内部潜入
ホールを横切って奥に入っていく。
今回は少しだけ奥に潜入するということで、例のトレーニングルームにはいかない。別の通路を通って、さらに奥へ奥へと進んでいく。
「なあイツキ。さっきのやつらに、この間の野郎はいたか?」
ウイルスが出てこないので少し気が抜けてしまったのか、大河はイツキに声をかけた。
「うぅん、一応全員見たけどいなかったような。さっき先輩と言いあってた副部長の人以外は、覚えのない人ばっかりだったし」
「お前、あのイヤミを見たことあるのか?」
「うん。直接会ったことはないけど、四月にあった春の試合を見てたから」
「南高って、あんなのばっかりなのか? ロクでもない連中だよな」
大河の南高に対する印象は最悪なようで、かなり嫌っているようだ。ミユキや大河だけではなく、イツキも悪印象のようで、
「全員そうじゃないけど、今の部長や副部長があんな人らしいし、先輩が嫌うのも無理ないね」
と、擁護することなく自分も嫌いだと言った。
光の帝国ホテル。地上五階、地下二階という、結構な大きさの建物だ。
ホテルというだけあって、屋内にはかなりの数の個室が存在する。あちこちに崩落や破壊の跡が残り、完全に廃墟といった様相である。これまで数えきれないほどの戦闘が繰り広げられており、それによって壊れているところも多い。
ミユキは小学生の時に、初めてこのホテルの探索で訪れているが、その時から比べて相当に壊れていた。それは、その数年の間、何度となく激戦が繰り広げられたことの証だった。
大河はフェンリルを操縦しながら意外と明るい通路を、ミユキのシュトラールとイツキのイェーガー2とともにライフルを構えたまま進んでいる。
初めて奥に入ったこともあり、大河はキョロキョロと周辺の様子を興味深そうに眺めている。
「ボロボロだけど、結構明るいな」
廃墟のような建物の割に、意外と明るいことに気がついた。
「うん、天井の照明はずっとついてるんだ。どこから電気がきてるのかわからないけどね」
「ワールドって電気があるのか?」
「いや、電気じゃないと思う。ABSのジェネレーターみたいなのがあるんじゃないかなあ……多分」
イツキの言う通り、ワールドには電気はない。
ABSは、現実世界のモーターに相当する動力源「ジェネレーター」から動力を発生させ、その力を利用して稼働させている。
ワールド内にある機械で、何かしらの稼働しているものは、すべてこのジェネレーターから動力を取り出しているのだ。よって、どこかにジェネレーターが存在する。
このホテル内の照明もどこかにあるジェネレーターからエネルギーを供給されて点灯しているのだろうと予想される。
先頭を進んでいるシュトラールが足を止めた。
そして、大河たちに向かってミユキが言った。
「ここから先はウイルスの巣よ。イツキ、大河、準備しなさい」
――ホテルの正面玄関。
大河たち東高の三機が奥に入って行くと、大森は一年生に向かって厳しい目つきで睨み、宣誓でもするかのように大声で叫んだ。
「我々も行くぞ。東高のボンクラどもを出し抜いてやれ!」
一年生たちは一斉に大きな声で返事した。南高コンピ研は体育会系な雰囲気のようだ。
「ゲートのスイッチを見つけるのは俺たちだ。これを成功させて川島を……ふふふ」
大河たち東高の三機は、不気味な空気の漂う通路をゆっくりと進んでいた。三人の緊張感も奥へと進んでいくたびに、自然と高まっていく。
この辺りも照明はあるが、どうも薄暗く明るさが足りないようだった。よく見れば、壁に備え付けられている照明は、いくつか破損して点灯していない。
「なんか出そうなとこだよなあ」
大河は少し沈んだ気分でつぶやいた。
まるで肝試してもしているかのような場所だ。ディスプレイの向こう側、現実の場所ではないにしても、気味が悪いことには変わりない。
イツキは散々な有様の通路に、大河へ注意を促した。
「大河くん、足元にも気をつけてね。結構瓦礫が落ちてるから」
「あっ!」
「どうしたの?」
イツキは驚いて、隣に座る大河の方を向いた。すると、そこには、大河の顔――ではなくて、気持ち悪い顔のお面があった。
「うわぁぁ!」
イツキは驚いて、座っていた椅子から転げ落ちそうになった。
「あっはっはっ! びっくりしてやんの!」
お面をとって大笑いする大河。寸前のところで椅子から落ちずに踏ん張ったイツキは、あまりのことに呆然としている。
「ひ、ひどいよ、大河くん……」
「あのねえ……、あんたたち何やってんのよ。ここは下手をするとやられるわよ。緊張感を持ちなさい!」
ミユキは、ふざけている後輩二人をたしなめた。ふざけていたのは大河だけなのだが……。




