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護衛の充実

勇者、勇者、勇者と譫言のように繰り返すばあちゃんに、俺の悲哀は伝わらない。


「勇者だろ、トモヤは」


「でもばあちゃん。俺、足場もないのにあんな高いとこ登れないし、手も届かないよ」


俺はジェリコがやったように、背伸びをして両手を上げて、届かないアピールをした。

勿論可愛くない。


その代わり手を上げてみて、俺はとあることに気づいた。その考えをそのまま頭から吹き消した。俺は諦めたい。


ばあちゃんは諦めない。


「そんなことはない。トモヤならできる!」


「どうやって?」


「トモヤは勇者だ。勇者はガンバれば何でもできる」


ばあちゃんは俺の可能性だけを信じているらしい。


しかし、世の中の人のほとんどはそうではない。

ジェリコの顔は絶望を表現した。


「そうなのですね。もうアイスは食べられないのですね」


ジェリコは俯いた。そして、バッグを開こうとして止め、コスプレ服の腰のあたりについたポケットに手をつっこんだ。


涙をふくハンカチを探しているのだろう。俺はせめてハンカチくらい貸そうとGパンに手を伸ばす。しかし、ジェリコが取り出したのは、ボールペンだった。


「こんな世界なんて、もう嫌」


そう言ってジェリコはボールペンの頭を押す。ペンの先が何かに嵌まる、聞きなじみのある音がする。


しかし俺は焦った。


ジェリコはボールペンで自殺する気ではなかろうか。ペンで死ぬのは簡単ではなかろうが、頚動脈なんかを刺されたらもしもということもある。


爺は動かない。ジェリコはペンを持った手をそのまま体の横に下ろした。


ペンは壊れていたのだ。ペン先が出ていない。


そうだ、爺が前もって壊しておいたのかもしれない。だから爺は動かなかったのだろう。アイスの箱さえいつもジェリコの為に持ってあげている爺である。ジェリコの命ならもう少し丁重に扱うに違いない。


俺は詰めた息を緩めた。首も凝っている。

首を回す。そして一つ健康不安が生まれた。


なぜか、俺の傾けた方ではない耳で耳鳴りがするのだ。

はじめは弱かったのがだんだん大きくなってくる。いや、これは耳鳴りではない。


なにかが近づいてくる。そう気づいて、音の方を向くと、何か白いものが目の前を横切り、俺達のいる側と川を挟んですぐ反対側の地面に流れ落ちた。


瞬間、川の方角から、もの凄い爆発音と風が流れた。


川向うは一面真っ白な煙に覆われている。その一帯は、雑草だらけの放置された土地で、廃屋がいくつか並んでいた。ガスタンクとか、そういう物騒なものは置いていなかった。


だが、煙が晴れたとき、その場所は黒い土が見え隠れした、綺麗に真っ平らな土地になっていた。いずれコンビニが10軒くらい建つだろう。



俺の首の血管がいまだにどくどくと脈打っている。俺はジェリコの方を振り向いた。


ジェリコは自分の真上を見ていた。爆風が飛んできたのに風船は奇跡的に同じところにあった。


目線をジェリコに戻す。何もしゃべらない。代わりにジェリコの握っていたペンがしゃべった。


「姫護衛用ミサイル、次弾装填完了シマシタ」


これなら魔王がいる世界でも一人で安心して外出させられますね!

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