第十三話「双子に囲まれて」
「朝か……」
いつものような朝。
太陽の日差しが差し込み、眩しいばかりの輝きである。この前ギルヴァードとの一件以来、何度か暗殺の依頼をしてきたが、改めて暗殺者としての生活に慣れてきたんだと改めて思った。
晃は、この世界のことをそれほど知っていない。もうこの世界に来て、二年が経とうとしているというのに。
いや、たった二年か。元からこの世界で生まれ、生活をしている者達からしたら、まだまだ子供か赤子だと思われても仕方ない。
知っているのは、この世界の名前や、アリアから教えてもらった知識だけ。
もっと世界を知るためには、色んなところへと旅するか、本を読む。
そのため、時間が空いている時は、極力読書に勤しんでいる。
昨日も寝る前に、世界の歴史が記された本を読んだが……やはり、どうも難しく記されているため、すんなりと頭に入ってこない。
「やん」
「くすぐったいな~」
「……」
さて、起きて顔でも洗おうかとベッドから起き上がろうとしたところで、やっと気づく。
聞き覚えのある声が二つ。
両脇から何か柔らかい感触を感じ、確かめようと少し顔をまず左に向けた後、右にも向け、最後に天井を見詰める。
「ルルカにロロカか……。お前ら、いつの間に」
《お久しぶり~。そして、おはよう、晃!!》
声が違えど、重なるように挨拶をする二人。
右で晃にくっ付いている右サイドポニーで、赤い瞳をしている少女の名前がルルカ。
左で晃にくっ付いている左サイドポニーで、青い瞳をしている少女の名前がロロカ。
見ての通り、双子の姉妹で晃と同じ暗殺者。
髪の色は同じく灰色だが、瞳の色が違う。片方は二人とも同じで眼帯だが、もう片方の瞳がそれぞれ違うのだ。
フリルの多い人形のような洋服を着込み、傍から見れば、可愛らしい双子の姉妹。
なのだが、暗殺者なので、人を殺しているわけだ。それもかなり酷い殺し方で。毎度のごとく、初めてこの二人の暗殺を見た時は、トラウマになるかと思ったと晃は語る。
「おはよう、ルルカ、ロロカ。こっちに来るんだったら言ってくれればよかったのに」
「だってだって~。驚かせようと思ったんだもん。ねえ? ロロカ」
「そうだよそうだよ~。こうやって、晃の驚いた顔が見たくて、あえて連絡なしで来たんだもんね~? ルルカ」
《どうどう? 驚いたでしょ?》
いまだ双子にくっ付かれたまま元気な声で問いかけられる。
「まあ、うん。驚いた、驚いたとも。……それよりもさ、離れてくれないかな? 起きなくちゃならないから」
「だーめ! このままで居るの!」
「そうだよ! このまま一緒に寝てようよ~」
完璧に間接を決められている。
胸の柔らかい感触で喜んでいる場合ではない。ここで抵抗をしたら、確実に折られる。しかも、ゆっくり痛んでいる姿を楽しみながら、折られそうだ。
「それにさ~。女の子がこんなにも体を押し付けているのに嬉しくないの~」
「嬉しくないのかな~?」
さらにぎゅっと密着してくる二人。
男として素直にここは嬉しいと言うべきなのだろう。だが、これは強制されて言わされいるだけなんじゃ?
あれ? それって良い事なんじゃ?
強制ということは、別にやましいことじゃないわけで。
それに、言うことを聞いていれば開放されるかもしれない。脳内で、即座に判断した晃は、ルルカとロロカを喜ばせるため、素直な感想を述べた。
「嬉しい。うん、嬉しいよ。こんな可愛い女の子に挟まれているんだから!」
「ほんとー?」
疑いの表情で、見詰めてくるルルカ。
「ほんと! ほんと!!」
「だったら~。もっと他の感想とか言って欲しいなぁ。ねえ? ルルカ」
と、ロロカが更なる言葉を晃に強制してくる。
「そうだね。もっと他の感想が欲しいよ、晃」
他の感想……いったい何を言えば。アリアのように、子供を褒めるような感じでは、必ずまた言葉を求めてくるのは確実。
こんな状況で、女の子を褒めたことなどないので、必死に考えた結果。
「ほ、程よい二人の柔らかい胸の感触が気持ちよくて男として感激です……」
なんとか搾り出したが、それでも双子は足りないらしく。
《他にはー?》
更に晃へと密着し、笑顔で言葉を求めてくる。
「えーっと、えーっと」
「お取り込み中申し訳ありませんが、朝食のご用意ができましたので、早く起床してもらわないと困ります」
晃が悩みに悩んでいると、助け舟がきた。
ドアの前に、いつものように無表情でメイド服を着込んだアリアの付き人であるシーナが立っていた。
現在、アリアは私用で出ていると聞いている。
最近は晃の隠れ家にアリアとシーナが住み着きかなり賑やかになってしまった。
シーナの料理を食べられるから良いことはある。
どうも晃は料理が苦手で、外食か簡単なもので済ませてしまう。
だから、シーナの健康を考えた料理の数々が最近の楽しみになっているのだ。
今日の朝食は何なのだろうか? 冷める前に食べたいので、ルルカとロロカへと再度言い聞かせる。
「二人とも! 朝食は出来立てが一番だ! な? だから、早く起きよう。な?」
すると、二人は顔を見合わせ、不機嫌そうにしながらも力を弱める。
《はーい》
どうやら、言うことを聞いてくれたようだ。
名残惜しそうに晃から離れてくれる二人。そして、そのまま料理の置いてあるリビングへと駆けていった。
晃の部屋から二人が出て行った後、残ったのは晃とシーナだけ。
しばらくの無言が続き、シーナが晃のある部分を見つめ、冷静に呟いた。
「お手伝いしましょうか?」
「……もうやめてください」
これは、男としてしょうがないことなんだ。
もう、これ以上はいけない。
・・・・・★
「晃! 次はあっち!」
「その後はあっちね!」
「そんなに引っ張るなって。慌てなくても順番に周って行けばいいだろ?」
朝食後。
晃は、ルルカとロロカの二人に引っ張り出され街へと繰り出していた。
もちろん、金は晃のを使う。
貯金は貯まっている大丈夫だろうが、正直二人のほうが稼いでいるので、晃はいらないんじゃないかと。
寝起きの時の様に、両脇から右にルルカ。左にロロカと姉妹仲良くバランスよく晃にくっ付いている。
二年前もこんな光景あったなぁ、と思い出す晃。
あの時は、この街じゃなかったが。
そういえば、あの時は途中でアリアが乱入してきて大変な目に遭ったんだが、今回はアリアがいないので、大丈夫か?
「ルルカ! これ、セットで買うと安いんだって!」
「うわー! 本当だ! じゃあじゃあ、同じ服を選ぼうよ!」
「そうだね! どんな色にしようか?」
「えっとねぇ」
洋服店で、楽しそうに洋服を選んでいる。その姿は、本当に仲の良い普通の姉妹にしか見えない。
晃は、二人が服を選んでいる間、店の外で待機し空を見上げていた。
「よう、晃。相変わらず仲良しこよしだな?」
「……今日は、本当にどういう日なんだ」
声をかけてきた少年を見て、晃は思わず深いため息を漏らす。
「おいおい。そんなうんざりしたような顔すんなよ。せっかくライバルが会いに来たっていうのに」
「いつから、ライバルの関係になったんだよ、クルス」
そこには、果実を齧りながら不適な笑みで近づいてきた少年。
氷のよな色素をした髪にルビー色の瞳。
見た目はイケメンだが、中身は獣。残虐非道な悪魔のような男だ。
少年の名は、クルス。
晃と同じぐらいに暗殺者としてデビューをしたことでなのか。光をなぜかライバルと言って事ある毎に勝負なんか仕掛けてくる。
正直、クルスとはあまり争いたくない。クルスの能力は、クルス自身が使うことで本当の意味で残虐さを増す。
晃にとってもかなり厄介な相手だ。
「そう言うなって。……情報通りあの双子がこの街にやってきたな」
「ん? お前は、ルルカとロロカがこの街に来ることを知っていたのか?」
「まあな。この街は色んなものが集まってくるから面白い」
果実を齧りながら語るクルス。
確かに。この街には、色んなものが集まってくる。街に繁栄をもたらすものや厄災など。この街には何かがあるんじゃないかってぐらい集まってくるのだ。
晃も、アリアにこの街で活動してみないかと言われて活動を始めた。
この街には、冒険者ギルドや騎士学校、教会など。
まるで菓子の詰め合わせのような感じな場所だ。しかも、ここから遠くない場所にも、複数の街があり、魔除けの石で囲まれた道で繋がっている。
「で? そんなことを話すためにわざわざ来たのか?」
「いいや。お前に良いことを教えてやろうって思ってな」
「面白いこと?」
最後の一口を平らげ、クルスはニヤリと笑う。
「お前とギルヴァードが暗殺の時に潜入したイツーナ生物研究所。あそこの創設者がなんだか面白そうなことを始めるらしいぜ」
「面白いこと? なんだよ、それは」
「はっはっは! それぐらい自分で考えろ」
「……本当に、何をしに来たんだよ、お前」
「俺は、これから野暮用なんでな。お前は、仲良しごっこを楽しんでろよ。じゃあな」
……本当に何をしに来たんだ。去って行くクルスを見詰め、眉を顰める晃。
だが、イツーナ生物研究所の創設者と言ったら、やっぱりイツーナ博士だ。面白いこと……まさかまた魔物の実験なんかをしているのか?
あんな、化け物はもうごめんだ。
あの顔、あの皮膚、あの腐臭。思い出しただけで吐き気がする。
「晃! 決まった!」
「早く会計してよー!」
「はいはい。今行きますよー」
そんな時、二人からのお呼び出しがきた。
晃は、気分を改め店の中へと入っていく。そこには、二人お揃いのワンピースが抱えられていた。本当に仲がいいんだなと、思いつつも財布を取り出し、レジへと向かう。
支払いを終えて、外に出たところで。
「ねえ、さっき話していたのクルスだよね?」
「クルスだったよね?」
「え? あ、ああ。そうだけど。見ていたのか?」
どうやら、クルスと会話をしていたところを見られていたらしい。こっちからは、ただ買い物をているよにしか見えなかったのに。
さすがは、先輩だ。
歳では、晃のほうが上だが、暗殺者歴は二人のほうが長い。
「会話内容も知ってるよ? ギルヴァードと一緒に依頼をしたんだってね~」
「したんだってね~」
「それに、この街で面白いことが起こるんでしょ?」
「何だろうね? ルルカ」
「何だろうね? ロロカ」
《面白いことってなんだろうな~》
「なんだろうな……」
晃には、面白いことだとは思えない。
どうせ、ろくでもないことだろう。あのクルスが面白いって言うことだ。きっと、ろくでもないことに決まっている。
「まあ、今は買い物を楽しもう!」
「楽しもうー!」
まだ買うのか。これは、日が暮れるまで付き合わされそうだ。覚悟を決めた晃は、また二人に囲まれながら足を進める。
刹那。
「そうはさせない!!」
なぜかここには居るはずの無い声がしたような気がした。
ルルカとロロカを見ると、とても不機嫌そうな表情をしていた。しかし、すぐ子供のように楽しそうに笑い振り返る。
《……もう来ちゃったか~。意外と早いご到着だね! アリア!!》
敵意剥き出しである
そして、背後に現れた小さき交戦相手であるアリアは。
「私のいない間に、晃をまた誘惑するなんて。許すまじ! 灰色姉妹!!」
当然のごとく、こっちも敵意剥き出しであった。
「いやぁ。また、あの光景を見られると聞いてね」
と、ギルヴァードが笑顔で出てくる。
「ギルヴァードさん。またそんな面白がってないで止めるとかしてくださいよ」
心の底から頼むが、シーナが当然のようにポットとカップを取り出し、カップをギルヴァードに渡す。ギルヴァードは、それを受け取り、シーナが用意した椅子に腰を下ろした。
「いいじゃないか。一人の男を取り合う少女たちの戦い。見ものだと思わないか?」
「そうですね。見ものだと思います」
主を止めろよ……と晃は頭を抱える。




