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当たらない

「ちっ、ちくしょう! なんで当たらねえんだ!」

 大河は吠えた。断続的に撃ち続けるが、どれもウイルスにはかすりもしない。部屋に入って来た三体のうち、二体はミユキとイツキがそれぞれ撃破した。残りの一体を大河が担当するはずだったが、もう十発撃っている。

 しかしまだ当てられないのだ。当たらないので、距離を取るのに逃げ回り、部屋の中を走り回っている。そんな状態だから余計に当たらない。まさに悪循環だった。

 もうヤケになって、ライフルのモードをフルオートに切り替えた。

「このやろうっ!」

 激しい銃声を部屋中に響かせながら撃ちまくる。あっという間に残りの銃弾を撃ち尽くしてしまった。

「あ、ありゃ! ええい、くそ!」

トリガーを引こうとするが動かない。見かねてイツキが叫ぶ。

「大河くん、弾切れ! マガジン替えて!」

「わ、わかってらっ! ああ、どうなってんだ!」

 マガジンを交換しなくてはならないのはわかる。しかし気ばかりが先走って、交換がうまくできない。というか、空マガジンを外すのに苦労している。

 ライフル側面に備えられたマガジンキャッチを押して外すコマンドをキーボードから選ぶのだが、それをどうやってコマンドを出したらわからない。いや、わかってはいるけど緊急を要する自体において、まったく頭が働いていない。

 まごついている間に小型ウイルスは目の前まで接近して来た。

「うわぁぁぁっ!」

 大河の目の前にウイルスのアップが表示され、絶体絶命だと感じた瞬間、一瞬でウイルスの姿が消えた。横方向から衝突音が響いて、すぐにおさまった。

 一体何事かと思ったら、イェーガー2が横からウイルスに体当たりを食らわせて、そのままコンバットナイフでウイルスのコアを貫いたらしい。ウイルスはもう身動き一つしない。

「危なかったね。大河くん」

「あ、ああ……すまねえイツキ」

「まあ、もっとも、このラビット程度のウイルスなら、致命傷はほぼないと思うけどね」

「そ、そうなのか?」

「射撃が致命的に下手だわ。基地で練習してたときもだけど、このままじゃ厳しいわね」

 ミユキは険しい顔で言った。予想ではもうちょっとマシだろうと考えていたが、実際には予想より厳しい状態だ。

 ABSの運動はすぐにうまくできるようになっているのに、なかなかうまくいないものだ、と思った。

「ま、練習あるのみね。経験が乏しいというのもあるし、数をこなせばまだましになるでしょ。さあ、次々やるわよ。イツキ、もう一回よ」



「ああっ、惜しい!」

 イツキは思わず叫んだ。大河の狙いが少しだけ外れた。ラビットの右側の耳をかすめたのだ。

「ちくしょう! 当たれ!」

 続け様に撃つが、今度はかすりもしない。あっという間に距離を詰めて来たラビットは、耳を前に倒して射撃体勢に入った。

「このやろうっ!」

大河は素早くコンバットナイフを抜くと、一気に前に飛び出して、ウイルスに向かってナイフを突き刺した。刃がコアまで達したのか、ウイルスは次第に力を失い、そしてまったく動かなくなった。

「またか……」

 ミユキは思わずため息混じりにつぶやいた。

「フロッグが三体、ラビットが四体、初日でこれなら戦果はまあまあだけど、全部ナイフでとどめじゃないの。せめて一回くらいライフルで当てられないわけ?」

「そんなこと言ってもなあ。俺、銃は向いてないんかな……」

「それはあるかもしれないよ。でも銃が苦手は厳しいなあ」

 イツキは苦笑した。

 ABSの戦闘スタイルは、基本的に銃撃だ。アサルトライフルがもっともスタンダードな武器になる。

 ハンドガンは補助装備で、格闘戦になった時に使うナイフも、銃撃で済めば必要ない。いざというときの予備武器なのだ。

 そんな格闘戦の方が得意で射撃が苦手というのは、今後も何度となく行われるであろうウイルスとの戦闘において、明らかに不利だった。

「そういや――あれ、使えねえかな。アクセラレートだったっけ」

 アクセラレートシステム。加速装置とも通称される特殊機能で、ロウの許す物理法則を無視しているとしか思えない速度で高速移動できる機能。

 どうしてそのような現象を起こすことができるのか、まだ完全には解明されていないが、現実に機能している。大河のフェンリルにはその機能が備わっているのだ。

「そうね。せっかくあるんだから、何か有効に使える方法が欲しいわね――」

 ミユキは少し考え込むように首を傾げた。横からイツキが口を挟んだ。

「なんていうか大河くんって、フェンリル同様に癖のあるオペレーターですよね」

「そんなオペレーター初めて見た」

 トーコも少し呆れた様子でつぶやいた。

「癖ねえ――ああ、くそっ。なんとかできねえかな」

 大河の射撃下手をどうにかするには、小手先では無理だろう。どうしたものか。それはまだ彼らには思い浮かばない。

「ま、とりあえず今日はこれまで。また明日ね」

 ミユキは時計が午後六時が近くなっているのを見て、今日の活動終了を告げた。

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