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第一話「赤阪晃」

 暗殺者とは、常に闇に生きなくてはならない。

 だが、ひかるは普通に外を出歩いている。

 素性がばれていない限りは安全。

 手配書も張られていないし、まだ大丈夫だ。


 晃は朝から公園のベンチで青空を見合えている。

 星が輝く夜空もいいが、太陽が輝く青空も悪くは無い。

 いや、むしろ昔はこっち側の住人だったから、本来ならこっちのほうが本当なんだろうけど。

 暗殺者として、人を殺していくことを決めた晃は、すっかり闇の住人になってしまった。

 暗殺をするには、一人のほうが気づかれ難いうえに、身動きも取りやすい。余計な人数を増やすのは得策ではないというのが晃に暗殺術を教えた師匠の言葉だ。


「あっ! 今日も、お兄ちゃん居た!」

「ねえねえ! あそぼ! あそぼ!!」

「ボール遊びをしよー!」


 まったりしていると子供達が来てしまったようだ。

 この辺りにある初等科の生徒で、休み時間などには必ずこの公園で遊んでいるのだ。そして、何故か晃を遊び相手に任命してこうして見つけては遊びに誘ってくる。


「はいはい。順番な順番」


 しかし晃は、満更でもなく。

 こうして、子供達と遊んでいると、心が安らぎ感じがあり、付き合っている。

 だから、ボールで遊んだり。追いかけっこをしたり。自分が闇の住人だということをその時だけ忘れて、楽しく遊んでいる。


「いくぞ! ……ん?」


 ボールを蹴ろうとした時だった。

 背後に何か怪しい取引をしている男を二人確認した。

 帽子などで、変装をしているようだが……手配書にあった魔法具密売犯罪人の二コルとウェウトンではないか?

 まさか、こんなところで見かけるとは。

 魔法具は、魔法を使う時に使える道具。

 魔法の威力を倍増させたり、一定のものだと魔法を扱えない人でも魔法を扱えるようになる。だが、それを裏で取引し、高値で売買しているのがあの二人だ。


 どこで、手に入れたのかは知らないが、かなりの数を一時は売買していたとか。

 今では、取引場所を特定されて、あまり大きな動きを見せなくなったが、また商売をしようっていうのだろうか。

 そうはさせない。


「おにいちゃん? どうしたの?」

「ごめんな。ちょっと用事を思い出して。今日はここまで」

《えーーー!?》

「本当にごめんな? 次会った時はちゃんと遊ぶからさ。それじゃ!」


 見失わないように、晃は追跡を始める。

 どんどん街の裏通りへと進んでいく。

 相手も素人ではないので、一度は取引場所を特定されているので警戒心が強いはずだ。ここは、慎重にいかないと感づかれてしまう。


 奥へと進んでいく二人。

 この先は、晃達と同じような闇の住人……つまりは犯罪などを犯したり、何らかの理由で表にはあまり出れない奴らが住み着いている【アウトサイト】になる。


「動くな」

「なッ!?」


 晃は、驚いている。まさか、気づけなかった? いきなり背後から声をかけられ、背中に何かを突きつけられている。

 尾行に気づかれた? いや、そんなヘマをしていないはず。


「ゆっくりと、顔をこっちに向けろ」

「……」


 背中に突きつけられてるのは、おそらくナイフの類だろう。

 背筋に尖ったものが突きつけられている。いつも、暗殺をしているためやる側ではあるが、実際にやられると、こんな気分なのか。

 ここは言う通りにするのが得策か。

 晃は、背後に居る者の指示通りにゆっくりと顔を後ろに向ける。


「やーい! 引っかかってやんのー!」


 頬を指で突かれた。

 しかも、玩具の手で。よほど身長が低かったんだろう。

 いや、それよりもこの手口は。


「師匠。こんなところで何をしているんですか?」 


 晃を拾ってくれた恩人で、暗殺の師匠でもある少女アリアだった。

 どう見ても、晃より年下に見える体系、幼い声から十代前半の少女にしか見えないが、実際の年齢はわからない。

 

 しかし、暗殺者をやっているうちに知り合いが増え、アリアのことを聞いてみたところ。

 昔から、そのままという衝撃な事実を知ることになった。

 全然年老いていないというのだ。それを聞いた晃は、驚きを隠せなかった。この世界には、エルフなどの長寿の種族が存在しているが、彼女はエルフではない。


 クリーム色の長髪を揺らし、ニコニコと笑っている。

 こうしてみると、ただの少女にしか見えないが、これで人を何十人。何百、何万……いや、晃が知らないだけでもっと殺しているかもしれない。 


「弟子がどうしているかって、心配になって見に来てあげたんじゃないか! どう? どう? 嬉しい?」

「はい、そうですね。嬉しいです」

「じゃあじゃあ、頭を撫でてよ!」

「はいはい」

「にゅう~」


 子供だ。これでは、どっちが師匠なのかわからないというもの。しかし、アリアは昔からこのように弟子である晃を心配しつつも、甘える。

 そんな存在だったのだ。

 ……あの二人を取り逃がしてしまったようだ。


「あっ。あの二人なら大丈夫だよ。シーナが代わりに追っているはずだから」

「……やっぱり、師匠はすごいですね」

「でしょでしょ? もっと褒めて~!」

「はいはい」


 これがなければ、もっと素直に尊敬できるのに。そう思いつつも、晃は頭を撫でてやる。

 ちなみに、シーナというのは、所謂アリアの駒。メイドみたいな存在だ。

 アリアもそうだが、シーナも色々と不明なところがあり、会話をしているとわからなくなっていく。


「で? 師匠は、この後、どうするつもりで?」

「ちょっと、野暮用があってね。そっちに行く事になっているんだよ。だから、それが終わったらちゃんと相手をしてくれよ! 愛弟子!!」

「善処します」

「よし! じゃあ、またね~。もっと修行をしないとまた背後を取られるぞー」


 本当にただ会いに来ただけのようだ。

 アリアが去った後、晃は思い出す。

 もうあれから……一年半以上が経とうとしている。

 そう。

 晃が、ただの少年から暗殺者になったあの決意の日から。




・・・・・★




「……ここは」


 意識がはっきりしたところで、今自分はふかふかのベッドの中に居ることに気づく。

 そして、利き腕である右腕や額に包帯が巻かれている。

 いったい誰が? それよりも……。


(思い出せない。どうしてこうなってしまったか。思い出せるのは、自分の名前と……自分が生まれた世界の名前に僅かな知識)


 記憶が欠落している。

 少年は、何とか思い出そうとするが、全然思い出せない。

 どうしたらいいんだ……そう思っていた刹那。


「あ、目が覚めた?」

「君は」


 状況が把握できない中、とある少女が部屋に入ってくる。その少女は、髪の色が赤く瞳は翡翠色だった。

 手には桶を持っており、晃のことを見ると笑顔で近づいてくる。


「もう起きて大丈夫?」

「あ、ああ。大丈夫、だけど。あの」

「あ、ごめんなさい。私は、ナナっていうの。あなたは?」

「……晃」


 言葉もちゃんと通じている。だけど、こんな 美少女現実で見たことがない。そもそも着ている服も、中世ファンタジーを思わせるデザイン。

 どこかの牧場に居るような。

 現実でと言うが、そもそも記憶の多くが欠落しているため、本当に見たことがないのかどうかも疑問だ。


「そう、晃くんね。お腹とか空いてない? 何か作ろうか?」

「ま、待ってくれ! えっと、助けてくれたことは……ありがとう」

「ううん、どう致しまして」

「それでなんだけど……」


 言葉が詰まる。

 どう言ったらいいのか。まずは、記憶のほとんどが欠落したことを伝える? それとも、自分がどうしてこんなところに居るのかを?

 考えに考え、晃は切り出したのは。


「えっと、俺は、どうしてここに? なんだか怪我をしているみたいなんだけど」


 どうして自分がここに居るのか。それを問いかけてみた。

 すると、ナナは。


「君は、森の中で倒れていたんだよ。怪我は、私にもわからない。君は……覚えていないの?」

「ああ、自分の名前と世界の名前、それと僅かながらの偏った知識しか。それ以外は、まったく。どうしてこんな怪我をしているのかも、わからないんだ」


 思い出すのは、どこかの田舎に住んでいたこと。そして、父親と母親はすでにいなくて、祖父母の家に引き取られ、暮らしていたこと。

 それ以外の記憶は、何が好きだったなど。

 どうして、記憶が欠落しているのか。それがまったくわからない。こうなる直前、何があったのかも……わからない。

 そのことを話すと、ナナは椅子に座りこんなことを語る。


「君はね、森の中に倒れていたの。それも、かなり瀕死の状態で。すぐ回復魔法をかけたから、なんとか助かったんだけど。もう少し発見が遅かったら、ちょっと危なかったかも」

「回復、魔法?」


 聞いたことがない。もしかしたら聞いたことがあるのかもしれないが、記憶にはない。いや、記憶にあるアニメというもので、そういうものの単語が出てきていたような……。

 記憶が曖昧だと、なんとも気持ち悪いものだ。


「うん。それに、なんだか手がすごく真っ赤だった」

「どいういうことだ?」

「えっと、血がね。付着してたの。その血はあなたのものじゃないと思うんだけど……」


 それを聞いて、晃は考える。

 なにか。なにかを思い出しそうなだ。でも……そこまできているのに、思い出せない。


「だめだ。全然思い出せない」

「無理に思い出そうとしないほうがいいと思うよ。ゆっくり、思い出していこう。それよりも、何か食べない? お腹空いてるでしょ」

「そ、そうだな。じゃあ、いただきます」

「うん。丁度スープを作ってあるから、立てる?」


 なんとか一人で立てる。

 大丈夫、と伝え晃はナナに連れられ、部屋を出て行った。

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