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カードの中身

「だぁあぁぁっ!」

 大河は、信じられない! とでも言わんばかりの悲鳴をあげた。

 開始一分で大河は負けた。

 すぐに撃ち合いなったが、障害物に身を隠して落ち着いて狙い撃ちするミユキのエトワールに対して、ただ撃ちながら猪突猛進するだけの、大河のサジタリウス3ではまったく勝負にならなかった。

 ABSは歴然とした性能差があったにも関わらず、この結果だった。

 初め、そのあんまりな様子にミユキの方が唖然したくらいだ。

「まるで手応えないじゃん。弱っちいわね」

 ミユキは勝ち誇った顔で、大河を見下していた。

「なんでだよ! ちくしょうっ!」

 思わず、両手で机を叩いた。その姿を得意な顔でニヤニヤしているミユキと、不安そうにオロオロしているイツキ。何だか険悪な雰囲気になりそうで、少し困った顔をする真奈美。

「ちくしょう、どうなってんだ!」

 苛立つ大河は、思わず立ち上がった。その時、胸ポケットから小さなものが机の上に落ちた。メモリーカードだ。

「あっ、大河くん。何か落としたよ」

 イツキはそう言って、足元のメモリーカードを拾った。

「これは、メモリーカード?」

「あ。それ、親父の形見なんだ――」

 大河はそう言って、イツキからメモリーカードを受け取った。なんとかして中身がわからないものかと、とりあえず持ち出しているらしい。

「形見? そのカードが?」

 ミユキとイツキが同時に言った。

「これ、何か入っているらしいんだけど、プロテクトが掛かってて、何なのか分からないんだよな」

 繁々と、手のひらに乗せたカードを眺める大河。そこに真奈美が声をかけた。

「そういえば……私、ちょっと見てみようか?」

「ああ、でも、できるのか?……」

「わからない。でもちょっと気になるし。先輩、パソコン借りますね」

 真奈美は部室のパソコンで様々試みてみた。というよりは、プロテクトは一つだけだった。「パスワード」だ。

「あんたねぇ……」ミユキは呆れた顔で大河を睨んだ。どんな強力なプロテクトがあるのかと思ったら、ただのパスワードとは……。しかし、このパスワードこそ、意外と強固なセキュリティだったりするのだ。

「パスワード……なんだろう?」

「何か、心当たりのある言葉ってないの?」

 ミユキが言うと、大河は頭を捻って考え込んだ。

「うぅん、思いつかないな……てか、俺もいろいろ考えて試してみたんだぜ? でもだめだったけど……」

「しっかりしなさいよ。お父様のことでしょ。息子のアンタがわからなきゃ、誰がわかるってのよ」

「そんなこと言ってもなあ」

 大河は机に腰掛けて、しばらく頭を捻った。そして――ふと頭に浮かんだ言葉を、無意識に口にした。

「……ラグナロク」

「ラグナロク?」

 イツキは不思議そうな表情で大河を見た。

「ああ、いや、まあ。前に親父がそんなこと言ってたような……」

 『ラグナロク』という言葉について、大河の記憶は曖昧だが、しかしその言葉を聞いた覚えがあった。

 ふと父の生前に、病室で母と話していた時のやりとりが頭に浮かんだ。

 父の見舞いに行く時、先に来ていた母が父と何か色々と話をしていたのを聞いたのだ。びっくりさせようと思って、隠れて近づいたときに聞こえた。

 仕事に関する話だと思ったので、特に興味もなかったが、父の少し深刻そうな声色が妙に印象に残っていた。それもあって出ていくタイミングを外してしまい、しばらく聞き続ける羽目になった。


 ――本当に大丈夫なのかい?

 ――もちろんよ。まさかこんな……な方法があるなんて。

 ――うぅむ、確かにそうだが……ラグナロク……は実際に……。

 ――あなたは心配性なのよ。……計画ほど……な方法は今のところ……いでしょ。

 ――しかし完全に検証で……いんだろう? 僕にはそれが引っ掛かる。

 ――あなたの……わかるけど。それよりも……あなたは治療に専念しないと。ワールド研究の権威、葛城博士がこんなところで足踏みしている場合じゃないでしょ。

 ――そうだね。まず治さなくては。まだまだ研究するべき……たくさんあるのだから。


 大河はその時の様子を思い出して、ふと黙り込んだ。

「それは? どこからラグナロクなんて言葉が出てきたのかわからないけど――まあ、ものは試しね」

 ミユキはそう言って、真奈美のほうを向いて「真奈美ちゃん、それを入れてみて」と言った。

「はい……それじゃ」

 すぐに真奈美は入力すると、ディスプレイにローディングゲージが表示され、そのワードを検証しているようだ。

『パスワードを認証しました』

 一分も経たない内に、真奈美の目の前にこの文字が現れた時、パスワードが正しかったことがわかった。それを見たイツキが色めき立つ。ミユキも軽く驚いた表情だった。

「えっ、マジ? 本当にさっきのでよかったのか?」

 大河は驚いた表情で、真奈美の真後ろから画面に顔を近づけて言った。

「そうみたい。意外だけど……」

「驚きね。アンタのお父様は北欧神話が好きなの?」

「なんでさ。そもそも北欧神話って? ゼウスだったっけ? いや、ジュピターだったかな?」

「アンタ、よくこの学校に転校してこれたわね……え? まさか本気で言ってるの?」

 ミユキは呆れ顔でつぶやいた。


「これで――解除されたわ」

 真奈美はディスプレイに表示されたファイルの一覧を眺めて言った。そして、その中の一つをクリックし開いてみた。全員が身を乗り出して、ディスプレイを注視した。

「これは……ABSじゃないか」

 ディスプレイに映る、メモリーカードの中には、ABSが入っていた。

「……見たことがないABSですね。B&B――いや、メスナーっぽい気もするけど」

 イツキはその見覚えのないABSから目が話せない。ABSマニアと言ってもいいくらいの知識と情報を持っているにもかかわらず、このABSはイツキの知らないABSだった。

「そうかしら? 私には、ユンティラのイルマリネン……そういえば、T2の装甲パーツもあるように見えるわ――あぁいや、パーフェクトストームかも」

「あの頭のフィールドセンサーがカガヤっぽいですよね。って、二本もついてるけど……なんでだろう?」

「しかもカメラアイが二眼じゃないの。どうして?」

 イツキもミユキも、ちょっと一般的ではない仕様に、驚きを隠せないようだ。二人とも、ディスプレイの中の見たことないABSに釘付けだった。

 どうやらこのABSは、かなり特殊な仕様のものであるようだった。


 精悍な頭部には、ABSでは通常見られない人間と同じ二つの目が光る。ABSの目――カメラアイは、映像データを入手する装置で、一つあれば十分だ。というか、二眼でも映し出される映像は、オペレーターの目の前にあるディスプレイに一つだけであり、変わりないはずだった。

 またそれと同じく、後頭部の左右にフィールドセンサーという、オペレーターがワールド内において臨場感を得るための装置が、ウサギの耳のように上に向けて立っている。このセンサーも通常一つあればいいもので、これを二つも備えているというのはかなり異様に感じられる。

 全体的にかなり趣味に走ったような形状をしており、実用第一の歩兵の姿を模したというよりは、派手に着飾った鎧武者のようでもある。

 ABSは多くのメーカーが存在し、それぞれに特徴のあるデザインというものがある。このABSは、複数のメーカーの特徴を持っているようにも感じられた。

 個人で外装をカスタムすると、特撮ヒーローでも模したんじゃないかというような、派手な見た目のABSを見ることがある」。そのあたりは、個人の趣向によって自由にできるからだ。

 しかし、このABSは外装だけではなく、内部機構なども独自の仕様が見られ、相当に優れたエンジニアの手によって設計されたABSのようだ。大河の父は、実際に優れた研究者であり、技術者として有名だった人物だ。

 イツキたちは、このABSを大河の父が設計してもおかしい話ではない、と考えた。

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