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不意打ち

「うん? なんか音がしましたね――」

 イツキは、トーマスのABSたちがロープを使って降りている最中、違和感を覚えた音を聞いた。イツキは割と勘がいい。こういう時、ミユキより先に察知することも多い。

「どうしたんだよ」

 大河がイツキに尋ねた。と、同時にまた音がした。

 金属に金属が接触した時の、少し高い硬い音が断続的に鳴っている。そしてその音は、次第に大きくはっきり聞こえてくる。

「先輩、どこかにウイルスが近づいているかも!」

「ええ、嫌な音ね――はっ!」

 そう言うなり、ミユキは二階のフロアをぐるりと見回した。

 そして一箇所だけ見える、このフロアに繋がっている通路の方を凝視する。しかし、まだよく見えない。

「ウイルスなのか? まさかラージニードル!」

 そばにいた武井のサジタリウス2は険しい顔をして、すでに降りている仲間に合図し、各自のABSにライフルを構えさせて警戒させた。

「音が軽いわ。ラージニードルではないかも」

 ラージニードルのす凄まじさはこんな音ではなかった。

 通路の側壁より自身の動きの横幅の方が広いものだから、壁を擦り壊しながら突撃してきたのだ。それに比べると大したことはない……いや、やはりこれはかなり危険だと直感した。

 そして、すぐにその直感が正しいことが判明する。

「まずい! クラッシャーとスモールニードルよ! しかも、五、六、七……十! いや、もっと! 二十体以上!」

 ミユキは叫ぶと、すぐに上に上がるように指示した。

 比較的広めな通路の向こうから、不気味な音を響かせ凄まじい数のウイルスが怒涛のごとく押し寄せて来た。とてもではないが、あんな大軍相手にはできない。数が倍以上と思われる上に、こちらの攻撃など御構い無しに突っ込んでくるウイルスばかりだ。

「おいっ! 早く上がれ!」

 上にいる風来坊やトーマスのメンバーが、下の仲間に向かって叫んでいる。

 ロープは強度の高いもので、ABS三機分の重量に耐えられるものだ。すでに降りていたABSは五機、三機が登っている最中で、三機がまだ下で警戒している。三機のうち一機はミユキのシュトラールで、残りは武井のサジタリウス2と、トーマスのメンバーのエトワールだった。

「武井さん、覚悟してください……」

「ああ、正直やられた。奴らも賢い――なんてな」

 ミユキと武井は、おそらく間に合わないだろうと感じた。

 登っていた先頭が登りきり、すぐに二機目も登り終える。武井は一緒に下にいたエトワールの仲間に、早く登れと指示を出し、自身はもうはっきりと見えるウイルスの大群に向けて、ライフルを撃ちまくる。

 激しい射撃音が鳴り響き、前方の小型ウイルスが一体二体と撃ち抜かれる。

 しかし押し寄せる大群はその進行を止めはしない。

 まるで大津波が押し寄せてくるが如く、轟音とともにこちらに向かってきた。

「先輩! 武井さん!」

 大河は叫ぶと吹き抜けを飛び降り、すぐにアクセラレートを作動させた。

 飛び降りたはずのフェンリルは一瞬消えたかと思うと、下から二、三メートルのところに突然現れ、そのまま二階フロアに降り立った。

「た、大河くん!」

 イツキは驚いて叫んだが、無事に下のフロアに降りたのを見て安堵した。

「先輩、加勢する!」

「おいおい、バカな! 無駄にやられるだけだ!」

 武井が叫ぶが、大河は聞く耳を持たない。

 その時、ずっとディスプレイに向かって何かを調べていたトーコが、急に大きな声を出した。

「反対側に隠し通路!」

 ミユキは振り向き、通路の反対側の壁を見た。わかりにくいが、何かを見つけたかと思うと、

「武井さん! 大河! 走って!」

 と言ってすぐに通路の反対側に向かって駆け出した。そしてその壁の前で、他とは僅かに分離しているように見える箇所を見つけた。

 次いで取っ手のようなへこみを見つけてそれに指を引っ掛けて動かそうとした。しかし押しても引いても動かない。迫り来るウイルスの凄まじい音に、ぐずぐずしていられない。

 ハンドガンを抜いて取っ手付近を撃ちまくる。ボロボロになった取っ手周辺を思い切り蹴飛ばすと、ロックが外れたのか少し動いた。開いた隙間にハンドガンを突っ込んで手が入るくらい開けると、シュトラールとザジタリウス2で扉を持って、思い切り動かした。すると拍子抜けなくらいあっけなく開いた。重そうな扉だが、動きは軽かった。

「通路だ!」

 サジタリウス2とフェンリルも、シュトラールに続いてドアの向こうに飛び込んだ。

 シュトラールはサジタリウス2とフェンリルが入ったのを見届けて、すぐにドアを閉めた。そして、転がっていた適当な棒で突っかいをした。さらにサジタリウス2が大きめの机のようなものを持ってきて、棒と合わせて開かないように噛ませた。

 その次の瞬間、ガァンッ! と大きな音がした。さらに二度三度と音が鳴り、ドアの表面がこちら側に盛り上がってくる。クラッシャーの角による突撃でドアが変形したのだ。

「や、やべえ――」

 大河がその有様に慄いてると、ミユキが「大河、すぐに奥へ向かうわよ!」と言った。

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