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決死の脱出

 三機のABSは、ひたすら通路を急ぐ。後方では大きな音をたて、目の前の障害を排除しようとするウイルスの猛攻が続いている。

「どこまで行くんだ、先輩!」

「脱出できるところまでよ」

「そんなところ、あるのかよ!」

「知らないわよ、こんなところ初めてだし! ごちゃごちゃ言ってる暇があったら、ちょっとでも速く走りなさい!」

 ミユキはディスプレイの向こうに映る、この初めて通る通路の先を見定めようとしている。この先に何があるのか? 無事脱出できるのか? 

「トーコ、この先はどうなりそうかわかる?」

「うぅん……おそらく、もう少しで本館の東側面に行き当たりそう。そこから壁壊して出る?」

「そうするわ! キャリア回して!」

 トーコは、ミユキたちの現在地とホテルの外観マップを参照して、大方の位置を予測した。

 しかし、このまま進んでも壁を壊して、そのまま外に出られるとは限らない。この通路の先が外壁のところまで行けるかは、行ってみないとわからないからだ。

 外壁面には部屋がある場合が多い。それだと室内に窓があって脱出しやすいが、この隠し通路は窓がない。部屋への入り口もない。なので壁の向こうはわからないのだ。

 しかし、だからといって立ち止まるわけにはいかない。ドアを破壊され、ウイルスがこちら側にやってくるのは時間の問題だからだ。

「さっき大きい音がしたな、ドアが破られたか!」

 武井は後ろを確認することなく叫んだ。

「それってやばいんじゃねえのか!」

 大河もフェンリルを全速力で走らせながら言った。

 眼前に通路の突き当たりが見えた。ここを爆破して壁に穴を開けられたらいいが……。

「トーコ!」

「――まだ距離がある。その突き当たりの向こうにはまだ部屋があると思う」

「おい、マジかよ!」

 トーコの言葉に落胆する大河。しかし突き当たりまでくると、そこが曲がり角だとわかった。まだ追い詰められた訳ではない。

 すぐに、三機とも曲がり角を曲がった途端、すぐにストップすることになった。ここにもウイルスがいたのだ。

 しかし中型のバタフライと小型のラビットが三体という、十分対抗できる相手だった。

 なので、まずはサジタリウス2が落ち着いて構えると、ライフルでラビットを一体撃ち抜いた。すぐに今度はシュトラールがバタフライの片腕に命中させ、さらにラビットも一体倒した。

 そして大河が駆け寄り、コンバットナイフで転がったバタフライの胴体を串刺しにし、とどめを刺した。

 残る一体のラビットは不利と判断したのか、背中を見せて通路の奥に向かって逃げていった。

「逃すか!」

 フェンリルが再びアクセラレートで追撃しようとするが、すぐにシュトラールに制止された。

「待ちなさい。そんなことよりも、ここから脱出する手段を考えないと」

 この通路の先も、どこに通じているのかわからない。早めに脱出を考えないといけない。

「この辺りの壁を吹き飛ばしてみるか?」

 そう言って、武井のサジタリウス二は手榴弾を片手に持った。

「トーコ、この辺は?」

「まだ外まで十……いや、二十メートルはある。多分、部屋があるよ」

「やっちまおうぜ。この壁ぶっとばそう!」

 大河は壁を叩きながら言った。滲み出る緊張感に、さすがの大河も焦りに追い立てられていた。

「俺も賛成だ。ここいらで一発やってみる価値はあると思う」

 武井も賛成した。

「わかったわ。武井さんお願いします」

 ミユキから、そう言われると、武井は手榴弾のピンを外して、外側と思われる壁の方に置いて、「離れろ!」と叫んで自分もすぐに離れた。

 すぐに轟音が鳴り響き、壁の鉄板が大きくへし曲がって、固定してあったアンカーが外れたのか床に倒れていた。外れた鉄板の隙間から向こう側を伺うと、やはり部屋のようだった。

 サジタリウス2がライフルに付けているライトで室内を照らすと、何もない殺風景な空間があるだけのようだった。ウイルスはいない。

「今度はその向こうの壁を壊せば出られるんじゃないか?」

 武井は少し希望が見えてきた気がして、声が明るくなった。

「そう。距離的にそこが外の壁になるよ」

 トーコが言った。

 武井が、ではもう一発――と手榴弾を取り出そうとした時、凄まじい轟音が響き渡ってきた。

「まずい、近くまで追いついてきやがった!」

「武井さん、早く壁を!」

「おう!」

 武井のサジタリウス2が、先ほどと同じように手榴弾を壁際において爆発させた。が、外壁は相当に頑丈に出来上がっているのか、少し表面が壊れただけで全然威力が足りていなかった。

「複数集めて一度に爆破しましょう。私の三つと武井さんは……」

「俺はM12がもう二つある。あと大河くんのも三つか? これを一度に行くか?」

「ええ、こうなったら思い切ったことをしないと難しいかもしれない。大河、あんたのC2を出して」

 ミユキに言われて、大河はフェンリルに携帯させているC2手榴弾をサジタリウス2に渡した。

「部屋の中は巻き込まれるかもしれない。外に出よう」

 武井が合計八個の手榴弾をまとめて線で繋ぎ、室外でリモコン操作で起爆できるようにした。

 そして三機とも外に出ると、手榴弾の束をすぐに爆発させる。凄まじい轟音が響き、大地震でもあったかというほどの振動が起こり、大量の埃が辺りを充満させている。

 外のフェンリルたちも、勢いで吹き飛ばされそうな爆発だった。

「どうだ……? やったか?」

 サジタリウス2が部屋に入ると、壁の破損具合を調べる。まだ完全には破壊できていない。武井はサジタリウス2にアサルトライフルで、壊れかけた壁に向かって撃ちまくった。すでに壊れかかっていたこともあり、ABSが通れそうなくらいの穴を開けられた。

「さあ、急げ!」

 武井がそう言った次の瞬間、部屋の中にウイルスが飛び込んできた。追ってだ。

 すぐさま壁の穴から飛び降りるサジタリウス2。先ほどの爆破で場所を特定していた、東高やチーム・トーマスのキャリアが、真下に待機している。

 一目散に飛び出すサジタリウス2。続いて大河のフェンリルが飛び降りた。そして最後にミユキのシュトラールも飛び降りる。

 無事三機ともキャリアに飛び移ると、すぐにキャリアを発進させた。

 大河が後方に見える自分たちが飛び降りた場所をみると、複数のウイルスがその穴から二体三体と落ちていった。そして、落ちたウイルスがこちらに向かって動き出そうとしているのを見た。

「た、助かったのか……」

 大河はそれを実感すると、肩の荷が下りたような気分になり、思わず椅子の背もたれに崩れかかった。

「まさか、前と同じことをもう一回やることになろうとは……」

 ミユキは安堵の表情とともに苦笑いした。

「間一髪だったね。無事で何よりだったよ」

 隣の席からイツキが声をかけてきた。

「マジにやばかった――よく逃げられたもんだぜ」

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