中学生部員?
部室のある場所は、一年生の教室からは結構離れた場所になる。
各学年の教室は南棟にあり、特殊教室や生徒は通常利用しない様々な部屋は北棟にあるのだ。
ちなみに各部活動の部室は、運動部は外の部室棟にあり、文化部はそれぞれの活動内容にあった教室などが部室として使われていた。情報技術部はネットワーク管理室にあるが、これも情報技術部がこの東高のセキュリティの、維持管理の一翼を担っているからだ。
東高APの周辺は、すでに安全圏になっており、ウイルスの侵入は滅多なことではないが、それでも攻撃を受けたら情報技術部の部員たちもABSを使って迎撃することになる。
大河とイツキは部室の前までやって来た。
「それじゃ、いっちょやってやるか! オツカレッっす!」
そう言って大河は勢いよく部室のドアを開けた。室内は相変わらず雑然とした殺風景な状態だった。急にドアが空いたので、何事かと中にいたミユキがそちらを見た。
大河は遠慮なく部室内に入っていくと、自分用の机の足元に鞄を置いて室内を見回した。部室にはミユキだけしかいないと思っていたが、よく見たらミユキともう一人、女の子がいた。ミユキやイツキより幼い印象がする。
「あ、トーコちゃん。来てたんだ」
自分の荷物を机の脇に置きながら、イツキが言った。
「トーコ?」
「ああ、大河は知らなかったわね。この子は鈴原透子。トーコって呼んでるわ」
ミユキはその女の子を紹介する。
「トーコは中学生なのよ」
「中学生? どうしてここにいるんだ?」
「トーコは……あんたの担任の鈴原先生っているでしょ。先生のいとこなのよ。ワールドやABSにも詳しいし、有能だから手伝ってもらってんの」
「そんなんできるのか?」
「当たり前でしょ。ここ、東高は近隣のネット環境の保全を担ってるのよ。AP保全の基地でもあるの。別にトーコに限らず許可があれば入れるわよ」
高校などの公共施設付近には大抵APがある。そのAPが人類側の影響下にあるかどうかで周辺地域のネット環境に影響するため、外部の人間が高校などの施設に入って、ネット環境の保全及び改善のために活動してくれれば、それはとても助かることだった。
トーコは中学三年生だが、その優秀さから、去年から東高のネットワーク管理のボランティアもやっていた。彼女は中学生にもかかわらず、並の大人よりはるかに優秀な技術と知識を持っていた。
そのため、ネット環境維持のための仕事で訪れているうちに、ミユキと親しくなって、今はクラブの外部協力者として一緒に活動している。
「よろしく」
トーコは少し硬い表情で、ごく簡単に挨拶した。あまり明るいタイプの性格ではなさそうだが、少し緊張しているのかもしれないと思った。
「ああ。よろしく、トーコ」
大河はそばまでいって握手した。
「トーコは主にサポートを担当してもらってるの。うちだってキャリアは持ってるのよ」
「キャリア?」
「あんた……キャリアもわからないの? はぁ……ちゃんと授業受けてるんでしょうね。キャリアはその名の通り、ABSを運搬するための乗り物よ――」
驚きと呆れが入り混じった複雑な表情のミユキは、そのままキャリアについての説明を始めた。
キャリア――ABSがワールド内を移動する際、基本は徒歩になる。
しかしそれだと遠い場所まで移動するのに時間がかかるため、何か移動速度の速いものに乗せて移動した方がいい。そのために開発されたのがキャリアだ。
また、ABSだけでなく、様々な道具などを大量に運搬する際にも便利だし、現在広く使われている。
それに、載せるのだってABSだけではない。ABSでは扱いに困るレベルの大型砲などを搭載して運用すれば、いわゆる戦車のような兵器として使える。というよりも、実際に戦車タイプのキャリアはたくさんある。特に近年、移動、輸送のためだけでない、戦うキャリアの重要性は高まっている。
近年、重要度が増し、多くの企業が多種多様なキャリアを開発している。
「そうか、そんなもんがあったんだな。まあ、そりゃそうだよな」
「あんたねえ……もうちょっと勉強しなさいよ。あの葛城博士の息子とは到底思えないわね……」
「ま、まあいいじゃん。これからだよ。これから」
大河は苦笑いしてごまかした。
とりあえず必要なのは大河の席だ。
あまり広くない部室の真ん中に、七台の机が向かい合わせで並べてある。北側と南側がありそれぞれ三台づつ並んでいて、部長のミユキは南側の真ん中だ。北側の西にはイツキの席がある。トーコはイツキの西隣で、机は東を向いている。
大河はイツキがサポートするということで、イツキの東隣、北側の真ん中に決まった。丁度、向かいはミユキだ。
「ここか、よっしゃ、やったるぜ!」
気合十分に目の前のディスプレイを眺める。この机のパソコンは少し古いもので、できたら買い替えてもいいものだが、現状の部費では買い替えは厳しかった。
無論、自分で好きなものを持ってきてもいいが、そんなことは大河には無理な話だった。