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第八話「救うと殺す」

「……日差しが強いな」


 久しぶりに仕事以外で他の街へと訪れていた。

 買い食いをし、しばらく街を探索したところで、公園のベンチで過ごしている。今日は、いつもより太陽の日差しが強いような感じがするが、闇の世界に慣れているせいもあるだろう。

 とはいえ、いつもよりも日差しが強いのは気のせいじゃない。まだ夏は先のはずだが……。

 最近は、暗殺の仕事もないから、体も鈍ってしまう。

 訓練は一応しているし、金は貯金があるから、大丈夫だ。そもそも毎日のように暗殺の仕事があるわけではない。


「お兄ちゃん! こっちこっち!!」

「そんなに急ぐなよ。まったく……しょうがない奴だな」

「えへへ」


 あの兄妹、あまりに似ていないな。いや、似ている兄妹のほうが少ないか? 

 まあ、楽しそうで何よりだ。

 視線を空へと戻し、りんごジュースが入ったコップに口を当てようとした刹那。


「晃ー!!!」

「おわあっ!?」


 唐突に横から飛びつかれ、ジュースを零しそうになってしまう。

 飛びついてきたのは、アリアだった。

 太陽の日差しで、自慢の銀の髪の毛がキラキラと輝き、その笑顔は太陽よりも眩しい。こんな太陽のような美少女だが、晃の師匠である。

 そして、また気配に気づけなかった。


「会いたかった~!! 私、晃に会えなくて寂し死にしそうだったよ~!!」

「あ、あの……あまり大きな声を出さないでください。それには、苦しいですっ」

「なんでなんで~!! いいじゃん! 私達の仲じゃーん!! うりうり~」

「で、ですから……」


 周りの視線が気になってしょうがない。暖かい目で見守っている人も居れば、怪しげな目で見ている人、羨ましそうな怒気の篭った目で睨んでいる者達も居た。

 極力目立たないように過ごしていたのに、これでは台無しだ。


「そんな暗い表情は駄目だぞ? ―――それに、周りを警戒し過ぎると逆に怪しまれるぞ?」


 耳元で、囁かれる師匠からの言葉に、晃は硬直した。


「……」

「ほーら! もっと自然体でいこうよ!! スマイル! スマイル!!」

「その通りだ、晃。もっと、自然体で。優雅に過ごしたほうが良い」

「ぎ、ギルヴァードさんまで」

「私も居ます」

「シーナもか……」


 いつの間にか、ギルヴァードは隣のベンチに腰を落ち着かせながら、何故か紅茶を嗜んでおり、その脇では、メイドのシーナが、おそらく紅茶の入っているポットを持ち立っていた。

 この二人の気配も感じれなかった。

 いつになったら、感じ取れるようになれるのか。やはり、一年程度では長年暗殺者として生きてきた先人達には敵わない、ということか。


「ねえ。あのサングラスのおじ様……紅茶を嗜んでいる姿とかかっこよくない?」

「きゃー! 本当だ!」


 通行人である女性達が、ギルヴァードを見て黄色い声を上げる。そんな女性達に、ギルヴァードは、応えるように、紅茶を上げ笑って見せた。


《きゃー!!》 

「お、おい。公園にメイドさんがいるぞ」

「うおっ! マジだよ。それに、あの銀髪の女の子も、可愛くね?」


 お次は、アリアにシーナの二人のようだ。確かに、二人は、誰が見ても美少女と言えるだろう。こうして、ただ座っているだけで、目立ってしまうほどに。

 そんな男達の声に、アリアは。


「いえーい!」


 満面な笑顔を見せた。


《萌え尽きたー!!!》 


 もう、目立ち過ぎだろ、これ。晃は、アリア達の自由さに、呆れつつも、感心していた。自分は、まだ未熟ということもあり、常に警戒を怠っていないというのに。

 彼女らは、自然体で過ごしている。

 騙されるな…この人たちは、暗殺者なんだ。だが、心の中でしか言うことができない事実。いや、実際に言っても、簡単に信じてくれるかどうかも微妙なところだ。

 そして、アリア達の笑顔を見て、晃は思った。


「紅茶のおかわりはいかがですか?」

「貰うよ」


 そして、ギルヴァードはのん気に紅茶のおかわりを、シーナは、相変わらず無表情で紅茶を注ぐ。


「アーニャ! 私、ショートケーキが欲しい!」

「ここに」

「ありがとうー! あっ! 晃! はい、あーん!」

「……はむ」

「おいしい?」

「……おいしいです」

「晃。紅茶もどうかな?」

「すでに用意はできています」


 まあ、一人で過ごすよりは楽しいか。晃は、仕方ないとばかりにアリア達と共に公園で、休日を過ごした。




・・・・・★




 久々に依頼が来た。

 晃はいつも通り、仮面を被り指定された場所で依頼主を待っていた。そして、人が近づいてくる気配を感じ、振り返る。


 あれは……近づいてきたのは、先日見たあまり似ていない兄妹の兄のほうだった。

 周りを気にしながら、一歩一歩近づいてきている。

 そして、光を見ると少し怯える素振りを見せるが、すぐに真剣な表情になった。


「あ、あなたが【ブラッド】さん、ですか?」

「そうだ。金を貰い、依頼を受ければ、俺はターゲットを殺しに行く。さあ、依頼内容を話してくれ」


 晃の篭った声に、やはりびくついている。それもそのはずだ。今、目の前に居るのは何人何十人。いやそれ以上か。

 人の命を奪っている暗殺者なのだから。

 こちらが依頼する立場とはいえ、なにか間違いがあって、殺されでもしたら? おまけに、仮面で素顔を見せないため、余計に恐怖が倍増しているだろう。


「は、はい! 実は、えっと……い、妹を救ってほしいんです!!!」

「何?」


 土下座をして、少年は大声を上げた。 

 晃は、一瞬聞き間違いかと思ったが、彼は本気で言っているようだ。それは、目の前の土下座している姿から感じられる。


「俺、ラルドって言います。妹の名前は、リリエ。リリエは、昨日貴族に無理やり連れて行かれたんです。その貴族はグヴァルって言って、気に入った女の子を無理やり連れ去って召使いにする女好きなんだ。だから、きっとリリエも! あいつに……! お願いです! お金なら必ず支払います! だから、妹を……救ってください!!!」


 必死の土下座。

 兄として、肉親である妹を大事にしているようだ。だが、そこで、晃は普段ならば言うことはないのだろうが。


「お前は、妹が連れ去れる時、抵抗はしたのか?」

「え?」


 暗殺者は、ただ依頼を聞き、金を貰って、人を殺す存在。世間一般的な認識はこうだろう。彼も、その認識かはわからないが、暗殺者からの突然の問いに硬直している。


「どうなんだ?」


 再度、晃が問いかけると。

 ラルドは、悔しそうに、それでいて申し訳なさそうに口を開く。


「し、してません……いや、しようとはしたんだ。だけど、銃を突きつけられて、怖くて……! 俺は」

「そうか。変なことを聞いたな……話を戻すが、俺達は暗殺者だ。人を救うのではなく、殺すのが仕事。その依頼は、聞きうけることはできない」

「いえ! ちゃんと殺してほしいんです!! グヴァルを! そのうえで、妹を救ってほしいんです!!」


 再び土下座をするラルド。殺すうえで、救ってほしい。確かに、グヴァルを殺せば、連れて行かれた少女達は解放される。

 自動的に、リリエも助かることになる。


「……了解だ」

「あ、ありがとうございます!!」


 心の底から、嬉しそうに声を上げるラルド。が、次の晃の言葉にまた硬直してしまう。


「だが、お前はそれでいいのか?」

「え? ど、どういうことですか?」

「……考えろ。兄として、本当にそれでいいのか。妹のために、な」


 晃の脳内に、思い出されるのは暗殺者になる前の自分。あの時の自分も、ラルドと同じで何の力のないただの人間だった。

 目の前で残酷なまでに、殺される人々の姿を見て、吐き気を覚え、足が震え、ただただ見ているだけ。やっと動いたのは、ナナが襲われた時だ。

 今のラルドと過去の自分を、どうしてか重ねてしまい、余計な事を喋ってしまったことを、反省しつつ踵を返す。


「結構は、今夜十二時だ。報酬は、暗号を置いたところに」

「あっ」


 最後に、何かを言いたそうだったが、晃は自分から逃げるように姿を消す。







「な、なんだって言うんだよ! くそっ! くそ!!」


 男は必死に森を駆け抜けていた。

 足が重くなっても、息を切らそうとも、逃げて逃げて……必死に逃げ続けている。姿が見えない恐怖から、必死に逃げている。


「逃げても無駄だよ」

「私達からは、絶対逃げれない」

「どこだ? どこに居るんだ!?」


 周りを見渡してもどこにも居ない。

 あるのは生い茂る木々。


「目で見ようとしても無駄」

「だって、あなたは私達の姿を見ずに」

《死んじゃうんだから》


 重なる声は、不気味に響き渡る。

 刹那、男に異変が起こる。


「あ、あがっ! み、耳が! 頭が……!?」


 急な耳鳴りがし、徐々に脳へと響いていく。

 頭がおかしくなりそうになる。

 鼓膜が破ける。

 脳が壊れる。


「あっ……あぁ! アアァッ!!」


 そして、目から、耳から、血を流して痙攣しながら崩れ落ちる。


「ほーら、死んじゃった」

「死んじゃったね」


 闇からゆらりと現れる二人の少女。

 瓜二つの顔が、怪しい笑みを浮かべている。フリルが多い洋服を着込み、髪の毛は灰色で、瞳の色が違う。

 しかも、片目だけだ。青と赤。まるで、片方が炎、もう片方が水。相対するように、色が違う。更に、同じサイドポニーテールだが、左と右で分かれていた。

 森から差し込む、太陽の日差しの輝きが少女達の姿を照らす。

 その冷たい瞳で、死んだ男を見下し、ため息を吐く。


「あーあ。なんで、こんな小物を暗殺なんてしなくちゃならないんだろう」

「そうだよね。もっと大きな仕事がよかった」


 二人仲良く、頬を膨らまし、不機嫌そうにしていると。

 赤目の少女が、声を漏らす。


「あっ! そうだ! 久しぶりにあいつに会いに行こう!」


 その提案に、青目の少女は同意するように首を縦に振る。


「そうだね! あいつに会いに行こう!」


 思いつくように、お互いの手を握り合い、言葉を交わす。


「絶対喜ぶよ!」

「そうだね! 絶対喜ぶ!」

《こんな可愛い美少女が二人も会いに行くんだから!》

「そういうことだから、すぐにでも戻って準備をしよう!」

「そうしよう!」


 双子の暗殺者ルルカとロロカは、陽気な気分でスキップをしながら森を移動した。

 晃に会いに行くために。

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