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プロジェクト・ラグナロク  作者: 和瀬井藤
プロローグ
2/57

大サソリ

「せ、先輩……これって」

 少年も、音の響いてくる正面に不安の色を感じてつぶやいた。

 その表情に緊張感を漂わせつつ、その先を見据えた。数百メートルほど先に曲がり角が見える。その角から一体何が飛び出してくるのか――。

「不味い、わね……」

 少女がそう言った次の瞬間――ものすごい轟音とともに、通路の側壁を破壊しつつ、大きな何かが真正面の通路に飛び出してきた。

 通路に出てきたその何かは、一見するとサソリのような姿をしたロボットだ。姿を表したサソリロボットは、一旦止まったあと、ゆっくりと少年と少女の操縦するロボットの方を向くと、再び歩き出し速度を増していく。

「――『大サソリ』よ。これは……かなり大きいわ!」

 少女はディスプレイを厳しい表情をして見ている。同時に、隣の机で同じようにディスプレイに釘付けになっている少年に向かって、「退却!」と叫んだ。

「り、了解っ!」

 二体のロボットはすぐに踵を返すと、構えていたライフルを胸のマウントにふたたびセットして、来た道を即座に駆け出した。


「イツキッ! C3!」

 少女が叫ぶと、イツキと呼ばれた少年は、自身の操縦するロボットの腰に取り付けてあった、缶コーヒーくらいの円筒形の手榴弾を手に取った。そしてすぐにC3手榴弾のレバーを引っ張り、ぐるりと九〇度ほど回転させると、足元に立てて置いた。

 この手榴弾は円筒形であるため置いておける。また、レバーの捻り具合で爆発時間を制御できた。そのため使い勝手もよく、好まれていた。

 そこへサソリが猛然とした勢いで迫り来る。

 ちょうど大サソリが近づいてきたとき、強烈な爆音と閃光を放って爆発した。その爆発の勢いで仰け反ると、怪物はそのまま一旦動きを止めた。

「やったぁ!」

 上手くいって、笑顔になるイツキ。足を止めて、爆発した大サソリがどうなったか見定めようとしているようだ。

「ちょっと、イツキッ! なにやってんのよ。呑気に喜んでないで逃げるのよ!」

「――は、はいぃっ!」

 イツキは驚いてズレた眼鏡を直しつつ、大慌てで少女のロボットを追って駆け出した。


 ロボットを操る少女は、もう一人の少女に声をかけた。

「トーコ! 準備は?」

 トーコと呼ばれた小柄な少女は、ディスプレイを凝視したまま、冷静に答える。

「できてる、いつでもいいよ」

「よし、いくわよ!」

「はい!」

 二体のロボットはすぐさま駆け出し、来た通路を戻っていく。背後から再びガシャガシャと強烈な音が断続的に響いている。爆発後、しばらく大人しかった大サソリが動き出したようだ。


 開け放たれた金属扉の前までやって来た。

 ここは緊急脱出用に、事前にロックを解除していた大きな扉だ。手をかけてみると、どうやら開け放つことができるようだった。

 何のための扉なのか不明だったが扉の向こうは外のようで、未知の通路だったこともあり、何か緊急を要する事態に陥った時すぐにこの建物から外に脱出できるように開けていた。他にも何箇所か、こういう扉があった。

「飛び降りるわよ――先に降りなさい!」

「はっ、はいっ!」

 イツキは返事をすると、すぐさま扉の外に向けて大きく跳ねた。そしてそのまま落下していく。後ろでライフルの射撃音が響き渡っている。

 ロボットの全長の数倍ほどある高さを落下すると、そこにはトラックの荷台があった。荷台にはクッションと思しき、分厚いマットが敷いてあった。

 しかし、大きな音と共に衝撃が走る。もちろんイツキがその衝撃を受けたわけではないが、彼が頭に装着したヘッドユニットから、それらしき感覚を与えられた。

 すぐに飛び降りた扉の方を見るために、ロボットの視線をその方向に向けた。瞬間、少女のロボットがすぐに飛び降りてきた。

 ぶつかるまいと、慌てて荷台の隅に這うように移動した。すぐにドンッという大きな音とともに、少女のロボットが尻餅をついた格好で、マットの上にいる。

「……ちょっとクッションが薄すぎね」

「先輩、大丈夫ですか?」

「問題ないわ」

 走り去るトラックの荷台から、自分たちが飛び降りた箇所を見ていると、凄まじい轟音とともに、先ほどの巨大サソリが周囲の壁を破壊しながら体を突き出した。ゴォンッという大きな音を立てて、ひしゃげた扉が下に落下し転がった。

 しかし、巨大サソリはそのまま飛び出しては来ず、ゆっくりと大きな体を室内に戻し始めた。どうやら、そのまま出て来て追跡するつもりはないようだ。

「やれやれ……」

「まさかあんな化け物がいるとはね。しかも相当大きいやつ」

「本当、大きかったですね。もしかして、あのウイルス……まさかラージニードルですかね?」

「そうね。あの大きさなら、多分ラージニードルだわ。これは相当に厄介ね。あの先、まだ全然調べられていないし」

「あんな厄介なウイルスがいたら、僕たちじゃとても無理ですよ」

「まあね。……でもさ、あんな怪物がいるってことは、あの先にはきっと何かがあるって証拠だわ」

 少女は次第に遠ざかって行く建物を眺めたまま、先程までの緊迫した表情とは変わって、少し嬉しそうな顔をしていた。

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