#1
おや、お客さんとは珍しいことだね。
いらっしゃい。こんなところに迷い込むだなんざ、なんかしらのお困りごとがあるようだね。
なぁに、取って食やしないさ、お代はそれなりに頂くがね。
店の中をゆっくり見るもよし、そのへんのものは手にとっても構わないが、気をつけなよ。下手に触ると呪われるものもあるからね。
……冗談だよ、そんな危ないものはちゃんとしまってあるさ。こっちのカウンターの中にも多少はあるが、だいたいは秘密の場所にしまってあるのさ。
さてと。
あんたに必要なもんはそこにはないよ。
んん?なんでわかるかって?そんなもんわかりゃしないよ。あんたがどういう気持ちでここにたどり着いたのか、知ったこっちゃあない。
ただね。
あんたの顔を見りゃ、そのへんに積んである魔法書や薬じゃあ解決しない。魔法使いの勘、さね。信じるも良し、信じないのも良し。何でも構わないさ。
……ここを訪れるのは……見つけられるのは……人生に迷った人だ。
例えば。国を追われた貴族、戦争に負けた王様、処刑されそうになった魔女、盲目に仕えた主人に反目した騎士。裏切りに裏切りを重ね自分さえも裏切った聖者。全てを手に入れた男。絶世の傾城。恋に破れた美女。夢に破れた美男子。自殺未遂を繰り返す少女。
そんな人らが訪れては2度と扉を叩かなかった。この店はそんな場所なんだ。
人生は長い。……迷うななんて方が無理なのさ。迷って良い。迷って迷って迷い続ける。最初から最後まで迷う。大概の人は迷う。
そして、ここを訪れるのは、迷って迷ってこんがらかっちまった迷いビトだけさ。
さあさあ、お前さん。お前さんの悩み事は、なんざね?
……ふうむ。なるほどね。
いやいや、そんなことはないさ。お前さんの悩みが軽いって訳じゃあない。1歳児には親が世界の全てかも知れないが、だから良いも悪いもないだろう。世界の大小に貴賤はないのさ。
そうさね。お前さんはこれを持って行きなさい。あぁ、カウンターの中から出しはしたが、呪われてやしないよ。
その腕輪はきっとお前さんの役に立つはずさ。
いやいや、それは誰かにやったり売ったりしちゃダメだよ、お前さんが着けるのさ。役には立つだろうさ。
ひとつ条件があってね。
明日からは顔を上げて胸を張るんだよ。アドバイスはそれだけさ。お前さんには、その腕輪が付いているからね。
んん?
ああ、この指輪が気になるかい?
ほうほう、なかなかどうして。ふむふむ。何となく?まあそうだろうね。お前さんの目に本当のところは映ってはいないだろう。
残念そうな顔をしなさんな。上級の魔法使いしか読み取れないんだ。お前さん、良い感性をしている。
……仕方ないね、少し、昔話をしようかね。




