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魔本と星  作者: 水弐
3/3

力への渇望の自覚

めっちゃ間が空来ました。

泥のように眠った。深いまどろみに身を任せ、月明かりに誘われる様に、深く、低く、意識が落ちた。何処か疲労があったか、そう聞かれると肉体には疲労など勿論無い。

だが、現実を超越した信じ難い事象が突然俺の身に襲いかったのだ。まだ2歳児の子供を覆う、本能的な不安感と精神的な疲労は計り知れない。


気が付けば、部屋に明かりが差し込んでいた。

もうじき薄明を迎える頃だろうか。


それにしても、不思議な感覚だ。脳に霧がかかった様に不鮮明なのに、明瞭にあの時の記憶がある。

まるで、魂に刻み込まれたかのように。


星の意思。存在が無く、だけれどそこにいる。いや、ある。きっと星の意思は、生物では無いのだろう。もっと曖昧な存在。膨大なエネルギーの塊、とでも表現すればいいのだろうか。

夜空の様に広大で、月影の様に神秘的。それでいて、有無を言わさぬ存在感。


『星』の意思とはなんなのか。星のエネルギー、もしくは星の使徒?星全体の意思?

頭を捻る。

そもそもこの世界の星とは何なのだろうか。

ダメだ。分からない。

そもそもの所この世界は何?俺という存在は何故ここに居る?何故…


…やめよう。思考の深淵を垣間見た。


それに、何処かおかしかった俺の言動。星の意思の言葉も支離滅裂だったが、強制的に理解させられた。何か、得体の知れない物が頭に流れ込んで来て。そして、何故か言葉が自ずと出て来たのだ。星の莫大なエネルギーのせいで、軽く狂っていたのかもしれない。


それに、…月を刻む、ね。


幾望の月…渇望か。


きっとそれは、まさに望んでいたものなのだろう。心の奥底から、欲して望んで、寄越せと叫んで。その行為こそ正しく渇望だ。

そうしてまで手に入れたかったのだろう。自分の事なのに、よく分からない。

少し自分に恐怖心を抱く。


さて、そろそろ朝日が顔を見せる。

家族も起き出すだろう。



普段通りの日常が今日も訪れる。



☆彡



産まれてから5年の月日が流れた。


日が流れるのは早いもので、色褪せぬ毎日があっという間に感じる。単に、幼い脳は体感時間が短いという事があるかもしれないが。


朝露が反射して眩く輝き、屋敷離れの木造の書庫に日盛りの訪れを伝える。

親が読書家な事もあり、この家には結構な数の本がある。そして、この少し大きめなログハウスは倉庫兼書庫として使われている。

その片隅、日光が余り差さなく周りと隔離されたかのようなほの暗い空間に俺は居た。


「もう昼か…」


そう呟き体を伸ばす。息を吐き、当たりを見渡す。ここ1年幾度と無く通い見慣れた風景、変わらない光景が、此処は自分だけの場所だ。と錯覚させる。


誰か来るー。


5歳とは思えない研ぎ澄まされた感覚の鋭さが人の気配を察知する。

俺の領域に侵入するのは誰だろうか。

少し身構え、恐らくやって来るであろう方向に視線を向け、目を細める。

足音が鳴り始め、軈て人型の影が部屋に差し込み、そして姿を表す。

白藍の髪、瑠璃色の眼をした控えめに言って美形な男性。

そして、俺を視界に収めるや否や、困った様な呆れた様な表情を描き、近づいてきた。


彼は俺の父親の、ルーク・レビーエル。

Sランク級の元冒険者で、この世界の恐怖の象徴とされるドラゴンを討伐したとかなんとか。


その功績が認められて王から子爵の位を授けられる事になったのだが、この子爵は一般的な物とは異なった。

まず、子爵といっても1代限りの爵位で、実際には扱いも男爵に似た物となっている。

これは、謁見の間で爵位授与時に一人の貴族が子爵を与える事に対して抗議したからだ。周りの貴族も爵位授与にそれぞれ思う所があったり、その貴族の分家や派閥だったりと、そこそこの数の貴族が便乗したのだが、男爵には空きが無かったこともあり、子爵には決まったのだが扱いは男爵を少し上から見れるという曖昧な物となったらしい。

その件もあってからか、露骨に悪い顔はされないが貴族の間で少し疎まれているとか。

父曰く、騎士博辺りが良かった、との事だ。



「エル、また本ばっかり読んで。もう5歳なんだからたまには外で体を動かして来たらどうだ?」


「僕は本を読んでた方が楽しいからいいよ。」


幾度と繰り返されて来たこのやり取りに、多少の倦厭を感じる。

これで何回目だろうか。

少し眉間に皺が寄る父さん。これは何かを固く決心した時の顔だ。


「…よし、決めた。ちょっと早いけどそろそろエルには剣を教えようと思う。子供のうちから運動しないと体を動かす基盤が上手く出来ないからね。」


ー剣か。


いずれ剣は握って見たいとは願っていたが、このタイミングか。兄や姉は6歳から剣を習っていたから少し驚いた。

別に体を動かす事が嫌だという訳では無い。

ただ、今はもう少し『力』の制御の鍛錬に時間を割きたかった。


力。

あの時、授かり、譲り受け、渇望して手に入れた力。あれからもう3年近く経った。

その間、もちろん何もして無いわけではなかった。

星の哲の片鱗、余りに広大すぎるが故にほんの僅かしか宿す事が出来なかったが、それでもこの世界の基本情報、その他にも様々な知、もちろんこの力の事も理解出来た。


そうして分かったが、まずこの能力は危険だ。

星の膨大な力、それをコントロールしなければならない。行使しようとしている力の量、種類にもよるが、もし暴発すればその被害は計り知れないだろう。身体が爆発四散するかもしれないし、辺りを荒野にするかもしれない。世界に終末すら迎えさせるかも知れない。


予測不能な破壊兵器。


そんな爆弾を抱えているのだ。

もし、誰かがこの能力を手にしてしまったら。恐怖を覚えるだろう。何故こんな力を、と戦慄もするだろう。力を得て、気が大きくなり、道を外れてしまう者も居るだろう。大きすぎる力という物は人間を陥れる大きな穴だ。


だが、違った。俺はどれにも当てはまらなかった。

この力の危険性を理解した時に俺は、

嗤っていた。愉快気に、これからを夢見る子供のように。

無邪気に邪悪で愉しげな嫌らしく険悪な笑みを浮かべ、複雑でいて真っ直ぐな目をして。嗤っていた。


俺はこの力を望んで手に入れた。

星に魅せられ、何を望んだ?何を叫んだ?

明確な望み、目標なんて持ち合わせていない。

ただ。


ただ、星に呑まれたかった。

それだけだった。


頭では理解しきれていないこの感情。

憧れ?所有欲?星に浸りたい?星で溢れたい?そんな『欲』に駆られる。妙な高揚感と共に俺を昂らせる。

言葉では表現出来ない、初めて味わう謎の感覚。

猛烈な欲。欲するが余り気が狂うような。


星と共に居たい。星を使いたい。星に使われたい。


ー星の力を振るいたいー


ハッと目が冴え、暗黒の霧の中に、僅かな光が見えた。

そうだ、力を振るいたい。使いたい。

俺は…強くなりたい。

俺は力を渇望したのだ。この力で、暴れたい。

その為にはこの破壊の権化を抑え込まなければならない。



そう気付き鍛錬を始めたのが2年前。

あれからそれなりには力を扱えるようにはなった。

だが、まだ懸念する点や不安定な部分がある。

その制御をあと1年で完璧にし、剣を学ぼうと企だてていたのだが…計画が狂ったな。

そうだな…

いっその事、剣と力を混ぜ合わせて鍛錬してみるか。難易度は跳ね上がるだろうが、使いこなせれば短所を補い合う事ができそうだ。力の方もまだまだ不完全だからな。もっと鍛錬に集中しなければ。

テンションが上がってきた。未来図を描くのはやっぱり楽しい物だ。


「分かった。やるからにはしっかりやるよ。

だから、僕に剣を教えて下さい!」


「え…あ、あぁ。てっきりエルの事だからいつもみたいに面倒くさがって嫌がると思ってた…

まぁ、やる気が出てくれたなら良かった。

じゃあ、明日から訓練に加わってもらうな。」


明日からか…色々と計画を練り直さなければ。

剣と力か。使い用によっては完全無欠な兵器と化すだろう。だが、そうなればまずは剣の基礎を完璧にしなければ。混同させるなら両方に変な癖を付けないように気を付けよう…


あぁ、楽しみになってきたな。










暇な時とかやる気が出た時とかにちょくちょく書いてるんですが、如何せんゲームが面白すぎて書く時間が取れなかったんですが、最近また手を付け始めました。

けれど、趣味なので、まったりと書いていきたいと思います。

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