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第四話「血の狂気」

「およ? およよ?」

「どうなされましたか? アリア様」


 森を一望できるほどの崖の上から、クリーム色の髪の毛を揺らしアリアは声を漏らしながら遠くを見詰めていた。それを、傍に控えていた翡翠色の毛を持つメイドが無表情のままぼ問いかける。


「今、ものすごーい! 覚醒の波動を感じたんだよ」

「ふむ……どうやら、火事のようですね。あの村は、万能草で有名な【アメラー草】で有名な場所ですね。今回のターゲットが向かったと言う」

「そだよ。ただ、一歩遅かったみたいだね。まったくもう! 邪魔さえ入らなければもっと早く到着できたのに!」

 

 アリアは、子供のように頬を膨らますも、すぐに真剣な目つきになる。その目は、獣が獲物を狙っているかのように鋭い。 

 雰囲気が変わったアリアに対し、メイドは再び問いかける。


「どうなさいますか?」

「当然、私は私の仕事をするだけ。シーナは、あいつらの相手をしておいて。どうせ、まだ私のことを狙っているだろうし。性懲りもなく」

「畏まりました。では、メイドとしての勤め。全力で果たして見せましょう。アリア様も、ご武運を」

「うん。任せてー」


 シーナと呼ばれたメイドは、一礼するとまるで闇に溶けるように姿を消す。一人残ったアリアは、さてとと呟きしばらく燃え盛る村を見詰める。


「この感じ。一仕事する前に、また厄介ごとに巻き込まれそうだね……」


 と言いつつも、どこか楽しそうな笑みを浮かべ、アリアは躊躇なく崖から飛び降りた。

 



・・・・・★




「ひっひっひ!! 揉み応えのある乳だぜ。さっそくそいつで、俺のを包んでもらおうか!!」

「いや、いや!! 止めて!!」

「抵抗しても無駄だぜ。嬢ちゃんの力じゃ、俺達を振り解くことなんて不可能だ!!」

「頭! 後で、俺達にも回してくださいよ? へっへっへ」

「わーってるって。まずは、俺からだ」


 服を破られ、下着姿となったナナ。

 必死に抵抗するも、さすがに男二人に取り押さえられ、更に馬乗り。少し力があるだけの女に、振り解くことなどできない。


 その横で、今にも死にそうなダナー。

 そして、ナナを助けに来てくれた晃は盗賊に取り押さえられてからなぜか意識を失ったかのように静かだ。

 

「くー! 俺も早くやりてぇ! どうせ、回ってきた時には……って、ん?」


 晃を抑えていた山賊は、遠目で羨ましそうに見つめていたが、そこで違和感を覚える。

 さきほどまで押さえていたはずの晃がいないのだ。

 いや、それだけじゃない。

 腕が軽い? 視線を落とすと……。


「へ?」


 両腕がない。

 いや、あるにはある。ただ、ある場所は、地面。

 ぼたぼたと地面に流れ落ちる血液。

 

「う、うぎゃあああ!? う、腕が!? 俺の腕があああっ!?」


 遅れてやってくる激痛に襲われ、山賊は悲痛の叫びを上げる。何事だ!? と山賊の頭を含めた全員が視線を向ける。

 これには驚愕だ。

 今まで、晃を抑えていたはずの自分達の仲間の両腕がなくなっており、地面を転がっているのだから。


「なんだ!? 何が起こったと言うんです!?」


 急展開に、ヴァジスは声を荒げる。

 だが、何事を聞かれても山賊達も、何が起こったのかなんてさっぱり。


「そうだ! あのガキがどうしたんだ!! どこにも見当たらねぇぞ!!」


 山賊達は周りを見渡す。

 しかし、晃はどこにもいない。


(な、なに? 何が起こってるの? ひ、晃くんはどこに……)


 いまだ、下着姿のまま押さえつけられているナナは、山賊達の動揺っぷりに同じく晃を探す。


「ぎゃあああ!?」

「どうした!?」


 刹那。

 また違う盗賊の悲鳴が木霊する。そいつは、周りを警戒していた山賊の一人だった。一斉に視線を向けると、すでに死んでいた。

 首がなくなっていたんだ。まるで、鋭利な刃物で切られたかのように綺麗な切れ口だ。ふらふらと、首がなくなった体は、数回揺れ地面に崩れ落ちる。


「ど、どうなってやがる! まさか、あのガキがやってるっていうのか!?」

「うわああああ!?」

「や、やめ」


 姿が見えない晃を探している内に、山賊達は次々にやられていく。それも、一発で。まるで、暗殺でもされているかのように。

 これには、山賊の頭も女で遊んでいる場合じゃないと立ち上がり、鞘から剣を抜く。


「お、おい! どういうことですか、これは!?」

「そいつは、俺が聞きたいぐれぇだよ!! 村を襲うだけの簡単な仕事じゃなかったのか!?」

「わ、私は逃げさせてもらいますよ。私は、まだ死ぬわけにはいかないですからね!」


 声を荒げ、ヴァジスは数人のスーツ姿の男達と共に村から逃げていく。


「か、頭ぁ!?」

「どうした!?」


 今度は近い。

 そう、ナナを押さえつけていた山賊達だ。振り返ると……背後から心臓を貫かれ、片手で軽く持ち上げられていた仲間の姿が。

 もう一人は、恐怖でナナから離れがたがたと震えている。


「て、てめぇ!! ただのガキじゃねぇな!!」


 すでに命がない山賊をゴミのように投げ捨てたのは、今まで姿が見えなかった晃だった。両手にはべったりと血が付着しており、全て手刀でやったのだと推測できる。

 虚ろだ。

 虚ろな瞳をしている。まるで、操り人形になっているかのようだ。人を殺したというのに、感情がないような瞳で、山賊の頭を見詰める。


「……」

「な、なんとか言いやがれ!!」


 だが、晃はなにも答えない。

 一歩。また一歩と、無言で近づいてくる。

 刹那。


「うぎゃあああああ!?」


 逃げていったヴァジスの悲鳴だ。

 森の奥から聞こえてきた。

 どういうことだ? 晃はここに居る。まさか、魔物にやられた? いや、そうじゃない。まさか、仲間が居るのか?

 ダナーの傍に寄り添いながら、ナナは今の状況を理解できず困惑している。


(ど、どういうことなの? なんで、晃くんが……あんな感情のないような顔で)


 まだ出会って日が浅いが、心優しい少年だということは理解していた。本当は、怖いのに。それでも、自分のことを助けに来てくれた。

 そんな優しい少年が今では。


「なんだってんだよ! くそがああ!!」


 やられる前にやる。

 山賊の頭は、残った仲間達と共に晃へと攻撃を仕掛ける。


「……」

「晃くん!!」


 反撃しようとしない。ただただその場に立ち尽くしているだけ。

 危ない。

 必死に叫ぶナナだが、その声は聞こえていない。


「死ねやあああ!!」


 迫る凶刃。

 このままでは、晃は無残にも斬り殺されてしまう。助けたい。だけど、体が思うように動かない。

 これだけのことをやってみせたのに、どうして反撃しようとしないのか。

 

(だめ!!)


 さすがにやられる。そう思ったナナは目を瞑ってしまう。

 

「なん、だと……?」

「え?」


 目を開けると、やられていたのはなぜか山賊のほうだった。振りかざした刃は砕け、地面に突き刺さり、晃を襲った山賊達は綺麗に体を斜めに斬られていた。

 ズルリ……と上半身は落ち、炎が燃え盛る音だけが響いている。

 赤い刃。

 いったいどこからあんなものを? まるで、手と同化しているかのような赤い刃。あれで、剣ごと山賊達を切り裂いたというのか。


「おー? すごい子だね、これは予想以上の衝撃だよ」

「だ、だれ!?」


 死体だらけの場所に、似合わない天真爛漫な少女の声にナナは振り返る。

 声の通り、この場には似合わないぐらい可愛い少女がそこには居た。

 クリーム色の長い髪の毛を揺らし、人差し指と親指を合わせ望遠鏡のようにして、その穴から覗いている。どうして、こんなところに。


「可愛い美少女です! なーんて。ふむふむ……血液を硬貨させているんだね。珍しい能力だ。それに」


 少女は、周りを見渡しながら晃へと近づいていく。


「全て一撃かな? ねえ、これ全部君がやったの?」


 全然恐れることなく、いまだ虚ろな瞳をしている晃を覗き込む少女。

 

「およ?」

 

 少女の問いに、晃は答えることはなかった。

 一瞬にして、少女の背後に回りこみ、その赤き刃を振りかざす。


「危ない!!」

「おっと」

(避けた!?)


 ナナが声で教えたとはいえ、とても避けれるような攻撃じゃなかった。しかし、少女は振り向くこともなく、くるっと回転しながら回避した。

 

「なかなかの回り込みだね。でも、殺気があるから減点!」

「……」


 なぜか、謎の採点をしている少女。

 晃は、そんなことどうでもいいかのように少女を追い刃を振りかざす。


「攻撃が素人だねぇ。まあでも、磨けば輝く原石ってところかな?」


 ナナは、ずっと驚いてばかりだ。

 山賊を難なく倒した晃にも驚きだが、そんな晃の攻撃を喋りながら余裕で回避して見せている謎の少女。

 まるで、晃の力を見極めているように見える。

 

「よし。大体わかった」


 軽くステップし、一度距離を空け。


「えいや!」


 晃が攻撃を仕掛けてきたところで、回転して回避し背後へと回り込む。

 そのまま足を払い、両手を封じて地面へと押さえつけた。


「これで終わりだよ」


 にっこりと笑顔を作る少女だったが。晃はまだ終わっていないとばかりに、刃を捨て少女の腕を掴む。


「お?」


 何をするのかと思いきや、少女の腕がぐにゅんぐにょんと激しく動いた。

 

「そいや!!」

「うっ!?」


 しかし、何かが起きる前に、少女が晃へと謎の攻撃を加え……気絶させた。


「ふいー。さっきのはやばかった。あのままじゃ、私の腕がパーン! しちゃうところだったね」

「お疲れ様です、アリア様」


 次は、メイド? どうやら、少女の。アリアに従うメイドのようだが。


「あ、シーナ。そっちも終わったみたいだね」

「はい。少々時間がかかりましたが、メイドとしてお掃除をしてきました」

「ありがとうね。戻ってきてさっそくなんだけど、そこで死にそうになっている男の人の治療をお願いできるかな? その子の回復魔法でなんとか命が繋ぎとめられているみたいだから」


 二人の攻防を見つつも、ダナーの治療をしていたナナ。

 アリアと言う少女に命じられ、翡翠色の髪の毛のメイドはこちらに近づいてくる。


「初めまして。わたくしは、アリア様に仕えております。メイドのシーナと申します」

「な、ナナです」


 不思議な雰囲気に少し圧されるが、ナナは挨拶を返す。


「ナナ様。そのお方は、お父上という認識で間違いはないでしょうか?」

「そ、そうです」

「もしよろしければ、お父上の治療をする許しをいただけないでしょうか?」

「お、お父さんを助けていただけるんですか!?」


 自分の回復魔法では、限界がある。

 今は、ギリギリのところで命が繋がっているが、いつ命の火が消えるかわからない。


「お任せくださいまし。メイドとして、治療の心得は熟知しております」

「……わかりました。よろしく、お願いします」

「畏まりました。このシーナ。全力で、ナナ様のお父上の命を救って見せましょう」

「じゃあ、私は村の鎮火をしちゃうぞー! 井戸はどこだー!!」


 何はともあれ、これで……終わった。

 シーナから貰った大きな布を纏いながら、ナナは気絶している晃に近づいていく。

 

「晃くん……」


 ナナの脳内に蘇るのは、先ほどの変貌した晃の姿。恐怖で体が震える。が、晃は決して自分を襲うとはしなかった。

 もしかしたら、自分のことをわかっていた。

 護ってくれていたのかもしれない。

 

「……お疲れ様。ゆっくり休んでね」


 自分の膝の上に晃の頭を置き、優しく髪の毛をナナは撫でた。

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