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第十一話「二人の暗殺者」

 とある喫茶店で、ギルヴァードは優雅に紅茶を嗜んでいた。周りの女性客は、その姿に魅了されまさに釘付け状態になっている。

 が、そこへ更に女性の目を引く人物が現れる。

 ギルヴァードとは、違い少し幼いがそれでも、容姿は完璧だ。


「おや? 珍しいね。君が、来るなんて」

 

 カップを一度置き、ギルヴァードはその少年を見詰め、小さく笑う。


「俺が、お茶を飲みに来るのがそんなに珍しいことか?」


 少し不機嫌そうに、ギルヴァードを睨みながらも目の前にどっかりと椅子に座る。


「いや、これは失礼した。そういう意味で言ったのではないのだが」

「わーってるよ。にしても、あんた。まだ暗殺家業続けていたんだな。今度、あいつと一緒に行動するんだって?」

「情報が早いな。まあ、その通りだ。君もどうだ? クルス」


 ギルヴァードの目の前に席に座ったのは、氷のような色素をした髪の毛と赤いルビーの瞳が特徴的な少年クルス。

 暗殺者の中でも、一、二を争う残虐さを誇る男の一人。

 殺すことを心から楽しみ、依頼であるターゲットだけではなく依頼主まで殺したと言われている。

 彼に逆らった者は、容赦なく彼の能力によって無残な姿へと変貌するのだ。

 まだ、暗殺者としては新人の部類に入るが、その能力の高さと残虐さでたちまちに名を広めさせている。


「断る。俺は誰かと組むのだけはごめんだ。居ても、邪魔だし……殺しちまうかもしれないしな」


 冷たき氷のような瞳の中に、煌く残虐さ。

 クルスがにやっと笑うと、明らかに周りの空気が変わった。今は、太陽がさんさんと輝いており、温かい空気だったのに、今では冬にでもなったかのような低温だ。

 周りの客は何かを感じたのか、体を震わせ気分が悪くなる客がちらほらと確認される。

 訓練を積んでいない一般人でも、感じられるクルスの殺気。

 だが、そんな中で平気な顔でギルヴァードは紅茶を嗜んでいる。


「相変わらずだな、君は。そんな態度では、依頼もあまりこないんじゃないか? それと、殺気を消すんだ。周りの客に迷惑だからね」

「へっ! 残念ながらちゃんと依頼はくるんだよな、これが。それに、依頼がこなくても金にも生活にも困らねぇしな」


 と、メニューを見詰めながら、余裕の笑みを浮かべる。


「ははは。そうだったね。君が、貴族だったことを忘れていたよ」

「まあ、あんなところに居ても退屈なだけだけどな」


 クルスの家は、この辺りではあまり大きくないにしろ貴族は貴族。

 金には困らないし、生活にも困らない。

 そんな貴族がどうして暗殺者などをしているのか。

 クルスは三人兄妹に次男にあたる。長男は家を継ぐために必死に頑張っているが、次男であるクルスは自由に好きなことをやれるということなのだ。


 だから、クルスは自分の能力を最大限にまで発揮でき、尚且つ楽しめるようなことを探し、暗殺者となったのだ。

 尚、家族はクルスが暗殺者をしていることは、知らない。現在は、半ば家出をしている状態なので、当たり前と言えば当たり前だが。


「そんなことはないだろ? 可愛い妹さんが居るじゃないか。ミアは元気かな?」


 クルスが家出をしても、自力でその居場所を特定し、何度もクルスのところへとやってくる妹。

 それがミアだ。

 居場所を特定されているもの、家族にその場所は教えていないという。


「元気があり過ぎて疲れるぐらいだ。もし、あいつがアリアなんかと一緒になったら……考えるだけで、すげー疲れる」

「君が、アリア避けているのはそのためだったんだね」

「ま、アリアはあいつに夢中で俺なんかは眼中にないだろうけどな」


 いつの間にか他愛のない話をしていると、ウェイトレスが少し震えながらもこちらへと近づいてくる。


「ご、ご注文はお決まりでしょうか?」


 まだ空気が低いのもあるが、クルスから異様なものを感じているのだろう。だが、接客は続けなくてはならない。

 震えながらも、メニューを持っているクルスに問いかける。


「コーヒーとサンドイッチ。あ、コーヒーは冷たいやつな」


 ウェイトレスのほうを見ることなく、注文をしメニューを投げる。


「あ、アイスコーヒーに、サンドイッチですね。では、しばらくお待ちください」


 まるで、その場から逃げるように去って行くウェイトレス。徐々に気温が温かさを取り戻してきたが、それでも、異様な空気は漂い続けている。

 注意しても気を抑えないクルスを見て、まったくとため息を漏らしながらも会話を続けるギルヴァード。


「で? あいつと一緒に暗殺をするのは、どういう魂胆なんだ? まさか、引退するからてめぇの技をあいつに教えようっていうのか? それは、それでライバルが強くなるから、俺は嬉しいがな」

「相変わらず、晃のことをライバル視しているようだね」

「たりめぇだろ。同じ時期に暗殺者として始めたのは、もちろんだが。あのアリアの弟子だぞ? 他の暗殺者達も、それを聞いて騒いでいたそうじゃねぇか。しかも、めちゃくちゃ珍しい能力を持っているしな。俺は、争う奴が居るほうがやる気が出るんだよ」


 楽しそうだ。実に楽しそうだ。確かに、クルスの言うように、あのアリアが弟子をとったというのはすぐに暗殺者達の間で噂となった。

 弟子など一切とらないような凄腕の暗殺者として、知られていたアリア。そのアリアが、まったくの素人をなぜか弟子として育てている。

 誰もが、その弟子である晃を注目していたのだ。


「……残念だが、私はまだ引退もしないし、晃に技を教えるつもりもないよ」

「そうかい。まあ、どーでもいいがな。俺的には、引退する前に、俺と殺し合いをしてほしいものだがな」

「そういうことは、こういう場所ではあまり言わないようにしたほうがいい」

「はいはい」


 ギルヴァードから注意を受けたところで、ウェイトレスが注文したアイスコーヒーとサンドイッチを持ってきた。

 少しは落ち着いたようだが、まだ表情が硬い。


「お待たせしました。アイスコーヒーとサンドイッチ、です」

「あんがと」

「では、ごゆっくり」


 テーブルに並べられたサンドイッチをまず一口齧り、アイスコーヒーを飲む。


「そういえば、あの双子がこの街に来るんだってさ。知ってたか?」

「もちろんだ。近々、一騒動起きそうだね」

「楽しそうだな」

「まあね。あの光景を見るのは飽きないからね。君もどうだろう? 混ざってみるのは」


 ギルヴァードの提案に、クルスは冗談だろ? と眉を顰めながらサンドイッチを一気に口の中に放り込み、アイスコーヒーで流し込む。


「パス。あんなところに居たら、お前らのお気楽さに汚染されかねないからな。……ごちそうさん」


 アイスコーヒーを飲み干したところで、ギルヴァードに何も告げず近くを通り掛ったウェイトレスに代金を支払い、足早に去って行く。

 ギルヴァードは苦笑しつつ、カップに入っている紅茶を見詰め。


「付き合いが悪いね、相変わらず。あ、君。すまないが、紅茶をもう一杯頂けるかな?」


 完全に冷えてしまった残りの紅茶を飲み、新たな温かい紅茶をウェイトレスに注文した。

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