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魔本と星  作者: 水弐
1/3

星との邂逅

星が流れる。


一筋の光が、闇を切り裂く。

それに続き、星の大群が押し寄せる。


幾千もの流星が闇を彩り夜空一帯を埋め尽くす。光が走り重なり合い、その隙間から零れる黒がどことなく切なさを主張している。

儚くも感じられるこの景色を崖からただ俯瞰する。


綺麗。美しい。そんな言葉が頭に浮かぶ。


ふと、前世の世界の現具に既視感を覚え、記憶を探る。あれはなんだったか。筒を覗くとビーズやらなんやらで視界に花を咲かす物。

名前が出てこない。何か一つ、ピースが足りない。

目先の眩い光景に何かヒントを貰えるかと期待し、目に集中を切り替える。

瞬間



ー爆音が轟いたー



軽い衝撃が風圧と混ざり合いここまで届き、外套がはためく。破壊的に、断続的なあまりにも五月蝿い音に顔を顰め、音の発生源に目を見やる。



流星群が落ちる。


それぞれは小さいが、流星だ。それは宇宙(そら)から流れ落ち、とてつもない速さで降下する。


そこからは、叫び声、吹き飛び千切れる体、飛び散る血液、死の恐怖で逃げ惑う人々があった。

まるで阿鼻叫喚の地獄絵図。


脳が目の先で起こっている事象を理解した瞬間、足りなかったピースがはまった。


「あぁそうだ。万華鏡だ」




美しい流星の下には、忙しない叫び声が木霊する。

移りゆく流星と色彩豊かな街。



それはまるで万華鏡の様だった。


☆彡☆彡☆彡☆彡☆彡


一つ街の中、夜特有の冷風が体を撫でる。

厚着をしているとはいえ、やはり寒い。

手が(かじか)むな。

ちなみに悴むというのは北海道弁で、こごえる。手足などが冷えて思い通りに動かせなくなる。という意味がある。筋肉が冷えて、指の動きが鈍くなる。まさにこれだろう。


ここは北海道。

会社の同僚と旅行に来ていて、ついさっき北海道名物の札幌雪まつりを見てきたところで、現在札幌を夜の散歩中だ。


良くあのクオリティで雪像を作れるものだ。

俺が住んでる地域では、そもそも雪が薄く積もれば軽い騒ぎだというのに札幌(ここ)は山のように雪が積もっている。数回来たことはあるが何時見て感動する。


周囲を見渡すと、多くの人が集団を作り静かに騒いでいる。

はて、何かあったのだろうか。

興味を持ち、近づいてみる。


「すっごい綺麗な夜空。」


「君の方が綺麗だよ。」


「ふふ、嬉しい。ありがと。」


…不愉快な会話が聞こえたな。

リア充め…ここでイチャつかないでくれ。


ふむ、夜空か。

重々しげに視線を上に運ぶ。


「ほう、これはすごい。」


夥しい数の星々が姿を主張していて、まるで夜空全てが天の川のようだ。軽く感嘆する。

そして、闇に浮かぶ明瞭な幾望の月。

ここまで美しい夜空は見た事が無い。これは騒ぎにもなるだろう。納得した。

しばらく眺めていようか。

素晴らしい景色を目に刻もう。


そうして星を見て、ゆっくりと時が進む。

この雰囲気、いいな。いつもより明るく、ほんのりとした月明かりがよりそそる。

そんな事を考えていると突然、星空に光が駆けた。


「流れ星か。運がいいな。」


気分がいいな。

集団もより騒ぎ、写真を撮る音が響く。


流れ星に注視してもう三分はたったか。

あまりにも綺麗で見とれてしまうな。


ん?まて、おかしいな。目が馬鹿になったか?

いや、明らかにおかしい。

ちょっとまて。流れ星、大きくなってないか?


いや、何故 近づいて 来るんだ?!


本能的に理解した。助からない。

流れ星はこちらに向かって飛んで来ている。

否、落ちて来ている。

物凄い速度だ。

もう逃げ出そうとも思わなかった。この速度ならあと10分程度で地面に直撃するだろう。

その間に何が出来る?今から車で逃げ出したら間に合うかも知れないが生憎、ここから遠い駐車場に停めている。

騒音に気が付き道路を見る。渋滞だ。

あぁ、これは車でも逃げれないわ。

まさか星が落ちてくるなんて思いもしなかった。

ここら辺、吹っ飛ぶだろうな。



もう命は無いと理解する。不思議と恐怖はなかった。

ただ、夜空をボーッと見つめる。

もう流れ星は目前だ。

あと少し、この幻想的な景色を眺めていたかったな。


あまりにも綺麗で残酷な流れ星だ。

いや、大気摩擦で燃えきらないのならもはや隕石か。

視界が大きな物質で覆われる。


その隙間。



美しい夜空に浮かぶ幾望の月が、悪戯っぽく微笑んだ気がした。








これは後に『札幌隕石』と呼ばれる事となり、札幌の殆どをクレーターへと変え、北海道にとても大きな損害を与える大事件となった。


☆彡.。



目を開くも、上手く焦点が合わない。何がどうなってるのか。ボーッとする頭で思考もままならない。

そんな薄っぺらい意識の中、急に浮遊感が感じられた。

体が反射的に恐怖を覚え、声を上げる。


「うあうえあ。」


まともに呂律が回らない。

いや、発音ががそもそも出来ない。

体が鈍く動かしにくい。

冴えない頭で思考が単純化しながらも自分の体がおかしい事を理解した。


頭にめいいっぱいの謎が浮かぶ。

雑声が聞こえる。

何が起こっているのか。

得体の知れない事が、謎があり恐怖感が滲み出てくる。


『ここはどこだ。』

『何が起こっている。』

『何故体がおかしい。』


頭が疑問で埋め尽くされると同時に、とてつもない睡魔が襲いかかる。怯えて興奮状態の体も無視し、徐々に瞳が閉じられていく。


そこに垣間見られた、二人の男女のいかにも幸福そうな表情は優しさを帯びていた。


『人?』


それを目にして、今まで荒れた波だった心が少し落ち着いて来るのが分かった。

まるで優しさに抱かれている様に、心地良い。

睡魔と安らぎが一体化して、体がこのまま寝てしまいたいと訴えかけている。いや、命令してきている。

まともに働かない脳は、容易くそれを許容していく。


『何がどうなってるか分からないけど、この二人は俺に危害を加えないだろう。』


と、頭にいい聞かせる。そうする事で、微かに残っている未知に対する警戒心を押さえつけ、安堵し、安らかに眠れる様にする。


脳が睡眠モードへと移行し、視界が霞んでいく。

おやすみ。




☆彡.



俺が生まれてから恐らく半年がたっただろう。

とりあえず分かった事がいくつかある。

まず、俺は異世界に転生を果たした。

そう思うのは、俺が典型的なラノベオタクで異世界モノに憧れを抱いていた節もあるし別の理由もある。


俺は、流れ星…いや、隕石の墜落に巻き込まれた。

確かに覚えている。あの轟々しい速度で迫る隕石と美しい夜空はそう簡単に忘れられない。

確実に死んだはずだった。


そして、だ。


何故か俺は赤ん坊になっていた。


異世界転生だといいと思う。

輪廻転生と言われればそうだ。だが、そうすると釈然としない。何故前世の記憶を持っているのか。

輪廻転生が全部記憶を持って生まれ変わるのなら話は変わってくるが、そんな事があったら世界中の人々が前世の記憶を持っている事になる。それはおかしい。


というか、赤ん坊の小さな脳に人の一生分の記憶が収まるものなのか。

あぁ、話が逸れた。


ともかく、分からないことを悩んでいても意味が無い。


そして、一つ気になる事があった。


それは、魔法の存在だ。


何回か、母親が魔法らしき物を使ってるのを見た。

そして、そのそばに一つの空色をした本が浮いていて、魔法の発動と共にページがパラパラめくれていくのだ。物理法則を完全無視し、本が空中を漂うということは前世ではまずありえない事だ。


これを見て、ここは異世界だと確信した。

いや、異世界だと念願する。異世界であってくれ。


恐らくこの世界は何らかの力を持った本を媒介にし、魔法を行使するのではないかと予想する。それかたまたま俺が見た時に魔法で本が浮いていたか。


もし魔法が使えるのなら。そう考えるだけで興奮する。俺の中の知識欲、いや、未知のものに対する憧れがとてつもなく肥大化していくのが分かる。

俺自身、結構なラノベオタクだった事もあり異世界転生モノもかなり読んできた。現実では中小企業に務めるただのサラリーマンだった俺がラノベの中では、普段出来るはずもない冒険が出来るのだ。

ハマらないわけがない。

いい歳こいて何やってんだだって?

返す言葉も無いです。はい。


そして密かに期待しているものがある。

転生チートだ。もしこれが異世界転生だとする。

そうすると現主人公の立場にいる俺には何かチートがあってもいい訳だ。

どんなチートがあるか。

もしあんなのだったらこうしよう。と、妄想が捗る。

ただ、こういう物は期待し過ぎると無かった時の絶望感が凄いのであまり意識しないようにしするが。


あぁそうだ、異世界でのお約束をまだしていなかった。今の今まで忘れていたよ。


瞼を閉じる。あたかも寝ている様な演技をする。

少し時間が経つ。

そして、うっすらと目を開きこう言うのだ。







「いああいえんおうあ…(知らない天井だ…)」




初投稿なので拙いと思いますがどうぞこれから宜しくお願いします。


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