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乱戦

「大森! どこだ?」

 中野は二年生の部隊を率いて、救援を待つ大森を探した。

 情けない話だが、大森はここに来るに当たって一般配布されているホテル内のマップを確認していなかった。どこにどう行けばいいか、今になってマップを見ながら探し回っている状態だ。

 また、混乱してがむしゃらに逃げたため、ホテルのどの辺りに大森の部隊がいるのかも大森自身が把握できていない。

「今どこだ? 俺たちは二階だ! 階段を上った!」

 大森は画面の向こうの中野に向かって怒鳴った。

「二階だと? おい、こっちはだめだ! 下りの階段しかない。上りの階段はどこだ!」

 中野も、現在地周辺を把握できていないのがよく理解できた。実際のホテルとは全然違う迷路のような通路の中で、完全に手探りの探索だった。

「うゎあっ! で、出た!」

 中野隊の一人が、慌てふためいて手に持ったショットガンを撃ちまくる。

「どうした!」

「て、敵――ウイルスがっ! ぎゃ!」

 一機のABSに大きな角を持つウイルスが飛び込んできたと思うと、対抗する間もなく、ウイルスの角がABSの胸部に突き刺さる。ボディアーマーを装備していたが、それを軽々と貫通し、そのままその長く大きな角の先端が背中から突き出た。

 そのABSはすぐに沈黙した。ジェネレーターを貫かれたようだ。

「お、おいっ!」

 あっという間に混乱状態に陥った中野隊は、ウイルスの襲撃に対応できるはずもなく、次々とウイルスにやられていく。ウイルスも気づけば三体、四体――五体と増えている。

「このやろう!」

 中野はアサルトライフルで一体のウイルスを射撃し、そのウイルスを倒した。

「へ、へへ……どんなもんだってんだ! このクソ野郎!」

 中野はABSで、倒れたウイルスを蹴飛ばした。しかしそんな間に、仲間のABSの一機が左腕をもぎ取られた。

 慌てた中野は、「退け! まともに相手をするな!」と叫んでそこから引き返していく。

 退きながら射撃してウイルスをけん制する。そんな時、大森からテレビ電話がかかる。焦りをにじませ、怒りを隠さない大森の顔がディスプレイの片隅に表示される。

「おい、まだか! 早くしろっ!」

「わかったわかった。もう少し待てよ。すぐ行く!」

 中野は、こんな時に勝手なやつだ――と内心憤った。



「トーコ、場所わかる?」

「うん、具体的には難しいけど、だいたいこの辺」

 トーコは、メインディスプレイにホテルのマップを表示させ、そこから大森たちのいるであろう予測地点を表示させた。

 ミユキは、自分たちの現在地から戦闘音の聞こえていた方角を伝えて、そこから予測をしている。

 トーコは現在までにホテル内の詳細なマップを頭に入れており、予想以上に正確な場所を予測する。

「……こっちから行くのが近そうね。イツキ、大河、続きなさい!」

 言うなりシュトラールを走らせるミユキ。それに続いて駆け出すフェンリルとイェーガー2。


「この先だわ」

 ミユキのシュトラールが、曲がり角の手前でアサルトライフルを構え、ウイルスの襲撃に備えた。そしてゆっくりと曲がり角の向こうを確認する。

「いるわね。一、二……五、六。中型三体、小型三体の六体は見えるわ」

「六体? ちょっと多いですね。しかも中型が三体も……」

 ウイルスは、どうも特定のドアの前に集中しているようだった。おそらくは、そのドアの向こうに大森たちが立て籠もっていると予想された。

「あそこか?」

 大河もフェンリルの頭を覗かせて、こっそりと様子を見ている。

「正攻法しかないわね。一気に突入する」

「了解!」

 大河とイツキは同時に返事した。


 そして三機が飛び出そうとしたその直前、通路の反対の奥から四機のABSが駆け込んでくる。南高の増援部隊、中野隊だ。

 ミユキは立ち止まり再び機体を角に隠して、大河たちにも身を隠すように言った。

「先輩、あれは援軍の人たちですかね?」

「多分ね」

「あ、ドアが開いた。隠れてた奴らが出てきたぜ」

 増援の到着と同時に、部屋の中にいた大森と一年生ふたりのABSがドアを蹴破って飛び出すと、すぐさま一機がショットガンをぶっ放した。

 大森の操縦するABSが至近距離からライフルで二発三発と撃ち込み、小型ウイルスを一体破壊した。さらにそばにいた中型ウイルスにもすぐに狙いをつけて撃ちまくる。二発三発四発と銃撃を食らって、そのウイルスは破壊された。

「オラッ! オラァ! ぶっ殺してやったぜ! ざまあみやが――」

 二体を倒して勝利の興奮に大声で叫んだ大森は、そのすぐ後、急にディスプレイの視界が消えてしまったことに言葉を失った。

 そして次に、『カメラアイ破損 視界喪失』と『ブレーンユニット破損』と表示された。

「……お、おい……おいっ! コラッァ!」

 大森は驚愕の表情で、思い切り机を殴りつけた。衝撃でクラムが転げて机から落ちた。大森の額に大粒の汗が滲んだ。

 ディスプレイにふたたび警告表示が出た。『コア破損 強制ログアウト』――これはABSが撃破――戦闘不能に陥ったことを意味する警告だ。コアをやられるとペナルティが課せられ、七十二時間の間、ログイン不能になる。三日間、ワールドにはアクセスできなくなるのだ。通称「三日ペナルティ」とも言われる。

 大森のABSは、ふいを突かれ、中型ウイルス「クラッシャー」の大きな角に顔面を貫かれ、そのすぐ後に今度は胸部を貫かれた。

 顔面蒼白になり、開いた口は閉じられることなく呆然としていた。愛機を破壊され、無残に横たわっている現実を、彼はまだ受け入れられていないようだった。

「お、大森っ! このやろう!」

 中野は叫んでハンドガンをがむしゃらに撃ちまくるが、所詮ハンドガン程度の威力では中型の装甲はそう簡単には貫けない。

 クラッシャーは中野のABSに飛びかかり、右腕を引きちぎった。跳ね飛んでいくABSの右腕。絶体絶命の事態に陥った。

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