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爆発の原因

「おい、ジェリコがあの爆発の原因かよ!」


俺のなんちゃって紳士は崩壊した。

ジェリコは恨みがましく俺を見た。


「だって、勇者様、アイス、救えないんでしょ?」


俺は爺に訴えた。


「ちょっと、どうにかしてくれよ」


爺は平然として答える。


「王女様がこの世界が嫌だというのなら、それに従うのが執事の役目です」


忠実すぎて、爺も怖い。頼みの綱はばあちゃんである。


「勇者なのにお前が意地悪するで、この子は臍まげたんだぞ。かわいそうになあ」


臍曲げたとかそういう可愛い行為には全く見えない。ばあちゃんは俺と気持ちを共有するには人生レベルが高すぎた。


俺は気持ちを切り換えた。


「わかった! ちょっとやってみるから」


ミサイルなんてとんでもない。コントロールが悪かったのか、もともと離れたところに落ちるのか分からないが、次俺が巻き込まれない保証はない。世界が嫌なんていうなら最悪世界ごと俺を殺しかねない。あれ、世界を壊す人を専門用語でなんというんだったっけ?


「そんなこと言って、逃げるのではなくて?」


ジェリコは意外と俺のことをよく分かっている。


「ジェリコは勇者にやって欲しいんだろ。だったら勇者を信じろ」


さっきまで嫌々言ってた自分ですら疑わしい台詞である。しかし、ばあちゃんを人質に置いていくなんて展開は受け入れられない。ばあちゃんこそ、むしろ失敗して、再度ミサイルを飛ばされたときに備えて、気休め程度でも避難しておいてほしい。


「分かりました。勇者を信じます」


幸いジェリコは俺の言葉を受け入れた。


「じゃあ、さっさと行って、必要なもん取って戻ってくるから。心配なら爺を俺につけてもいいから」


一応念を押すと俺は走り出した。ばあちゃんがトコトコ俺の後をついてくる。爺はついてこない。


「おい、トモヤ!」


ばあちゃんが叫ぶ。


「急ぐのはいいが、絶対に車道に入っちゃいかん! 車に轢かれるぞ! 」


ミサイルのことは心配せずに、車のことは心配する。

ばあちゃんは本当に謎である。


ただ、急いでいる時に一々車が来るかなんて意識する余裕はない。俺は歩道を走る。


走っていくと、スーツが一人見えてきた。川に下りる階段のすぐ近くで体育座りしている。


スーツはぼんやり川を見ている。ゴミクラブは転がっておらず、黒い水溜りが残っているだけである。運悪く、全部川に捨てた後らしい。トラックはまだ来ていない。いつ来るかも分からない。来るかどうかも分からない。


川を見た。目の届くところに黒い物体はない。せっかく貴重な使い道が出来たのに、不憫な奴等である。運が悪いところは、誘拐されたあげくジェリコにはち合わせた俺にそっくりだ。「勇者」の言葉の意味が、「運が悪い人」なら俺は文句なしの勇者で、あのゴミ達は立派な勇者の武器である。


しかし俺と違い、クラブは何十本もあったのだ。今下流に走れば、流れの遅い、勇者の武器の呪いから外れた一本や二本さすがに流れてくるだろう。


俺はまた走り出した。川を見ながら走ろうとして思い直す。どうせ、次の階段までは川に下りられないのだ。息をするたびに、少し胸が痛くなってきた。


しばらくして次の階段が見える。勢いを止めることなく、俺は階段を駆け下りた。そして立ち止まる。そしてしゃがむ。


水面を見た。

口を大きくあけて、体の前面を何度も動かして息をしている俺が映る。


息は少しずつ収まってくる。しかし、黒い棒は見えない。ただ、白かったり、濃い青だったりする水の帯が流れていくだけである。


クラブはもう、受け取り場も通過してしまっていたらしい。これだけ、ゴミが人に求められる機会はまたとないというのに。


こうなったら王宮に直接貰いに行くしかない。俺は膝に手をついて立ち上がろうとした。そして見た。目的のクラブを。


それは最初に来たとき、ばあちゃんに言われて確認のために取り出したクラブであった。すっかり忘れていたのだが、結局川に完全には落ち込まず、滑り止まっていてくれたらしい。このクラブだけは運命に逆らったのだ。


俺はクラブを掴む。振り返り、階段を駆け登る。あとは来た道を引き返すだけだ。


ばあちゃんは、体育座りのスーツの所を通りすぎて、更に俺の方に迫ってきていた。思ったより速い。杖ババピックなるものがあれば、ばあちゃんが優勝するだろう。


俺が近づいてくるのを見ると、ばあちゃんは立ち止まり、杖をついて待つ。俺はばあちゃんの傍に辿りつく。


「トモヤ、大丈夫か?」


「うん、たぶん。ばあちゃんはここで待ってて」


ばあちゃんの近くにちょうど一脚、ベンチが川を向いている。 思えば、ばあちゃんも俺と一緒に歩き通しであった。


「そうか。なら気をつけてけな。それと、ちゃんと歩道を走ってけよ」


「わかった」


俺はばあちゃんに頷くと、ジェリコ目指して駆ける。どうせ手助けするなら、アイスに間に合わせたい。まったく、アイスがここまで人を困らせる商品だとは思わなかった。


アイスって本当に怖いですね。

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