大河の素質
「ただいま……」
「あっ、大河くん。おかえりなさい」
大河が高村家に戻ってくると、真奈美が笑顔で迎えてくれた。
「今日はどうだった?」
「いやはや、椎名先輩厳しいな。……まったく、あれもダメ、これもダメ。ダメダメダメって、なんなんだよ! って感じだ」
大河は不満タラタラだ。せめて初心者なんだから、最初くらい、楽しんでもいいんじゃないかと思ったのだ。
「情報技術部は部員不足で色々と厳しいから、先輩も必死なのよ。せっかく部員が増えたんだし期待されているのよ。きっと」
「ホントかよ……ま、俺はあのくらいで逃げ出すような腰抜けじゃないしな。やってやらあ!」
「その意気よ。頑張って、大河くん」
真奈美はそう言って微笑んだ。
「そういや、真奈美は情報技術部に入らねえの?」
「うん。私はワールドの探査をするよりも、ABS用のツールの開発とか、研究をやりたいの。お父さんもそういう仕事をやっているけど、それで教えてもらったりしてるのよ。だから部活動はね……協力はしてるのだけど」
「そうなのか。まあ、そうだよな。頑張れよ」
「うん、大河くんもね。さ、お腹空いたでしょ。ご飯できてるから」
情報技術部に入部して一週間が過ぎた。
その間ずっと練習だった。射撃だけでなく、ABSで不整地を円滑に移動する操縦法や、走ったり飛び跳ねたり体操選手と言えば大げさだが、自分の手足と思えるくらいにならないと満足に行動できないので、ひたすら練習の毎日だった。
「やっと終わった……」
猛練習でヘトヘトになった大河が、呻くようにつぶやいた。
毎日二、三時間程度の練習だったが、その間延々とあらゆるABSの行動パターンをひたすら繰り返しているのは、なかなか辛いものがあった。
しかもそれを一週間ずっと続けていたのだ。
「大河くん、随分思い通りに動かせるようになったね。これは結構すごいことだよ!」
イツキは褒める。でも実際に結構すごいことで、一週間でここまでできるようになるのは、たいしたものだった。普通はこんなに早く上達しない。イツキも同じくらい操れるようになったのは、一年以上経ってからだった。
「マジ? でもさすがに一週間は辛すぎだぜ……」
「あんな程度で何言ってんのよ。威勢がいい割に案外ショボいわねぇ」
ミユキは厳しい。でも表情はどこか嬉しそうでもある。一週間でそれなりにやれているのだから、何だかんだで評価はしているのだろう。
「厳しいぜ先輩。俺、結構がんばってんのになあ」
「明日も練習頑張ろうよ。土曜日で半ドンだからじっくりできるよ」
イツキは苦笑いしている。しかし、ミユキが意外な言葉を口にした。
「明日は変えるわよ」
驚いた大河とイツキは、同時にミユキに注目する。
ミユキは素っ気なく答えた。
「明日は、『真夜中峠』に向かうわ」




