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戦うことの意味

 翌日、大河は一人で部室に向かう。イツキは委員の会議が放課後にあるため、今日は部を休んでいる。

 来る途中、同じく部室に向かうミユキと会ったため、一緒に部室に向かった。

「イツキも情けねえったらありゃしない――」

 部室までの道中、昨日のことをミユキに話し不満をぶちまけた。しかしそんな大河と違い、黙って話を聞いた後、覚めた目つきで持論を語る。

「ま、それはそれでいいんじゃないの。店で揉めてどうするわけ?」

「そりゃあ、他の客に迷惑なのはわかるけどよ。でもこっちが悪いんじゃなくて、悪いのは向こうなんだぜ。どうしてイツキが譲らなきゃならねえんだ!」

 部室の前に来てミユキが鍵を開けているとき、さらなる不満をぶつけた。ミユキは少し鬱陶しそうに顔を歪めた後、

「まあ、そこであっさり引き下がるのは面白くないわね。でもね、たたがクラムなんかで連中の相手をしている暇があったら別のことに力を注ぐことね。商品なんだし別に他所でも買えるでしょ。そういう点ではイツキの判断は間違ってはいないわよ」

 と言った。

「そりゃないって。そこで引き下がるから、ダメなんだよ!」

「ま、それは――最後はイツキの問題よ。アンタがゴチャゴチャいう問題じゃないわ」

 ミユキは自分の机のパソコンの電源を入れて、準備に取り掛かっている。

「ぐぬぬ、だけど……だけどなあ」

 大河はまだ納得がいかないようだ。


「大河、射撃練習よ。いつもの公園」

「……了解」

 大河はまだ不満がくすぶっているようで、それが態度に出てしまっている。二人ともABSを基地の隣の練習場にしている公園に移動させると、それぞれのABSにライフルを構えさせ射撃訓練を始める。二人とも無言で何発も撃ち続けた。

 ミユキは、――やれやれどうしたものか、と考えていた。とは思って見ても、結局は時間が解決してくれるだろうと、深くは考えなかった。

 ふと部室のドアが開く。

「ハロー、ミナノシュウ」

 そう言って静かに入って来たのはトーコだ。

「おつかれ。トーコ、今日はこの単細胞の射撃練習だから、トーコも適当にやってて」

「了解。大河の面白射撃を見てるよ」

「な、なんだ! そのオモシロシャゲキだとかいうのはっ!」

 その意味が容易に想像がつくくらい、身に覚えがある大河はトーコに噛み付いたが、トーコはクスクス笑うばかりであった。

 完全にバカにされている。


「ちょっと休憩」

 ミユキが宣言すると、ミユキも大河も一旦ログアウトした。

 それからすぐに、ちょっと前に部室を出ていたトーコが戻ってきた。手には紙パックのジュースを抱えている。トーコはそれをミユキと大河にそれぞれ配ると、自分の机に戻ってジュースを飲み始めた。続いて大河とミユキも飲み始める。

 一息つくと、大河は昨日の連中についてミユキに聞いた。

「なあ先輩、あの南高の奴らって何なんだ? やたらいけ好かない連中だったけど」

「まあね。部長がロクでもないやつだから、いけ好かない連中になるのも無理ないわ」

「確かコンピ研――だったかな。その部長ってそんな嫌なやつなの?」

「本当、嫌な奴だわ。あいつが今の状態を作り出した元凶みたいなものだし。おかげで南高の連中は、どちらが強い、誰が一番か、なんてことばかり言ってるんだから」

 南高コンピュータ研究部のことを、ミユキはよく思っていないらしかった。それも特に部長を嫌っているふうだ。

 この南高は、北高と並んで「全国高校ABS競技大会」の常連出場校である。

 この大会は、毎年八月に開催される高校生の全国大会だ。

 競技内容としては、ABS同士による戦闘――いわゆるサバイバルゲームのような試合を行い勝者を決めている。十年ほど前から開催され、各都道府県から二校が選出されて、今年も例年通り八月に行われる。

 ちなみに、ミユキはこの大会についてもあまりいい感情を持っていないようだ。

「強い弱いってだけだろ。それの何が問題なんだよ?」

 大河が言った。

「問題でしょ。私たちはABSで何をするの? それはマザーを倒して、このおかしくなったネットワークを私たちの手に取り戻さなきゃならないんでしょ。誰の方が強いとか、そういうのは所詮オマケの話。ABS同士を戦わせるなんて、訓練だけの話でしょ」

「でもなあ……そうやって試合やってたら強くなろうとするじゃん。そうしたら結果的にウイルスにも勝てるんじゃねえの?」

「そういう側面もあるから、全部は否定はしないわよ。だからこそ、夏の大会なんかも意義がないわけじゃないわ。腕を磨き、それを本来の目的に生かすためにはね」

「だったら別にいいじゃん」

「でもね、最近――大会がショーになってるようにしか思えないのよね」

「ショーって……まあ、そりゃ見てて面白いってやつが多いからだろ。それが――」

「そうよ。そういうことなのよ。でもね、ABS同士で試合をするのも、結局はマザー打倒の最終目標のためでしょ。でも、あの全国大会のテレビ中継を見てると、プロ野球か何かと勘違いしてるんじゃないかって思うのよ」

 ミユキの言う通り、ここ数年は大きなスポンサーがついてテレビ中継がされている。高校生の大会だけでなくプロの大会があり、大金が動くなかなかのビッグイベントになりつつあった。アメリカなどでは、すでに莫大な金が動く一大エンターテインメントになっている大規模大会がある。

「大河、あんたも肝に命じておきなさい。私たちオペレーターの目標はマザー打倒よ。マザーが反乱し、その後反撃の狼煙が上がった時から、私たち人類の根本的な最終目標はそれなのよ」

「まあ、そりゃそうなんだろうけど。でも、マザーって倒せんの?」

「それは、私たち高校生程度にはとても無理だろうけど……でも、ウイルスを相手に戦うことはできるわ」

 ミユキは真剣な目つきで、壁の大型モニターに映るワールドの風景を見た。

「さあ、あと一時間。練習再開よ」

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