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第十五話「オッドアイの少女」

「今日は久々にここで食べるか」


 ルルカとロロカがこの街に来てから数日。晃の隠れ家はすっかり賑やかになってしまった。隠れ家なのに賑やかになっている。どこかの宿屋にでも泊まってくれれば助かるのだが。

 今日は今日で、アリア、シーナ、ルルカ、ロロカの四人が一緒に出かけて行った。本当に仲が良いんじゃないのか?

 喧嘩ばかりしているが、あれが一緒に遊んでいる感覚というやつだと晃は思っている。


 そして、昼はシーナもいないということで、晃は外食をすることになった。シーナが隠れ家に来るようになってから、めっきり外食をすることがなくなってしまった。

 基本、依頼がない日は隠れ家に居るか、修行をしているか、公園に居るか、だ。


 晃が入っていったのは、小ざっぱりしている店。それほど大きくはないが、味は保障つきだ。からんからん、とベルが鳴り定員が出てくる。緑色のエプロンがよく似合うボサボサな赤毛の男。見た目はちょっとしたヤンキーぽいところがあるが、真っ当な人間である。

 晃が入ってくると、すぐさま近づき、声を上げる。


「おう! 晃! 久しぶりじゃねえか。ずいぶんご無沙汰だったが、どうしたんだよ?」

「まあちょっと料理長の料理をな」

「あ? まさか、うちを放って置いて別の店で食べていたんじゃないだろうな?」

「違うって。知り合いが、今居候していて。その居候が料理を作ってくれていたんだよ」

「へー。そうだったのか。そういうことなら、まあいいけどよ。んで? 今日は何を食べていくんだ? いつものやつか?」

「それで頼む」

「あいよ! おやじ! オドブの焼肉定食一丁だ!!」

「おうさ!」


 晃は、席に座り料理が出来るのを待っている。赤毛の男の名前は、ガイ・ルーザルド。この店の店長であるゴウド・ルーザルドの一人息子だ。

 一応、冒険者として活躍はしているが店の手伝いもしている親孝行者。その雄々しい戦い方と赤毛から【猛火の剛剣士】と呼ばれている。本人も、その呼び名を気に入っているらしく、テンションが上がってさらに、雄々しい差が増したとか。


「……ん?」


 久々の店の雰囲気を懐かしんでいると、ふと視線が止まった。そこには、長い金髪と赤いマフラーが目立つ少女が、バックをがさがさと漁っている姿を目撃。

 なにやら、焦っているようだが。

 服装的に学生のようにも見える。バックを漁るのを止めて、周りをキョロキョロと見渡している。その姿は、まるで子供が親に怒られるのを怖がっているかのような姿だった。

 まさかなぁと晃は、あることを思い浮かべた。

 ここは、食堂。そして、彼女は客。さらに、注文した料理を食べ終わっている。

 つまり、後は会計をするだけだ。会計をする気配がない。いや、しようとしているのだがどうしても出来ないように見える。


 バックを焦りながら漁り、涙目で周りを見渡している。ここから想像できることは、金が無い。いや、あの様子だと金が入っている財布をバックの中に入れていたはずなのに無かったという状況だろう。

 自分は、金を持っている思いながら料理を平らげ、会計をしようと財布を探したが無かった。


 ……これは、助けたほうがいいのだろうか? なんだか、あんな姿を見てしまったら、助けないと可愛そうだ。いかにも、という彼女の様子にガイも気づいている。目線を向けると「助けてやれ」という合図が下った。

 まあ、食い逃げをしようと最初から思って来たんじゃないからまだいいか。


 晃は、席を立ち上がり、彼女の下へと歩いていく。その気配に気づいたのか、大きく体を震わせてゆっくりと晃の方を向いてくる。その顔は、マジ泣き寸前であった。

 よく見ると、緑と赤のオッドアイだ。


「どうかしたのかな?」

「え、えっと……そのさ、財布が無いんです」


 予想通りだと、彼女が食べたものを確認して、その分の金を取り出しガイに渡す。


「まいど」

「え? あ、あの」

「俺、人助けが趣味なんだ。気にしないで」

「で、でも」

「気にするな。こいつは、この通りお人よしだからよ。それに、店員である俺が良いって言っているんだ。気にするな」


 店員がどうにかできる問題じゃないけどな。本来なら、店長がどうにかする問題なのだが。


「……」

「バレなきゃいいんだよ。ほら、素直に奢ってもらいなって」

「わ、わかりました」


 立ち上がり晃に一礼をしながら、店から出て行く。


「ありがとうございましたーっと」

「やってから、なんだかけど。これでよかったのかな?」

「いいじゃね?」

「そうかな?」

「そうだって。ほら、席に戻れって! そろそろ料理が出来るぞ」

「ああ」


 人助けが趣味か。人助けと言っても、やっていることは人殺しなのだが。




・・・・・★




「ふう。久々に食べた食べた」


 昼食を終え、俺は何をするでもなく街をぶらぶらしていた。食後の散歩、のようなものだ。この後、出かけて行った四人と合流することになっているけど。まだ時間はあるし、何をしようかなぁと考えていると。


「あの!」

「ん? あれ? 君は」

「さ、先ほどはありがとうございました! ちゃんと…お礼を言っておかなくちゃならないと思いまして」

「そのために、わざわざここで待っていたの?」

「は、はい!」


 律儀な子だ。わざわざ、礼のために待っていたとは。晃は、感心すると同時にこんな子が増えていけばいいなぁと頷く。

 晃の周りにいる人は、大抵自分勝手というか。パワフル過ぎて、ついて行けないって言うか。なんだか、そう考えるとよく今まで生きてこれたな……晃は、眉を顰めた。


「あの、どうかしましたか?」


 おっと、いきなり落ち込んだから心配されたようだ。

 晃は、慌てて笑顔を作り。


「なんでもないよ。あっ! そうだ、食後のデザートとかどうかな?」

「え?」

「ほら、ちょうどあそこに美味しそうなアイスクリーム屋がある。買ってきてあげるよ。何がいい?」

「い、いいですよ! そ、そんな……先ほどおごってもらったばかりなのに」

「遠慮はいいって。これでも、金はある方だからさ。アイスの一つや二つ」


 遠慮がちな彼女にぐいぐいと押していく。誤魔化す為とはいえ、ちょっと強引さがあり過ぎたかな? 少女が、チラチラッとアイスクリーム屋を見ながら、ようやく折れた。


「じゃあ、あなたと同じものでお願いします……」

「同じやつでいいだな? わかった。ちょっと、そこのベンチにでも座っていてくれ」


 そして、足早にアイスクリーム屋へと直行。ここは、無難に普通ので。晃は、二つアイスを注文しそれを受け取ってベンチで待っている少女の下へと向かった。


「お待たせ。はい、これ」

「あ、ありがとうございます!」


 ひとつを渡して、俺もベンチに腰を下ろす。

 そして、一口。


「うまいな?」

「おいしいですね。あの、ありがとうございます。今度、会った時はちゃんと昼食分もお返ししますので」

「いいっていいって。奢ったって言っただろ? 別に返さなくてもいいよ」

「でも、それじゃ」

「うーん。じゃあ……今度、一緒にまたあそこで昼食でもどうかな? それでチャラってことで。あっ。もちろん、自分の分は自分で払うって言うことでだけど」

「そ、そんなことでいいんですか?」

「食事は、大勢で食べる方が美味しいんだ。どうかな?」


 そう、大勢で。今まで隠れ家で一人寂しく食べていた晃は、最近になってアリアやシーナ、ルルカやロロカ。それにギルヴァードとは……紅茶だけだったが。

 それでも、大勢で囲みながら食べる料理は一段と美味しさが増していたような気がしたんだ。

 少女は、少し考えるような素振りを見せ、何かを決心したような表情で口を開く。


「わかりました」

「そうか。じゃあ、明日でもいいか?」

「はい。明日でいいです。えへへ。楽しみですね」

「ああ。明日は、ちゃんと財布を忘れるなよ?」


 少し、意地悪く言うと少女は恥ずかしそうに慌てる。


「だ、大丈夫ですよ! さすがに、そんな定期的に忘れるわけないじゃないですか」

「ははは、ごめんごめん。そういえば名前、聞いていなかったな。俺は、晃って言うんだ。君は?」


 名前を聞かれ、一瞬体を震わせたように見えた気がする。だが少女は、微笑みながら自己紹介を始める。


「マナです」

「マナか。良い名前じゃないか。見たところ、俺と同い年ぐらか?」

「晃さんは、何歳なんですか?」

「俺は、十七歳だ」

「じゃ、じゃあ、同い年です! わぁ、もっと年上だと思っていました」


 その言葉に、晃は少し落ち込む。


「それは俺が見た目より老けていると……」


 その落ち込みように、マナは慌てて弁解してくる。


「ち、違います! なんだか十代とは思えない落ち着きようがあるというか。同い年とは思えないというか。その、えっと」


 なんだか、弁解しようとしているがあまり言葉が思いつかないようだ。あわあわと、何を言っていいか困惑している。さすがに、それを見てしまっては晃もこんな些細なことで落ち込んでいる場合ではない、と思い顔を上げる。


「大丈夫だ。まあ十代らしい雰囲気が無くなっているのは、俺自身自覚しているからな。気にしなくても良いさ」

「でも」

「ほらほら。笑顔。あんまり、涙を流すと幸せが逃げていくって聞くぞ?」

「そ、そうなんですか?」


 地球に居たころ、誰かに聞いた本当かわからない話だけどな。それでも、元気付ける言葉になるなら。

 晃は、マナの涙を指で払い、元気付ける。


「そういえば、マナは学生なのか?」

「学生、でした」

「ん? 過去形ってことは、今は?」

「はい。ちょっとした諸事情で今は学校に通っていません」

「そうだったのか。困ったことがあれば、俺を頼ってくれ。これでも、結構役立つんだぞ? 俺」

「……はい」


 どこか、儚い笑顔に見える。そこで一人の男が近づいてきた。黒服のガタイの良い巨漢だ。それに、気づいたマナはすぐさまベンチから立ち上がり、晃に一礼をする。


「そ、それでは、私はこれで! 明日のお昼……楽しみにしています!」

「ああ。また、明日」


 そして、その巨漢の下へと走っていく。合流すると、そのままどこかへと一緒に去って行く。どこかのお嬢様? いや、そんな扱い方ではない。

 どう見ても、あの巨漢の態度が執事のようなものじゃないのは明らか。執事というよりもあれは……傭兵。何かありそうだが、大丈夫だろうか。


「さっきの娘は誰?」

「だれだれ?」

「私も師匠として気になる!」

「何か怪しい関係柄では?」


 びっくりした。また、気配もなしにこの人達は……と眉を顰める。いつの間にか、晃の両隣にルルカとロロカ。さらに背後にアリア。その隣ににシーナが立っていた。


「お、おい。あそこのベンチやばくね?」

「うお!? メイドさんにロリ三人だと!? どういう空間だよあれ」


 ……一気に騒がしくなってきてしまった。ここまで、集まると目立つのが欠点だ。彼女達は、晃の目から見ても美少女だ。一人でも、かなり目立つというのに四人一度に集まるとなると。


《ねえねえ? 聞いてる? 晃》

「師匠としては、弟子の人間関係を知っておかないといけないの! さあ! 答えて!!」

「まさか……如何わしい関係なのでは?」

「それはない!!」


 とりあえず、シーナの発言にだけははっきりと言っておかなければならないと思い、晃は叫んだ。

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