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魔本と星  作者: 水弐
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家族のふれあいと星の目覚め

終盤、支離滅裂な言葉で訳が分からなくなりますが、星はそれ程膨大で広大で、人間が理解するのも烏滸がましいという事です。(理解しようとしなくていいですと言いたい。)


恐らく生まれてから1年程度はたっただろう。そう思うと、異世界で生活しているんだという実感や感慨深さが生まれる。それにまぁ、だんだんとこの家での生活にも慣れて来たとも思うのだが、1年たった今でもあの瞬間に慣れることは無い。それはー


「エルちゃーん!おっぱいですよー!」


若く美しい金髪碧眼の女性がドアを開け近づいてきて、胸をはだけさせこちらに向けてくる。

そう、授乳である。

いくら幼児の体で性欲なんかは抱かないとはいえ、前世の記憶があるこちらとしてはとても気が気でない。どうせ記憶を持って転生するなら授乳期を過ぎた後に都合よく前世を思い出したかったな。


そしてこの女性、俺の母親である。


ノエル・レビーエル。

かつて冒険者として名を馳せた、自称Sランク級の魔法使い。

そのくせとても美しく、少し幼ささえ感じるが出ている所は出ていてスタイルもいい。

しかもこの母親、俺に溺愛している様で、勝手に自分の事を自慢げにベラベラと話しだすのだ。まぁそれはいいのだ。だが、内容が少し、少しばかりエグいのは勘弁して欲しい。


例えば、「そしたらね、ドラゴンの皮膚が爛れて肉がジュワーって音がしたの!お母さん凄いのよ?」

だとか「サイクロプスの目玉ってすっごい脆いのよー?こう、ブスっ!って。」とか。

この世界にそういう生物が存在するというのは分かったが、如何せん生々し過ぎてダメだ。

それにこの体、脳が異常発達しているのか、わずか1年で言葉を理解し、想像することが出来るようになった。それに対し体は、というか本能は幼児のままなのでこの体でその、生々しいのを想像すると本気で恐怖感を覚え泣き出しそうになる。

下手するとトラウマにだってなるかもしれない。だが、この母親はその反応を見て楽しんでいるのだ。鬼め。


「げぷぅ。」


と、そんな事を考えている内に授乳が終わり、いつも通りの楽しい楽しいお話の時間に入る。今日はどんな生々しいのを聞かせてくれるのかな?

はは…体が震えているよ。武者震いかな。


「エルちゃん?どうしたのー?そんなにプルプルして。可愛い子ねー。」


あんたのせいだよ。

と冗談はここまでにして、先程から「エルちゃん」と何度か呼ばれているが、それは勿論俺の事だ。


俺の名前はエルスター・レビーエル 。

愛称が エル 。

というかスターという言葉。当分聞きたくなかったのだが。何せ星だ。前世の事を、しかも死因を思い出させてくれる。誰だって自分の死因を聞かされて嬉しくは思わないだろう。

俺も全く嬉しくないし。

……星…ね。

はぁ。少しテンションが下がった。

まあ、自分の名前なのだしそのうち気に入るだろう。


「あれれー?エルちゃん、急に反応しなくなっちゃった。お母さん、悲しいなぁー。」


「ううあい(うるさい)。」


「きゃー!まだ舌足らずなエルちゃん可愛いー!あー!私の子可愛すぎるー!」


……そのテンションで今接せられると少しイラッとするな。っておい、やめろ。その抱き着き方。少し痛い。


はぁ…赤ちゃんの扱い方が全くなっとらん。

これは一つ、今までの仕返し…教育してやるとするか。


「あああん、おおいうあえ。(母さん、そこに座れ。)」


「え?急に怖い顔してどうしたの?あ!まさかお母さんにギューッてされて照れちゃった?」


「いいああおおいうあえ!(いいからそこに座れ!)」


「っ!…何言ってるか分からないけど、なんとなく伝わってくる…これでいい?」


「おうあ。あいあいあああんあああ!あああんおいうおおおあえういあんあお!(そうだ。だいたい母さんはなあ!赤ちゃんというものを舐めすぎなんだよ!)」


「え、えーっと、ご、ごめんなさい?!」


「あああんっえいうおあああ、えんあいあんあお!(赤ちゃんっていうのは、繊細なんだよ!)」


「え、あの…その。」


「おえあおんあおあいおおいいえうおおおぅえんあ!(俺がどんな怖い思いしてると思ってんだ!?)」


「……ごめんなさい。私が悪かったですっ…」


「ああえあいいんあ。(わかればいいんだ。)」


「私、何に対して怒られたんだろう…」


よし、勝った。何に勝ったか分からないが取り敢えず勝った。これくらいしてやらないと分からないからな、母さんは。

まぁ、とてもスッキリしたよ。


「母さん…何をやっているんだい?エルもそんな勝ち誇った顔して…」


おっと、兄さんだ。

あまりにも楽しくて近くに来ていたのに気づけなかった。


さて、母の遺伝子を色濃く受け継いだのか、金髪碧眼の如何にも王子様と言わんばかりの整った顔立ちをしているこの男。


彼は俺の兄の エアル・レビーエル だ。年齢は13。性格は1番適切な表現として、テンプレ主人公だろうか。困っている人が居たら救いたくなる、そんな優しさと甘いマスクに落される女子が沢山いるらしい。


だが俺は知っている。此奴、意外と性格が悪いのだ。

よく1人で怪しげな笑みをしているのを目にするし、怒ると結構精神的に来る事をされるのだ。俺にはまだ姉が1人居るのだが、姉と大喧嘩した時なんて物凄かったらしい。

これは母さんから聞いた話なのだが、村中に姉の恥ずかしい事を、例えばおもら…いや、やめとこう。で、その恥ずかしい事を言い散らかしたらしい。それで姉はそれから数日外に姿を見せなくなったとか。

それを聞いた時、この優しげな人が?!と驚いたものだ。

まぁ、それも今は納得出来るのだけれど。


「アルちゃん!エルちゃんがお母さんの事叱ってきたのよ?私もう息子に嫌われちゃったのね…グスっ…」


あ、母さん。それはダメだ。アル兄さんはもう13歳で、大人に見られたいお年頃なんだ、その呼び方は不味いぞ。というかそれでいつも怒られているじゃないか。学習してよ。


「…母さん、その呼び方もう辞めてって何回も言ってるよね?」


「え?アルちゃんはアルちゃんだよ?」


「……」


あ…スイッチ入ったな。ほら、アル兄さんに不敵な笑が浮かんでるよ。

…待てよ。この場合、俺巻き込まれるんじゃ…


「…エル、もっとやれ。」


「っあい!(はい!)」


やっぱり、ご指名頂きましたよ!もうバッチリと。あの人あんな低い声出せたのね。少し驚いたよ。…さて、やるからにはしっかりやらないとね。母さん?覚悟してね?


「ねえ。エルちゃん?もういいよね?…なんでそんなに悪い顔してるの?!まって!ご慈悲を!どうか私にお情けを!」


「おんおううおう!(問答無用!)」


「もういやぁぁぁああ!!」


太陽が真上に登りきった時、一つの屋敷から甲高い悲鳴が聞こえたとさ。


☆彡.。☆彡.。☆彡.。☆彡.。☆彡.。



月明かりが部屋を照らす。ふと窓の奥、雲間を染める光源に焦点を合わせる。優しげに、儚げに闇を飾る朧月。ぼんやりとしていながらも犇と存在する事を告げるその美しさには目を見張る物がある。雲が霧状に薄く、広く延びて行くもので星はまるで見えやしない。普通なら、の話だが。


この世界に来てからの謎。


この世界はそうなのかもしれない。そう、結論づけて考える事に対して逃げ道を作ってきた。

もう2年もだ。だが、いつまでもそうする事も出来まい。まずは、謎にひとつずつ答えを出そう。


何故、何時如何に関わらず星が見える?


これが、一番の謎。

拙い会話で家族にそれとなく話を聞いた。

周りには視認出来なくとも、朝でも、昼でも、夜、雲で隠れていても。星が煌びやかに光を発する。太陽の光とはまた違う、別の光。

特別明るくもなく、暗くも無く。

思考する。体に見合わない過剰な記憶を詰め込む為に発達した異常な脳で、目まぐるしい速度で頭を巡らせる。そうすると様々な可能性が出てきた。

一つ。たまたま俺にだけ見える様に光が反射していた。


二つ。俺の目が異常で、他の人とは別の景色を見ていた。


三つ。転生特典。


四つ。あの時、前世の死に際で、星に触れたから。


五つ。そもそもこの世界が俺の思考の中で構成された擬似世界で、俺の脳が自分を特別にしたくて、こう想像している。


考え出したらキリがない。やはり、答えは出せずじまいか。それもそうだ。所か、まだわからないことだらけである。


「そんな中、一つの疑問に執着し続け、まるで呪いのようにそれを解きたがる。

それは、とても傲慢じゃないのだろうか。人は所詮人である。理に踏み込むならば理が貴様を蝕む。まるでこの深淵の空が貴様を覗いているかのように。」


「…っ!」


星の声。本能的に、理解させられた。高次元の存在が、種族としての劣等感を思い出させ体が硬直してしまう。まるで、闇に喰われる様に、否、闇なんてものでは無い。もっと強大な、膨大な、言葉では表せられない得体の知れない力がそこにあった。不思議に美しいと感じた。

あの時と同じだ。前世、俺が隕石と認識したあの時。あの時、俺は星に魅入っていた。生きること、動くことを放棄する程に。


「同じく星も貴様を魅入った。魅入り魅入られる関係。互いに月夜が照らし合う。満月、希望の力。朧月、切望の力。幾望の月、渇望の力。三日月、嘱望の力。弦月、怨望の力。三十日月、絶望の力。我は星の意思。貴様に月を刻む。さあ、選べ。」


星の意思。鼓動が高鳴る。喉が水分を欲する。

希望、切望、渇望、嘱望、怨望、絶望。

選べ、か。

星の世界。ぐるぐると加速する思考と支離滅裂な言動。月明かりが伸びる。頭と体が切り離された様な。不思議と鮮明に意識だけが存在する様に。星の膨大さに充てられ狂い狂う。星が回る。そのままの意味で。夜空が廻る。ある程度の速さで周る夜空はそれぞれの月を闇に残し回り続ける。朧月の雰囲気など遠の間に消え失せ、星々が周り、まるで流れ星の様な感覚に気付かされる。思考だけの空間。輝きを結ぶ。思考の羅列が脳を犯す。

何を考えていたのか、そもそもの所考えていたのか。脳が不鮮明にだが、明瞭に答えを示す。

加速する夜空。かつての隕石の時を思い出させる美しい星空。俺は、星は、望む。強く、弱く、粘り強く、破滅的に、創造的に、星を追う。


「俺は…幾望の力を望む。」


渇望し渇望する終わりのない夢が空を泳ぐ。

正しい答えなどなく、星の意志にも答えなど無く、理解不能な事象を理解させられ、夜空を抜ける。飛ぶ。意識だけが、視界だけが空高くへと飛ばされる。


「渇望。力を望むのか。知を望むのか。それとも他か。貴様の渇望は何を望する。」


雲を抜け、雲を抜け、雲に潜る。

空を駆ける。なんとなく星になった気分だ。流星。こんな感じなのかな。

星の強大さに充てられた狂気が、深淵の望みが心で定まる。星を受け入れた。精神が安定して、人格が星に飲まれる。


「全部。全部寄越せ。俺は渇望する。星を、夜を、広大な世界を。」


ただ、己の望みをぶちまける。星の意思が歪み、雲の中の白い景色が終わる。雲の上、星が爛々と煌めき、星全体から語りかけられる。


「面白い。望め。そして、臨め。この世界の理を犯し星の力を渇望しろ。互いに照らし合う存在で、幾望の力を授けよう。」


支離滅裂だが、理解出来る。月明かりが猛烈に光度を増し思わず目を瞑る。再び瞼を上げる。視覚的な意識があるだけで実際は瞼など存在しないのだが。

月がひとつになり、眩い幻想的な光を漂わせていた。

大きく、そして、広大な幾望の月。

俺は、無意識下に、そして、意識的に言葉を発する。


「照らす。望む。臨む。寄越せ。俺は渇望する。星を継ぐ。紡ぐ。だから、俺に月を与えろ!」







星の意思は消えていた。物凄い汗をかき、ベッドを濡らしている。さっきまでのは何だったのか。ふと、窓を見やる。


今まで見た中で1番の輝きを、大きさを誇る幾望の月がそこにはあった。


星が見える事なんてもう、気にならなかった。


終盤、自分も頭おかしくなりそうでした。

夜、星空、月。人間の手が届かなく、想像もできない哲というのを考えて書いていたのですが、そう頭に浮かべると勝手に言葉が、流れが出てきたんです。それを文字に起こしただけなので、自分が狂ってるのか、星の意思が自分を支配したのか、それとも世界がおかしいのか。あ、やばい。まだ頭おかしいですね。寝ます笑

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