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記憶の追跡

たいぶお待たせしました。

頬がひんやりする。俺は外にいる。目の前を銀杏の葉っぱが、ふわりふわりと彷徨って落ちる。

俺は「転生」の式典で座っていた椅子にいた。「王宮」の玄関先である。


俺は車に轢かれた。


それもハンパな轢かれ方ではない。文字通り俺はふっ飛んだのだ。


自分の身体を見回す。どこも汚れていない。どこも痛くない。身体の異常がないどころか、着ているフードつきの上着や、はいているジーパンも綺麗である。ジェリコの一件で叢に入ったし、川の水しぶきの跡や、対岸から飛んできた砂埃もついていたはずなのに。ポケットに手を入れる。ジェリコから貰ったバスカードも消えている。


「お前は勇者だ」


ふとばあちゃんの声を思い出した。俺は今まで勇者であることは、カルト宗教の役割の名前かごっこだと思っていた。けれどこれがもし、本当にゲームのような勇者であったなら、


もしかして時間を巻き戻ったのか。


ありえない。だがそれなら衝突事故からどうして助かった。それならまだしも、黄色に緑が混じった、以前と全く同じ模様の葉が落ちてくるのを、俺はなぜ今見ているのか。


混乱している俺の耳に足音が聞こえた。杖をつく音と足を進める音。


「だから、車道には絶対出てはいかんと、何度も口を酸っぱくしていっとったのに、トモヤは。」


俺はばあちゃんの方を振り向いた。


「ばあちゃん! 俺ってもしかして時間を遡った?」


ばあちゃんは立ち止まり頷いた。


「そうだ。トモヤはまだウチに帰っとらんからな。はじめからになる」


「じゃあ、なんでばあちゃんは俺が車に轢かれたことを覚えてるの?」


ばあちゃんは杖をガンと階段に叩きつけた。


「ばあちゃんはまだボケとらん!」


いや、そういう意味ではないんだけど。


「えっ、つまり皆の時間が戻ったってこと?」


「そうだ。敵も復活した。トモヤがせっかく敵を倒して、ついた経験もわやだわ」


それは問題ない。もうあんな変な蚊に出会わないように帰るだけだ。問題はどうやって出会わないようにするかだ。


俺一人なら走って帰ればいいが、ばあちゃんは勿論走れないだろう。そもそも、さっきは元気そうにみえたが、歩いて帰るのは避けられるなら避けるべきだ。だとすればバスカードは必要だ。そうするとジェリコの元にはもう一度行かなければならない。


俺はそこまで考えて、何か忘れているような気がした。何かもっと違う、それなりに大切なことをさっきまで考えていたような。


「そんなに落ち込まんでもええ。殴り方を覚えとるから今度はだいぶ速く倒せるわ」


ばあちゃんは蚊を倒した経験を亡くしたことに、俺がショックを受けたと思ったらしい。


俺は頭を切り替えた。とりあえず、今優先はジェリコである。ジェリコの状況も戻っていて、元の記憶もある。ならば、ジェリコはもう一度同じ窮地に陥ったことにキレてるかもしれない。今度はカードをくれるかどうかも分からない。しかし、いってみるしかない。


俺は立ち上がった。


「ばあちゃん、俺、もう一回さっき助けた子のとこ、行ってくる。ばあちゃんはここで待ってて」


「そんならいってこい」


ばあちゃんは俺が座ってた転生の席に腰掛け、俺は階段を駆け下りた。

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