おかあさんの虎刈り
きょうはとてもいやなひ。
おかあさんがおふろばでしんぶんしをひろげている。
おかあさんがぼくをよぶ。
「ようちゃん、かみのけきるよ。こっちきなさい」
「いやだ」
ぼくはうごかない。
おかあさんはくちをとがらせる。
「ようちゃん、わがままいわない。おかあさんがきってあげるからはやくきなさい」
「いやだ、いやだ、いやだ。ぼくもおとうさんみたいにとこやさんにいって、かみきりたい」
ぼくはこぶしをにぎりしめた。
おかあさんはおおきくためいきをつく。
「おとうさん、ちょっと!」
おかあさんがおおきなこえでおとうさんをよんだ。
おとうさんがテレビのへやからあらわれた。
「なんだ?」
「おとうさん、ちょっとすわって」
おとうさんはおふろばのいすにすわった。
おかあさんはすぐにあなのあいたビニールぶくろをおとうさんにかぶせた。
おとうさんのめがまるくなる。
「おいおい、なにはじめるんだ?」
「ようちゃんがとこやいくってわがままいうから、あたしがあなたのかみをきる」
「えっ?えっ?」
おかあさんのめがつりあがった。
おかあさんのめをみたおとうさんはうごかなくなった。
おかあさんがバリカンをてにとる。
「おとうさん、めつむって」
「はい」
おとうさんはめをつむった。
ウィーン!
バリカンのスイッチをいれたおかあさん。
バリカンがおとうさんのあたまをなぞっていく。
どんどんおちていく、おとうさんのかみのけ。
「あっ。でも、まだだいじょうぶね」
「ちょ、ちょっとだいじょうぶかい、おかあさん?」
「ほら、うごかないで!てもとがくるっちゃう」
おかあさんはバリカンをうごかしていく。
「バリカンのじかん、ながくないか?」
「え?だいじょうぶだって。もう、きがちるからだまって」
「はい……」
おかあさんはバリカンでおとうさんのかみをきっていった。
しばらくするとバリカンのおとがきえた。
「はい、おわり」
「おわりって、バリカンだけでおわりってことないだろう?」
「み、みればわかるから。ちゃんとおわってるって」
「ほんとかい?」
おとうさんはめをあけて、かがみのまえにむかった。
あいたくちがふさがらない、おとうさん。
「おい、これぼうずじゃないか?」
「ははは…… きりすぎちゃったからこんなになっちゃって。でも、にあうわよ」
「にあうわよっていわれても……」
「ごめんね」
おかあさんはすこししたをだした。
「おかあさん、このちょうしでようちゃんのかみきるのかい?」
「そうね…… ちょっとあぶないかもね…… おとうさん、ようちゃんをとこやさんにつれていってあげてくれる?」
「わーい!」
ぼくはとびあがった。
ぼくはおとうさんととこやにいくことになった。
とこやさんにつくと、ひげのおじさんがしんぶんをみていた。
「いらっしゃい。きょうはようちゃんもいっしょかい?ていうか、どうしたの、そのあたま?」
「こんにちは。ちょっと、いろいろあってね。おやっさん、きょうはようちゃんのかみきってくれない?」
「おう。ようちゃん、はじめてのとこやさんだな。こっち、きな」
「うん!」
ぼくはおおきないすにすわった。
おおきなかがみ、おおきなせんめんだい。いつもとちがうふうけいだ。
おじさんがハサミをてにする。
「おじさん、バリカンは?」
「ようちゃんはこどもだから、バリカンはいらないよ。ハサミでちょちょちょってかっこよくきってあげるよ」
「うん」
おじさんがハサミでぼくのかみをきっていく。
チョキチョキ、チョキチョキ。
ハサミのおとがきもちいい。
しばらくするとハサミのおとがとまった。
「ようちゃん、おわったよ。め、あけてごらん」
「うん」
めをあけて、おおきなかがみでみたぼくのかみはいつもとちがってきれいになっていた。
おとうさんがぼくのところにやってきた。
「ようちゃん、すごくかっこいいね」
ぼくはおとうさんのかみがかわったのにきづいた。
「おとうさん、いろどうしたの?」
「ああ、かみのいろをちゃいろにそめたんだ。かっこいいだろう?
「ううん、あんまり」