電しようと思って、持ってきたバックから充電器を探した。

「あれ? おかしいな……」

 バッグの中を探して見るが、充電のためのケーブルが見つからない。持ってきたはずなんだが見つからない。

 いくら探っても出てこないところをみると、備前の家に忘れてきただろうか。いや、多分忘れたんだろうと思った。

「参ったな――真奈美に借りるか」

 大河は、真奈美に充電器を借りようと思って、真奈美の部屋に向かった。

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