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今度こそ!

「だぁあ、ど、どうなってんだぁ? ええぃ、クソッ! 何で!」

 大河は、まったく思い通りに動かせないことに苛立った。

 それもそうだ。ABSはとても複雑な動きをする。人間の手だけでは、すべてを完全に操作することなどできない。一定の細かい部分はIAに任せることで操縦の負担を軽くしている。

 しかし、それでも3Dマウスとも言われる「クラム」の操作や、各種命令をリアルタイムで出さねばならないキーボード操作など、とにかく複雑だった。

 特に使い始めたばかりのフェンリルは、大河のやり方や癖をまだ満足にAIが学習していない。思い通りに動いてくれない原因の一つだった。

 ミユキは、隣の席に座っている大河の方を向くと、ニヤニヤと笑みを浮かべている。

「ちょっと、もう少しくらいがんばりなさいよ。いくらなんでもショボ過ぎででしょ」

「う、うるせぇ! わ、わかってら……」

 強がるが、どうにもならない実力の差に、少し弱気になっているようだ。

 そんな二人のそばに、真奈美がやってきた。さっきまでパソコンで、フェンリルのデータ解析をしていたが、ある程度わかってきたようだ。

「あの、先輩。もう一回対戦してもらってもいいですか?」

「え? まあ、いいけど――何かわかったの?」

「いえ、まだ全部じゃないですけど……色々ありそうで」

 真奈美は意味ありげな言葉を発した。しかし、それがなんであるかは真奈美の表情からは読み取れなかった。

「ふぅん……わかったわ。葛城くん、もう一回よ。……無駄だと思うけど」

「くっ! まあいい、やったらあ!」



「このキーはハンドガンを両手で構えるため。こちらは片手で。細かい動作はAIがうまく調整してくれるはず。これはは、もう一回押したら解除ね。それから……これは」

 大河は真奈美に色々と教えてもらっている。さっぱりわからないので、設定はすべておまかせだ。一通りの操作法を教えてしまうと、真奈美はふたたびフェンリルの調査に戻った。

 そして対戦は再開される。


「今度こそは……おっと!」

 大河のフェンリルは、すぐに障害物に隠れた。まずは身を隠さないと、すぐに撃たれて勝負が決まってしまう。隠れてすぐに二発の銃声が響いた。ミユキのエトワールが撃ったようだ。

 大河はフェンリルに銃を構えさせた。そしてそのまま、障害物の影から相手の様子を確認する。覗くがエトワールの姿は見えない。身を隠しているようだ。

「くらえっ!」

 フェンリルが影から二、三発撃った。もちろん当たることなく、空気を切り裂きながら消えて行く。

「ちくしょう、ぜんっぜん当たらねえ!」

「大河くん、もっとよく狙って!」

 イツキが横から叫んだ。しかし、操縦に必死な大河には多分届いていない。

「こっちよ!」

 ミユキが叫ぶと、エトワールが障害物から駆け出し、姿を見せた。そして、駆けながらフェンリルが身を隠しているであろう、障害物の方に向かって数発撃った。

「当たるかよ!」

 そう叫んでフェンリルは、走るエトワールを狙って射撃する。しかし当たらない。三発、四発、五発……いくら撃っても当たらない。

「ちっくしょう! ちょこまか動き回って!」

「あんたみたいな初心者が、動く的に当てられるわけないでしょ!」

 ミユキは嘲笑うかのように動き回り、すぐに障害物に隠れる。そしてすぐに飛び出すと、フェンリルの姿を捉えて撃った。

「うわっ!」

 大河のディスプレイの脇に表示させているコンディションモニターに警告が出た。左肩に当たったようで、左腕が機能しない。

「ど、どうなってんだ?」

「左肩に当たったんだ。左腕が使えなくなってるよ!」

 イツキは大河を押しのけるように、大河の見ているディスプレイに顔を近づけた。

「おい! イツキ、邪魔だ!」

 大河がイツキの顔を押しのける。

「ご、ごめん――つい!」

 イツキは必死なると、周りが見えなくなるところがあるようだ。そんなところに、また警告が表示される。今度は頭部二つあるフィールドセンサーの片方に命中したらしい。大河のヘッドユニットから臨場感が薄れた。

「あ、あれ、どうなってんだ? さっきまで――」

 大河はキョロキョロと周囲を見渡した。

「大河くん、部室を見回すんじゃなくて、ワールド内を見て!」

 真奈美が後ろの方から声をかけた。

 これは初心者によくある行動で、センサーが正常に機能してる時には、ヘッドユニットからワールドの空気を感じるので、オペレーター自身がその場――ワールド内にいるように感じられる。

 しかし、センサーが機能しないと、まったく現実に引き戻され、ゲームと変わりない状態になる。ディスプレイの向こうを見なくてはならないのに、つい、自分自身の周りを見てしまうのだ。

「だぁぁあっ! わけがわかんねえ!」

 完全に混乱している。

 ミユキは、大河のあまりの惨状に空いた口が塞がらなかったが、ふと気がついて大河に向かって一喝した。

「ちょっと落ち着きなさい!」

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