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秘められた特殊能力

 一旦、仕切り直して再開する。落ち着きを取り戻した大河は、障害物の影からふたたびハンドガンを構えると、有無を言わさず数発撃った。しかし当たらない。当然だろう。ミユキのエトワールは完全に身を隠している。

 構わず更に五発六発と打ち続けるが、もちろん当たらない。イツキはそれを制止しようとする。

「大河くん、そんなに撃ったらまずいよ」

「何がまずいんだよ!」

 そう言った矢先、突然ハンドガンのスライドが後退したまま、弾が出なくなった。

「ありゃ、どうなってんだ? おい、撃てないぞ! 壊れたのか!」

 大河は、ボタンを何度もクリックするが、フェンリルは銃を構えたままで弾が出ない。

 それを見たミユキが呆れた顔をして言った。

「弾切れよ。バカみたいに撃ちまくるからだわ」

「た、弾切れぇ? そりゃないよ!」

 頭を抱える大河。

「どうしたらいいんだよ!」

 慌てふためき、クラムをガチャガチャ動かし、キーボードを叩きまくる。この対戦では予備のマガジンは持たされていない。それぞれのハンドガンの装弾数十六発のみだ。撃ち尽くしたら、もうハンドガンで戦うことはできない。

 その様子に、真奈美が「落ち着いて! それじゃ、狙われるだけよ」と声をかけるが、「これが落ち着いていられるかよっ!」と喚いている。

「あ、大河くん――まだナイフあるよ!」

 イツキは咄嗟に叫んだ。ステータス画面に映るフェンリルの右太腿部に、鞘に収まったコンバットナイフが装着されている。

「ナイフか! もうなんでもいい、どうやるんだ? こうかっ!」

 大河は、飛び道具ではないものの、攻撃できそうな武器があったことで、少し気分にゆとりが出たのか、メニュー選択からナイフの抜刀および構えに入った。

「成長したね。ちゃんとできるじゃないか」

 イツキは感心している。前はショートカットを設定していないと、どうやるのかさっぱりわからなかっただろうが、今はちゃんとできるようになった。

「やってやる! かかってこい!」

 大河が叫ぶと、ミユキは醒めた視線で大河の顔を見た。

「……かかってこなきゃならないのは、あんたの方でしょ。さっさと来なさい。もたもたしてると、狙い撃つわよ」

 フェンリルのその双眼が映す、その前方には障害物に隠れて見えない、ミユキが操るエトワールがいる。どこにいるのかはわかる。しかし、そこから出てくるつもりはなさそうだ。

「来なさい! 葛城大河!」

 ミユキが叫ぶと同時に、大河はクラムを前に押し出した。フェンリルは火がついたように前に向かって駆け出した。

「このやろうっ!」

 低く構えて距離を詰め、二、三メートルのところで一気に加速した。

「甘いわよ!」

 すぐにハンドガンのサイトをフェンリルに合わせると、躊躇なく引き金を引いた。しかし、ミユキの予想以上に素早い動きのフェンリルにタイミングが一歩遅れた。

「てぇっ!」

 フェンリルがエトワールの目の前まで迫ると、エトワールは両手で持っていたハンドガンを左手でだけ持って、右大腿部に装着されているコンバットナイフを引き抜いた。

 そのままナイフを縦に振り上げると、今度はそれを横一閃し、フェンリルの一撃を振り払った。そしてそのまま後ろに飛び下がった。

 二、三メートル距離を置くと、すぐさま左手に持ったハンドガンの引き金を引いた。

 大河は慌ててフェンリルを真横に飛び避けさせて、転げた姿勢をすぐに戻して物陰に飛び込んだ。

「あ、あぶねえ――」

「まだよ!」

 ミユキは叫んで、クラムの射撃ボタンを押した。すぐにエトワールのハンドガンが火を噴いた。

 空気を切り裂く射撃音が二度三度と鳴り響く。大河は大慌てでフェンリルをまた別の障害物の裏に避難させた。

「――やっぱ、こんなナイフじゃ、飛び道具相手にゃ厳しいか」

「ほらほらっ――ボサッとしてたらヤラれるわよ!」

 エトワールは体勢を整えて、ハンドガンを両手で構えて撃った。フェンリルはすぐにその場から離れて距離をとった。その際、後方からフェンリルの脇腹を銃弾がかすめた。

「うわっ、やられ――てはないな!」

 冷や汗ものではあるが、まだやられてはいない。

「うわぁ、危なかった……」イツキは胸を撫で下ろした。

「ち、ちくしょう!」

 大河はフェンリルを二十メートルくらい離れた場所まで下げて、ボロボロ崩れたレンガの壁の裏に隠れた。

「もう終わり? 大したことないわねぇ」

 もう勝ちを確信した、自信に満ちた笑顔で大河の苦渋の表情を見た。

「うるせぇ! まだだ、まだやれる」

 大河はそう言ったものの、やはりナイフではなく銃でなくては勝ち目がない。このまま壁から飛び出したらすぐに狙い撃ちされるに決まっている。しかし、フェンリルが一撃を与えるためには飛び出さないと無理だ。

 明らかに詰んだ状態だった。

「……これはもう、大河くんの負けかなぁ」

 イツキが少しがっかりした様子でつぶやいた。

「どうすりゃ……」

 手も足も出ずどうにもならない状態に、大河は固まってしまう。もはやこれまでか。


 ふいに真奈美が叫んだ。

 後ろのパソコンでディスプレイと向き合ったまま、色々とフェンリルのデータを調べていたようだが、何かを発見した様子だ。

「大河くん! メニューを見て」

「メニュー? メニューのどこを見るんだ?」

「『機能』を選んで、ずっと下――『特殊』を選んで」

 メニューは、ディスプレイ左下にあり、クリックすることで項目がポップアップして表示される。『上半身』『下半身』『武器・道具』……などが、上から下へと一覧で並んでいる。その一番下に『特殊』があった。この項目は基本動作以外の、文字通り特殊な機能を内蔵している場合、それの動作に関する項目だ。

「お、おう。特殊……これか? これを選んだらいいのか?」

 『特殊』の項目には、知らない名称が一つだけあって、それが『OFF』になっている。真奈美はそれをクリックして、『ON』にしろと言う。大河は素直にそれに従った。

「そう。突撃の際には、キーボードの……『A』のキーに設定したから、先に押してね。面白いことが起こるかも」

「は、はぁ? なんだそりゃ」

 大河は、訳がわからないという表情だ。

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