表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/21

王家の荷物

ようやくばあちゃん以外のキャラ登場です!!お待たせしました!

実は、彼女に近づいた際、彼女が、


「何か御用でしょうか?」


と不審者を見る目で俺を睨むか、俺を避けて何もなかったかのように、すっとその場を立ち去ることを想定していた。

俺と会話する態勢をとるどころか、助けを求めてくるなどあり得ないと思っていた。

なので、ばあちゃんからそれっぽい返事を授けられていたくせに、俺は全く反応することができず、口をぱくぱくさせた。それがますます俺を緊張させた。


彼女は俺の様子を見て何か勘違いしたらしい。


「失礼いたしました。自己紹介をさせていただきます。わたくしはキガナンの王家第一王女、天姫子、エンジェリコと申します」


ジェリコの言葉を聞いたとたん、俺の緊張は消滅した。


キラキラネームだとかそういうことではない。

キガナンとか王家とかいい出したので、ジェリコがカルト教団「王宮」のメンバーだということが分かったからである。


ようはスーツの仲間なのである。スーツよりははるかに礼儀正しいから、好感は持てるのだが、今までに「王宮」へのマイナスイメージが大きすぎて、ジェリコもあまり信用できない。


気が抜けたとたん、返事がさらさらと俺の口から出はじめた。


「はあ。こんにちは、ジェリコさん」


ジェリコの左眉が少し上がった。


「エンジェリコです。エンは名字ではありませんの」


ますますキラキラネームである。俺が彼女の担任だったら絶対に読めない。


「そうなんですね。それでどうされたんですか?」


ジェリコは息を一度吸って吐いた。左眉は元の位置に戻っていた。


「はい。実は、わたくしの大切な大切な物が風に飛ばされてしまって」


ジェリコは自分の真上を指差した。その指先を辿ると、木の枝になにかが絡まっている。風船である。一つではなく五つくらい束ねられているようだ。


「もしかして、あの風船ですか?」


俺は混乱した。彼女は風船五つで泣いていたのか。


いや、人の価値観はそれぞれだというが、それにしても、高そうなコスプレやらバッグやらを持っていて、それも王女とか言ってる人が、風船五個くらい買えないものだろうか。


それとも、風船による環境汚染を起こしてしまった、自分の腑甲斐なさに涙しているのだろうか。今は土に溶ける素材の風船も多く出回っているはずである。


「風船ではありません。風船の先についたわたくしの大切な大切な物です」


俺は素朴な疑問をぶつけた。


「なんで風船がついてるんです?」


少なくとも風に飛ばされた原因は風船だろう。


ジェリコはよくそこを訊いたという風に頷いた。


「はい。わたくし、重いものを持つのが苦手なのです。ですが買い物には行きたいし、爺にばかり持たせるのも。自分の持ちものは自分で持たないと」


王女にしては殊勝な心掛けである。爺というのはおそらく執事か使用人であろう。


「そしてわたくし、素晴しい考えを思いついたのです。品物に風船を沢山つけて軽くすれば持ち運びしやすいだろうと。見事にわたくしの考えは当たりました。しかし、わたくしとしたことが、風船を少し多くつけ過ぎたのです。そして気がつくと、わたくしの買った大切なものはそこの木の枝へ」


ジェリコはまた風船を指差した。ジェリコのいう品物は俺の立つ位置からは葉に隠れて見えない。


「わたくしは懸命に風船を取ろうといたしましたが、努力実らず」


ジェリコは両手を上げ、背のびをした。ジェリコはそこまで背が高くない。両手を上げたその姿勢で、俺の頭の天辺に届いていない。ちなみに風船は俺の約二人分の高さの枝にひっかかっている。


ここまで話を聞いて俺は二つ結論を下した。


一つ。これはジェリコの自業自得だと。風船付きの荷物は風に飛ばされたのではない。飛ぶべくして飛んでいったのである。


二つ。ジェリコの爺は胃潰瘍を患っている。俺だったら確実に患うだろう。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ