第九話「家族の絆」
夕方、グヴァル邸で雇われている、いや無理やりメイドとして働かされている少女達は休憩室でひと時の休息を取っていた。。
そこでグヴァルにより、無理やり連れて来られた少女達が愚痴を零したりをしている真っ最中。
少女達は、働くことには文句はない。
だが、外に自由に出れない、買い物もできない。欲しいものは、全て買ってきてもらう。
おまけに、奇妙な服を着せられ、セクハラをもされる。
少女達は、愚痴を零さないとやっていけない状態だった。
最近では、グヴァルに体を犯された少女も出てきて、不安がる少女達。
逃げたい。
でも逃げれない。
一度、逃げようとした少女達が居た。
見張りの位置を知り、何時に休憩するなどを知り、逃げた。だが……捕縛され、その後の逃げ出した少女達の姿を見た者は誰もいない。
それにより、恐怖でも少女達を縛り付けた。
「はあ……いつまでこんなところに居るんだろう」
「もうやだ。この服。スカートの丈が短すぎるし。あの親父はいかがわしい目で見てくるし」
「……」
「リリエ、どうしたの? さっきから無言だけど」
「無理もないよ。慣れてきた私達でもそうなのに、昨日入ってきたばかりなんだもん。気持ちはわかるよ」
「あ、いや。そうじゃないんです。ちょっと、お兄ちゃんが心配で」
俯きながら、気恥ずかしそうに言うリリエ。
栗色の髪の毛が、似合うまだ年端もいかない少女が、今頃、兄は何をしているのかと心配をしている。 それを聞いた先輩な少女達は、にやにやと笑う。
愛らしい生き物を見ているかのように。
「そうかそうかー。エルルちゃんはお兄ちゃんが大好きなんだね~」
「そ、そんなんじゃ……ないですけど」
完全に否定できず、言葉を詰まらせ、頬を赤く染める。
「もう! 可愛いなぁ。抱きしめちゃおう~!」
「わっ! ちょ、先輩っ!?」
先ほどまでの暗い雰囲気から一変して、どこにでもある少女達のあどけない笑顔が満ちた。
「ねえ? エルルのお兄さんってかっこいい? 優しい?」
「え? えと……かっこいいですし、やさしいです」
「うらやましいなぁ。いいなー。そんなお兄ちゃんが居て。私、一人っ子だから、お兄さんと憧れるよー」
「そうだ! かっこいいで思い出したんだけど」
「なになに?」
一人の少女が何かを思い出したかのように叫ぶと、皆興味を示す。
まるで、自慢するかのように少女は高らかに語っていく。
「まだ、ここに連れて来られる前なんだけど。私、友達の家に遊びに行っていて、ちょっと帰りが遅くなっちゃったの。それでね、近道をしようと思って、裏道を通ったんだけど……運悪く、襲われちゃって」
「え? そ、それで? それから、どうやって生き延びたの?」
今こうして生きているということは、普通に助かったのだろうが。どうやって、助かったのかが気になっている。
「それがね! 月からの使者様が助けてくれたの!!」
その時のことを思い出し、テンションが上がり、目を輝かせる。
聞いている少女達は「月からの使者様?」と首を傾げるが、話をしている少女のテンションはまだまだ上がる。
「私が、襲われているところに颯爽と現れ! 悪い人達を千切っては投げ! 千切っては投げ!! 月をバックに仮面で素顔を隠したあなたは誰なのか……。その甘い言葉は、自然と恐怖していた私を落ち着かせたの。そして、私は言った! 「あなたは誰なの!」と。しかし、何も答えてはくれなかった。ただただ、月を見つめ無言で去って行くあなた。あぁ……このときめく感情は何? もしかしてこれは……恋? ―――というわけなんだけど。どう?」
椅子の上にまで立ち、演説のような白熱とした語りをした少女は、黙って聞いていた仲間達にどうだったかを問う。
一時、しんと静まり返っている空間。
あれ? 語った少女が首を傾げると、少女達は一斉に同じ言葉を吐いた。
《長いよ!!》
「えへへ、ごめーん! ちょっと、熱く語りすぎちゃったかな?」
「け、結局、その人は何だったの?」
話は長かったが、興味を示せる話だった。
「仮面を被っていたって言っていましたけど」
「そうだねぇ。なんだか、黒いコートを着込んでいたね。後は、白い仮面だったかな? なんだか黒色の目が片方だけあってちょっと怖かったのを覚えてる」
「……本当にその人大丈夫なの? 実は危ない人なんじゃ」
実は、騙されているんじゃないのか心配になってきている。
素顔を隠し、名前すら名乗らない黒いコートの使者。
怪しさが滲み出ている。
助けてくれたので、そこまで悪い人ではないのだろうが。
「大丈夫だよ! だって、私を助けてくれたんだよ? それに「ここは危険だ。灯りのある表通りを進め」って心配もしてくれたし!」
だが、助けられ心配の言葉までかけられた少女は完璧に堕ちている。
少女達は「もう駄目だ……」とため息。
「ねえ、その特徴で思い当たる節があるんだけど」
「何っ!!」
「え、えっと、その人って【ブラッド】っていう暗殺者じゃないのかな?」
《暗殺者?》
その響きに、少女達は顔を見合わせる。
「最近、噂になっているんだけど。どうやら、お金を払って、依頼をすれば人間だろうが機械だろうが、必ず殺しに来るんだって」
「そ、そんな人が居たんですか。知りませんでした」
驚きの情報を聞いたリリエを含めた少女達は騒ぎ始める。
「ねえ。もし、その話が本当だったら……グヴァルも依頼すれば殺してくれるのかな?」
一人の発言に少女達は静まり返る。
グヴァルを殺す。
そうすれば、この嫌なところから開放され、自由になれる。そう、自由に。
「で、でも、どうやって依頼をすればいいのか。わからないんだよ?」
「だ、だよね」
「でもさ。もし、暗殺の依頼をしてくれた人が居たら……こんな生活からおさらばできるよね」
「お母さんに会いたいなぁ」
「私は、お父さんかな」
それぞれ、離れ離れになり、今すぐ会いたい人のことを思い浮かべる。
もし、誰かが暗殺の依頼をしてくれたのなら。
早く自由になりたい。
「皆! 交代の時間だよ!!」
今まで働いていた子が休憩中の少女達の叫ぶ。
それを聞いた少女達は、切り替えて立ち上がる。
いつの日にか、助けが来ることを信じて。
《はーい!!》
・・・・・☆
リリエは、グヴァルの呼び出してでグヴァルの自室へときていた。
薄暗く、雰囲気のある空間にリリエは体を震わせる。
「良く来たね、エルル」
「何か御用でしょうか? 旦那様」
椅子にどっかりと座っていたのは、太った短髪の男。すでに風呂に入ったらしく、今は真っ白なバスローブに身を包んでいた。
リリエの体を舐めまわすに見詰めた後、椅子から立ち上がり、近づいていく。
「実はね、お前の事は少し調べさせてもらった。お前は、平民でありながらどこか気品のようなものを感じてね。そして、調べて驚いたよ。まさか、貴族と平民の子だったとは。両親は早死にし、頼れるのは平民である母親の知り合いの家。大変だったろう……平民の家で暮らすのは」
手に持っていたグラスをテーブルに置き、リリエの肩に手を置く。
「い、いえ。そんなことは」
「だが、もう心配はいらない。ワシが君を救ってやろう。……ふむ」
「な、なんでしょうか?」
グヴァルは、再度体を舐めるように凝視する。
それに、リリエは怯え、体を縮こませた。
「お前は、本当に可愛いなぁ。まだ十三だったか?」
「は、はい。来月で十四になります」
「そうかそうか。では、誕生日祝いをワシが贈ってやろう」
「あ、ありがとうございます。―――え? きゃあっ!? な、何をするんですか!?」
突然、手を引かれベッドに押し倒される。
グヴァルはすでに欲望を剥き出しだ。リリエをベッドへと押さえ込みメイド服を破き、その未成熟な体を露にさせた。
「ワシが、誕生日プレゼントとして大人にしてやろうというのだよ」
「そ、そんなの。い、いりません!」
体を激しく動かすも、びくともしない。グヴァルは、ただ太っているだけではなく意外と筋力もあるようだ。
いや、やはり体格の差だろうか? やはり、力では勝てないようだ。
「叫んでも無駄だ。誰も、お前を助けるてくれる者などいないのだからな」
「そんなことありません! お兄ちゃんが……お兄ちゃんが居ます!!」
グヴァルを睨みつけ、涙目になりながらも叫ぶリリエ。
が、グヴァルは鼻で笑う。
「あの臆病者のことか? はっはっはっは!! 無理だ! 無理!! あの臆病者は、お前が連れ去れる時も腰を抜かしていたではないか! そんな男がどうやって助けに来るというんだね?」
太ももを摩りながら、馬鹿にする言葉を吐くグヴァル。
リリエは、その暴言に恥ずかしさより、兄を馬鹿にされたことが許せなくて声を張り上げた。
「お兄ちゃんは、臆病者じゃない! お兄ちゃんはいつだって、私に優しくしてくれた! 血が繋がっていなくても、本当の妹じゃなくても……私を護ってくれた! だから……だから、きっとお兄ちゃんは助けに来てくれる!!」
「それは無理な話だ。ただの平民がここに辿り着くことはない。いったいどれだけの警備兵が居ると思っているんだ。さて、さっそくだが、そのおいしそうな体をいただくとしよう」
獲物を狙う獣のような眼光と涎。
その魔の手がリリエを襲おうとする。
「―――お兄ちゃん!!!」
助けて。
想い込めた声は。
「リリエー!!!」
「ごあっ!?」
届いた。どこからともなく現れた少年。ラルドは、グヴァルの顔を殴り、リリエから遠ざける。ボールのようにベッドから転がり落ちたグヴァルは、衝撃で倒れたグラスから零れたワインが顔へと豪快にかかる。
「リリエ! 助けに来たぞ!」
「お、お兄ちゃん!!」
「リリエ!!」
やっと会えたと抱き合う二人。その後ろでは、ワインで汚れ、更に顔を殴られたことで口が切れたグヴァルが、のっそりと立ち上がる。
「く、くそ。貴様! いったいどこから入ってきた!」
「窓から入ってきたんだよ! 無用心に鍵を閉めないでおくからこうなるんだ! 例え、血が繋がっていなくてもリリエは俺の家族なんだ! 家族がピンチだったら、どこからでも助けに来るさ!!」
「二階の部屋にするべきだったか……いや、それよりも警備は何をしていたんだ!!」
警備の者は、いない。
いや、いなくなったというのが正しいだろうか。そこへ、ラルドは余裕で潜入し、窓から部屋へと入りリリエを助けたに来れたのだ。
「だが、これからどうする気だ?」
ベッドに近くにあった棚から拳銃を取り出し、二人へと銃口を向ける。ラルドは、リリエを庇うように前に出るが。
その必要はなかった。
「こうするんだ」
「なっ、に……?」
背後よりの一撃。
腹部を一突きされ、グヴァルは口から血を流し、拳銃を床に落とす。闇より、襲ったのは、片目だけの白い仮面と黒いコートがトレードマークの暗殺者。
足音すらばく現れた彼に、ラルド達も驚くも、すぐ安堵する。
「き、貴様! その仮面……そうか。さすがは、臆病者……こんな屑に、暗殺の依頼をするとはな」
「死ぬ」
「ごほあっ!?」
最後に、斜め上に切り上げ心臓を両断。
グヴァルは、大量の血を流しベッドに倒れる。
「あ、あの」
感謝の言葉を言おうとするラルドだったが、暗殺者は踵を返す。
「行け」
「え?」
ただ短く、言葉を残し部屋から出て行こうとする。
「ま、待ってください! あなたは、どうするんですか?」
「もう一仕事をする。……妹を、家族を大切にしろ」
「は、はい!!」
そして、暗殺者は屋敷を駆け抜けていく。
その後、グヴァルの屋敷に連れ去られた少女達は無事に自由になれた。
少女達が言うには「仮面を被った人が助けてくれた」との揃って語っていた。
それを聞いたラルドリリエは、今どこにいるのかわかんらないその仮面の人へと最大級の感謝を報酬と共に送ったそうだ。




