遊戯の終焉
今後の予定ですが、あと5話くらい進んだらおそらく一区切りついて、しばらくお休みします。
なんてことだ、王女の近くにいると俺の常識が押し潰される。俺は一番簡単な解決法を選んだ。
「それでは、また」
癖で「また」と言ってしまったことを俺は一秒もせずに後悔した。
「いえ、まだお礼を渡しておりません」
ジェリコはまだ帰すつもりはなかったようだ。慎重にジェリコはバッグの蓋を開けた。そして中からプラスチック製のカードをとり出した。
このカードには見覚えがある。住んでいる街のバスや電車で使える、プリペイドカードである。俺もいつも外出するときは持っている。ただし今日は誘拐犯が勝手に家から俺を持ってきてしまったので、持ってない。
「このカードをさし上げます。新品です。わたくしだと思って絶対に捨てないで下さいね」
むしろジェリコだと思うと、呪いのカードである。俺もゴルフをしたくなる。
けれど今は有り難い。この街のプリペイドカードは新規購入が高い代わりに、予め一定額が入っている。俺とばあちゃん二人が最寄り駅からマンションに帰る分くらいは十分ある。
「いいのか、こんなの貰っても?」
「わたくしは安くはありませんもの。そういえば、先程あなたの後ろについて来ていた方は?」
「ああ、ばあちゃんか。それなら、向こうの方のベンチで休んでるよ」
「そうですか。あの方にもお別れのあいさつをしたかったのですが」
ジェリコは俺が指したベンチの方に目を向け、軽く礼をした。
「王女様、お迎えです」
爺が声をかける。その傍にはスーツが十人ほど整列していた。
「わかっております。では、また」
また、という音を強調するとジェリコは、川に向かった。俺は、再度、またと言ってしまったことを後悔したが、それよりも驚くことがあった。
川にはいつの間にか黒い橋ができていた。見ると、川に三槽のボートがおかれ、ボートに柱が三本立てられている。その上に、川のこちら側から向こうへ黒い板が渡してあるのだ。大掛かりな準備である。こんな準備をしなくても、あと500歩くらい歩けば、普通の橋が掛かっているはずである。
ジェリコがバランスを崩すんではないかと俺はひそかに期待したが、爺に手を引かれてジェリコは無事に橋を渡り切った。スーツも二人についていき渡り終ると、三槽のボートは、柱と板をそのままに王宮の方へ動いていった。
一方、川の向こう側、ジェリコが爆破した、同心円上の更地が広がっていた所には、大型のヘリが置いてある。全く気づかなかった。ジェリコがゴルフクラブをぶん投げたときにはなかった気がするのだが。
ジェリコ達が二人が乗り込む。すると、ヘリは驚くほど静かに飛びあがった。
ヘリは王宮とは反対方向へ飛んでいき、スーツ達は二人を見送ると近くに停めてあった車で王宮の方へ帰っていった。
俺は一通り眺めていた。思ったよりも、王宮というのはヤバイ組織のようである。音が静かなヘリとか、もの凄く高いんではないだろうか。無論、ジェリコは信者からの寄附を中央集権的に吸い上げているのだろうが、駅近くの広い建物といい、ヘリといい、財力がありすぎる。それも今回はジェリコ一人の為に大掛かりに動いていた。考えられる理由は一つ。
ジェリコは神なのか。「王宮」というカルトの頂点なのか。
俺はジェリコが怖くなった。ジェリコの前で王宮の悪口を言っていただろうか。覚えていない。だが、もう帰ってくれた。今更悩んでも仕方ないことだ。
俺は気をとり直して、ばあちゃんの元へと歩きはじめた。
途中の勇者の武器捨て場には、新しいトラックが来るどころか、最後まで居残っていたスーツまで消えていた。もしかすると、スーツ達の今までの行動は、クラブを俺に拾わせて、さりげなくジェリコにゴルフをさせるのが真の目的だったのではないか。そんなバカなことを考えてしまうほど、俺のジェリコ疑惑は深い。
ばあちゃんは俺が近づくと、ベンチから立ち上がった。
「トモヤ、ようやった。さすが勇者だ」
ばあちゃんはニコニコしている。平然としている。いつも通りである。
「まあ一応ね。てかばあちゃんよく見えたね」
よくやったというからには、ジェリコに頼まれたことを果たしたことを見ていたのだろう。
「風船くらい離れとっても見える」
ばあちゃんは何でないようにそういうと、周りを見渡した。
「王宮の子らは帰ったか」
ばあちゃんにとってはカルトのスーツ達も子どもである。俺は頷いた。
「そうみたいだね」
「ならもっと気をつけないかん。すぐに奴らが現れる」
「やつら?」
ばあちゃんは杖で地面をついた。そして俺の目を見返し、言った。
「敵だ」
次回、RPGといいながら、一度もモンスターが出ずに、ここまで来てしまった物語に変化が!?